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127 勇太が期待されるのは、むしろ閉会式
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9月29日、日曜日。
パラ西記念体育館で行われた柔道新人戦が終わった。
あとは閉会式のみだが、誰も帰らない。
デビュー前から注目されている勇太絡みのユニット、純子&風花が、会場に来ていて歌うことになっている。
柔道連盟会長の鬼塚一子が先に手を回していて、勇太作・カオルのテーマソング、そしてCD化未定の数曲を依頼した。もちろん謝礼付き。
レコード会社とも、すでに話をしているという、仕事の早さだ。
勇太を連盟に取り込むための策略の一環。
かつて勝負の鬼と呼ばれた鬼塚は現役引退後、大学、日本代表などで監督を務め采配が光った。
最終目的は勇太を連盟の広告塔にすること。
純子は子供中心に人気がある。8月末にメインボーカルの『パンの歌』を売り出して、10月から子供番組の公開録画などに参加する。
学校行事さえ参加できないほど、オファーが来ている。
鬼塚の狙いは風花。今のところ不安定な立ち位置にある風花の足場固めに力を貸せば、勇太に恩を売れると考えている。
勇太は自分の利益で動きそうなタイプに見えない。
今日の1曲目に決まっているのは、前世の今川薫が好きだった歌。今やパラレルカオルと柔道女子のテーマソングになっている。
純子と風花も、ギャラありで経験を積ませてもらえるので大歓迎だ。
そうすると、勇太も鬼塚一子のもくろみ通りにユニットの手伝いをすることに決めた。
参加選手である勇太がプレゼンテーターをやった閉会式は、あっさり終った。
団体戦は茶薔薇学園、個人戦13階級のうち9階級の優勝者も茶薔薇の選手。そしてルナも優勝した。
なので興奮して勇太にハグを求めてきたのは3人だけ。残りの女子は、『早く終らせろ』のプレッシャーにより自重した。
「おめでとう花木ルナ選手。頑張りましたな、おっほん」
「ぷっ、ごめんなさい勇太。思わず笑っちゃった」
「おめでとう今川カオル選手。お祝いにチューしましょうか」
「や、やめろよ勇太。人前だぞ」
うけけけと、悪い笑を浮かべる勇太。
そのまま、ルナとカオルの手をつかんで歌が始まった。驚く2人に悪戯っぽく微笑む勇太。早くも歓声が上がる会場。
♩♩♪♩♪♪♩♪♪♪♪♩
風花のギターの音色が体育館に鳴り響く。そして最初は純子が歌い始めた。
柔道女子は、この歌の歌詞をみんな知っている。
カオルとルナもマイクを向けられて歌い始め、次々と個人戦の優勝者にマイクを回していった。
そして、大合唱になった。
大拍手のあと風花のギターで純子が4曲歌い、最後に勇太がラグビーの応援ソングを歌詞改竄した『終りなき挑戦』で締めた。
すごい盛り上がりになった。
大会の規模を考えると、大変なことだ。
ネット上では多くの文句が飛び交った。
『勇太君のラグビー表彰式へのレンタル求む』
『勇太君、他の新人戦でも歌って下さい』
『野球女子です。私にも曲を作って下さい』
この辺は、まだいい。
『パラレル市ばっかりズルい』
『県北だけじゃなくて、県南大会にも勇太君を分けて下さい』
『県西大会も同じ意見』
『県東大会は、静かに終わりました』
『差別だああ!』
などなど。
1時間後、バドミントンの新人戦を終えた梓と仲間も合流して、大規模な打ち上げなった。
パラ西駅前のファミレスを占拠している。
その中でネットの反応を見て、みんなで苦笑している。
歌の反応は、おおむね良かった。
パラレル父さん風花Dカップの知名度が早くも上がっていて、パンの歌の純子のパートナーとして認識されてきた。
勇太が安心しているのは、その点。
そして柔道連盟会長の鬼塚一子に感謝のメールを送った。相手の思う壺だ。
「風花さん、今日もうちに来るんだよね」
「うん、葉子さんが筑前煮を作ってくれるってさ。すんげえ楽しみ」
「葉子義母さんの歌でも作ろうか」
「う~ん、私も考えたんだけど形にならないんだよね」
「そっか・・」
「けど、歌のイメージはあるんだよな」
「どんなの?」
「私と葉子さん、梓、そんで勇太の4人の曲だね」
「え・・」
「はは、私だけ家族じゃないのに、不思議だよ」
確かに不思議だ。確かに勇太の前世に照らし合わせると風花が父、葉子が母、勇太が長男、梓が長女だった。
今のパラレルな4人は、全くもってそんな関係じゃない。
なのに何かを風花も感じるのだろうか、それとも歌を考えていて偶然にイメージが沸いたのだろうか。
間違っていたとしても、風花にも家族の絆を感じられることが嬉しい勇太だ。
パラ西記念体育館で行われた柔道新人戦が終わった。
あとは閉会式のみだが、誰も帰らない。
デビュー前から注目されている勇太絡みのユニット、純子&風花が、会場に来ていて歌うことになっている。
柔道連盟会長の鬼塚一子が先に手を回していて、勇太作・カオルのテーマソング、そしてCD化未定の数曲を依頼した。もちろん謝礼付き。
レコード会社とも、すでに話をしているという、仕事の早さだ。
勇太を連盟に取り込むための策略の一環。
かつて勝負の鬼と呼ばれた鬼塚は現役引退後、大学、日本代表などで監督を務め采配が光った。
最終目的は勇太を連盟の広告塔にすること。
純子は子供中心に人気がある。8月末にメインボーカルの『パンの歌』を売り出して、10月から子供番組の公開録画などに参加する。
学校行事さえ参加できないほど、オファーが来ている。
鬼塚の狙いは風花。今のところ不安定な立ち位置にある風花の足場固めに力を貸せば、勇太に恩を売れると考えている。
勇太は自分の利益で動きそうなタイプに見えない。
今日の1曲目に決まっているのは、前世の今川薫が好きだった歌。今やパラレルカオルと柔道女子のテーマソングになっている。
純子と風花も、ギャラありで経験を積ませてもらえるので大歓迎だ。
そうすると、勇太も鬼塚一子のもくろみ通りにユニットの手伝いをすることに決めた。
参加選手である勇太がプレゼンテーターをやった閉会式は、あっさり終った。
団体戦は茶薔薇学園、個人戦13階級のうち9階級の優勝者も茶薔薇の選手。そしてルナも優勝した。
なので興奮して勇太にハグを求めてきたのは3人だけ。残りの女子は、『早く終らせろ』のプレッシャーにより自重した。
「おめでとう花木ルナ選手。頑張りましたな、おっほん」
「ぷっ、ごめんなさい勇太。思わず笑っちゃった」
「おめでとう今川カオル選手。お祝いにチューしましょうか」
「や、やめろよ勇太。人前だぞ」
うけけけと、悪い笑を浮かべる勇太。
そのまま、ルナとカオルの手をつかんで歌が始まった。驚く2人に悪戯っぽく微笑む勇太。早くも歓声が上がる会場。
♩♩♪♩♪♪♩♪♪♪♪♩
風花のギターの音色が体育館に鳴り響く。そして最初は純子が歌い始めた。
柔道女子は、この歌の歌詞をみんな知っている。
カオルとルナもマイクを向けられて歌い始め、次々と個人戦の優勝者にマイクを回していった。
そして、大合唱になった。
大拍手のあと風花のギターで純子が4曲歌い、最後に勇太がラグビーの応援ソングを歌詞改竄した『終りなき挑戦』で締めた。
すごい盛り上がりになった。
大会の規模を考えると、大変なことだ。
ネット上では多くの文句が飛び交った。
『勇太君のラグビー表彰式へのレンタル求む』
『勇太君、他の新人戦でも歌って下さい』
『野球女子です。私にも曲を作って下さい』
この辺は、まだいい。
『パラレル市ばっかりズルい』
『県北だけじゃなくて、県南大会にも勇太君を分けて下さい』
『県西大会も同じ意見』
『県東大会は、静かに終わりました』
『差別だああ!』
などなど。
1時間後、バドミントンの新人戦を終えた梓と仲間も合流して、大規模な打ち上げなった。
パラ西駅前のファミレスを占拠している。
その中でネットの反応を見て、みんなで苦笑している。
歌の反応は、おおむね良かった。
パラレル父さん風花Dカップの知名度が早くも上がっていて、パンの歌の純子のパートナーとして認識されてきた。
勇太が安心しているのは、その点。
そして柔道連盟会長の鬼塚一子に感謝のメールを送った。相手の思う壺だ。
「風花さん、今日もうちに来るんだよね」
「うん、葉子さんが筑前煮を作ってくれるってさ。すんげえ楽しみ」
「葉子義母さんの歌でも作ろうか」
「う~ん、私も考えたんだけど形にならないんだよね」
「そっか・・」
「けど、歌のイメージはあるんだよな」
「どんなの?」
「私と葉子さん、梓、そんで勇太の4人の曲だね」
「え・・」
「はは、私だけ家族じゃないのに、不思議だよ」
確かに不思議だ。確かに勇太の前世に照らし合わせると風花が父、葉子が母、勇太が長男、梓が長女だった。
今のパラレルな4人は、全くもってそんな関係じゃない。
なのに何かを風花も感じるのだろうか、それとも歌を考えていて偶然にイメージが沸いたのだろうか。
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