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125 三つ子はじゃれ合う
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パラ高柔道部、計10人の新人戦。
個人戦は9人が1回戦を突破した。勇太だけ脱落したのだった。
寂しいが、茶薔薇学園の人や他校の人も慰めにきてくれる。
勇太も、男子には簡単に同情が集まる世界だと、きっちり認識するようになった。
だからこそ、久々に数人の女の子に厳しいことを言った。
「俺は1回戦で負けたけど、対戦したハラダさんが全力で戦ってくれた結果だから。そういうことは、2度と口に出さないで欲しい」
これを3回ほど言った。
10分ほど前、カオルから聞いた。
勇太を柔道でなく歌で知ったファンの人が、勇太をぶん投げた茶薔薇学園ハラダに嫌みを言ったそうだ。
畳を降りると気弱な乙女になるハラダ。怒るどころか泣きそうになっていて、カオル達が女子を蹴散らしたとか。
芸能人でもない勇太は、有名税なんて言葉は使わない。
柔道で自分と真摯に向き合ってくれるハラダへの余計なヘイトが見逃せない。
似た経験をしているはずの伊集院君に、対処方を聞いてみようと思う。
◆
応援に回った勇太は忙しい。体育館を仕切って6つの試合場が作ってある。
そこで13階級の個人戦が一気に進行している。
2回戦で新入部員の5人がみんな負けた。48キロ級、51キロ級、48キロ級、54キロ級、60キロ級だ。そのたびに勇太が会場を走り回って、ねぎらっている。
「負けたけど頑張ったな」。ハグして背中をぱんぱん。これを2人。
「もうちょっとだった。見てたぞ」。ハグして背中をぱんぱん。
「よしよし、頑張ったな」。ハグして背中をぱんぱん。これも2人。
そのたびに、勝った選手から、『勝った私へのご褒美は・・』の声が聞こえる。そしてナマ勇太を見たことがない女子がざわつく。
ルナは勝ち上がっていった。
今回は54キロ級のルナにチャンス到来。茶薔薇学園のV候補筆頭・イズミヤエコと違うブロック。
その上に、強い選手がみんなイズミと当たる勝ち上がりになっている。無作為抽選の妙である。
ルナは準決も余裕を持って勝ち上がっていった。決勝進出で相手は順当にイズミ。
その前に、マルミ、タマミ、キヨミの1年三姉妹。計ったように同時に体重が55キロに増えて、今回から57キロ級。
57キロ級は、結果からいくとダークホースの原西高校2年生が優勝した。
本命は茶薔薇学園カクタ選手だったが、2回戦から手の内を知られている三姉妹と当たって消耗してしまった。
2回戦。マルミ戦で5分間戦わされた。優勢勝ち。
準々決勝のタマミ戦でも寝技たっぷりの5分で優勢勝ち。
準決勝のキヨミ戦でも攻められ続けた。返し技でキヨミが負けたが、試合時間は4分半。
体力、神経ともにすり減らした直後の決勝戦、くたくたのカクタは、奇襲の朽ち木倒しで負けた。
なぜか勇太がハグしてカクタを慰めた。
「キヨミ達が貢献して大番狂わせだ・・あれれ」
勇太は、久々に前世のデジャブを感じた。
3人が話している。
「キヨミ、私達が弱らせたんだから、あんた勝てよな」
「そのために、私もマルミも尊い犠牲になったでしょ」
「負け惜しみ・・」
「なんですって~」
「ちくしょう、くすぐってやる」
「やめれ~」
みんなで笑っている。
前世の高1のときの、インターハイ予選だ。
勇太が入ったばかりの柔道部の応援に行った。病気を発症する直前。
そのときの80キロ前後の先輩3人が同階級で個人戦に出た。
3人ともトーナメントで同じ選手に負けて、終わったあとに、目の前で三姉妹が繰り広げているような軽口を言い合っていた。
そのときの勇太の先輩3人が気になっていた。
長谷タマキ170センチ、谷川ミキマル176センチ、川長キヨシ184センチだった。体重は近くても、身長と体型が違っていた。もちろん顔も。
前にも感じることがあった。その3人がこちらの世界では長谷川タマミ、長谷川マルミ、長谷川キヨミではないかと思っている。
3人は、そっくりな美少女で身長155センチ、体重55キロのショートヘアで揃っている。
「色んなパターンのパラレル人物を見つけたけど、この名前合成パターンもありなのかな」
すでに驚かないが苦笑する勇太だ。
前世の先輩3人は、年下のパラレル美少女に変わったのか、ここは何だか確信が持てない。
だって申し訳ないが、その先輩3人の中にハンサムがいなかったもの。
今までと違い、パラレル人物だと確信できるモノがない。
だけど前世の先輩は優しかった。入部数か月で病魔に倒れた勇太を長く気遣ってくれた。
3人が率先して呼び掛け、部の人達と一緒に『坂元勇太』と胸に縫い込まれた柔道着をプレゼントしてくれた。
あの優しかった3人の先輩が、この世界では目の前の3人ならいいなと思っている。
「キヨミ、惜しかったな」
「負けた・・」
「また頑張ろうな、3人とも」
「そうっすね~」
「勇太先輩、元気下さ~~い」
3人にハグして、クッキーを口に放り込んだ。
やっぱりどこかで、三姉妹を甘やかしてしまう勇太だった。
個人戦は9人が1回戦を突破した。勇太だけ脱落したのだった。
寂しいが、茶薔薇学園の人や他校の人も慰めにきてくれる。
勇太も、男子には簡単に同情が集まる世界だと、きっちり認識するようになった。
だからこそ、久々に数人の女の子に厳しいことを言った。
「俺は1回戦で負けたけど、対戦したハラダさんが全力で戦ってくれた結果だから。そういうことは、2度と口に出さないで欲しい」
これを3回ほど言った。
10分ほど前、カオルから聞いた。
勇太を柔道でなく歌で知ったファンの人が、勇太をぶん投げた茶薔薇学園ハラダに嫌みを言ったそうだ。
畳を降りると気弱な乙女になるハラダ。怒るどころか泣きそうになっていて、カオル達が女子を蹴散らしたとか。
芸能人でもない勇太は、有名税なんて言葉は使わない。
柔道で自分と真摯に向き合ってくれるハラダへの余計なヘイトが見逃せない。
似た経験をしているはずの伊集院君に、対処方を聞いてみようと思う。
◆
応援に回った勇太は忙しい。体育館を仕切って6つの試合場が作ってある。
そこで13階級の個人戦が一気に進行している。
2回戦で新入部員の5人がみんな負けた。48キロ級、51キロ級、48キロ級、54キロ級、60キロ級だ。そのたびに勇太が会場を走り回って、ねぎらっている。
「負けたけど頑張ったな」。ハグして背中をぱんぱん。これを2人。
「もうちょっとだった。見てたぞ」。ハグして背中をぱんぱん。
「よしよし、頑張ったな」。ハグして背中をぱんぱん。これも2人。
そのたびに、勝った選手から、『勝った私へのご褒美は・・』の声が聞こえる。そしてナマ勇太を見たことがない女子がざわつく。
ルナは勝ち上がっていった。
今回は54キロ級のルナにチャンス到来。茶薔薇学園のV候補筆頭・イズミヤエコと違うブロック。
その上に、強い選手がみんなイズミと当たる勝ち上がりになっている。無作為抽選の妙である。
ルナは準決も余裕を持って勝ち上がっていった。決勝進出で相手は順当にイズミ。
その前に、マルミ、タマミ、キヨミの1年三姉妹。計ったように同時に体重が55キロに増えて、今回から57キロ級。
57キロ級は、結果からいくとダークホースの原西高校2年生が優勝した。
本命は茶薔薇学園カクタ選手だったが、2回戦から手の内を知られている三姉妹と当たって消耗してしまった。
2回戦。マルミ戦で5分間戦わされた。優勢勝ち。
準々決勝のタマミ戦でも寝技たっぷりの5分で優勢勝ち。
準決勝のキヨミ戦でも攻められ続けた。返し技でキヨミが負けたが、試合時間は4分半。
体力、神経ともにすり減らした直後の決勝戦、くたくたのカクタは、奇襲の朽ち木倒しで負けた。
なぜか勇太がハグしてカクタを慰めた。
「キヨミ達が貢献して大番狂わせだ・・あれれ」
勇太は、久々に前世のデジャブを感じた。
3人が話している。
「キヨミ、私達が弱らせたんだから、あんた勝てよな」
「そのために、私もマルミも尊い犠牲になったでしょ」
「負け惜しみ・・」
「なんですって~」
「ちくしょう、くすぐってやる」
「やめれ~」
みんなで笑っている。
前世の高1のときの、インターハイ予選だ。
勇太が入ったばかりの柔道部の応援に行った。病気を発症する直前。
そのときの80キロ前後の先輩3人が同階級で個人戦に出た。
3人ともトーナメントで同じ選手に負けて、終わったあとに、目の前で三姉妹が繰り広げているような軽口を言い合っていた。
そのときの勇太の先輩3人が気になっていた。
長谷タマキ170センチ、谷川ミキマル176センチ、川長キヨシ184センチだった。体重は近くても、身長と体型が違っていた。もちろん顔も。
前にも感じることがあった。その3人がこちらの世界では長谷川タマミ、長谷川マルミ、長谷川キヨミではないかと思っている。
3人は、そっくりな美少女で身長155センチ、体重55キロのショートヘアで揃っている。
「色んなパターンのパラレル人物を見つけたけど、この名前合成パターンもありなのかな」
すでに驚かないが苦笑する勇太だ。
前世の先輩3人は、年下のパラレル美少女に変わったのか、ここは何だか確信が持てない。
だって申し訳ないが、その先輩3人の中にハンサムがいなかったもの。
今までと違い、パラレル人物だと確信できるモノがない。
だけど前世の先輩は優しかった。入部数か月で病魔に倒れた勇太を長く気遣ってくれた。
3人が率先して呼び掛け、部の人達と一緒に『坂元勇太』と胸に縫い込まれた柔道着をプレゼントしてくれた。
あの優しかった3人の先輩が、この世界では目の前の3人ならいいなと思っている。
「キヨミ、惜しかったな」
「負けた・・」
「また頑張ろうな、3人とも」
「そうっすね~」
「勇太先輩、元気下さ~~い」
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