モブ顔の俺が男女比1対12のパラレルワールドに転生。またも同じ女の子を好きになりました

とみっしぇる

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221 ファミリーの前で我慢しなくていい

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勇太は間門嘉菜、吉田真子の嫁ズカップルとお昼ご飯を食べている。

真子は1回だけ1対1のデートしたが、嘉菜はゼロ。

パラレル勇太が原因だった嘉菜の間門家と勇太のトラブルに、法律的に決着が付いたのは11月9日。

けれど、そこから法的手続きなどがあり、本当の足かせがなくなったのが1か月後。

その時には嘉菜が一番仲良しな姉妹の由乃が病気になっていて、嘉菜は浮かれている場合ではなくなった。

クリスマスイブのチャリティーイベントも由乃の容体次第では嘉菜は断るつもりだった。

大きく回復した由乃に背中を押されて、嘉菜は初めて勇太ファミリーの活動に参加したという訳だ。


『マカド』の次期当主として家や家族のために我慢をしてきた嘉菜。

勇太の嫁になるという大きな希望は叶えられる。

しかし調停から間がなかった11月18日の自分の誕生日祝いも断った。その後も他の嫁ズのように勇太から尽くされることを自重している。

やっぱり我慢の生活は継続中だった。


12月28日の今、色々と失念していた勇太は反省した。

11月の17日までは、調停等が完全解決したら12月19日の真子の誕生日に、嘉菜のプレゼントも一緒に買いに行こうと思っていた。

だけど梓、由乃が続けて倒れ、それを2人に言うことさえ忘れていた。


勇太はご飯を食べながら、それを謝った。

嘉菜は笑った。

「いえ、問題ありません。真子ちゃんの誕生日の時点では由乃の容体も大丈夫とは言えませんでした。だから、誘ってもらってもお断りしていたと思います」

「それでも、忘れちゃいけないことだった。ごめんね」

「真子ちゃんが自分の誕生日に私も一緒にって気遣ってくれましたが、断りましたしね」

「・・そうなんだ。我慢させたのか・・」

「違います。ふふふ」

嘉菜は右手を伸ばした。中指には勇太にもらった恋人リングがはまっている。

「姉妹に色んなものをあげてきたり、譲ったりしたけど・・」

嘉菜の笑顔から嘘偽りを感じない。

「これだけは私のもの。欲しいと言われても断れます。だから今は、すごく満たされてます」


嘉菜は9月3日に勇太の歌を聞いてファンになった。

ただ知り合いになれたらと思っていたら、紆余曲折の末に吉田真子と一緒に勇太と結婚することになった。

「情熱的な恋愛はできないけど、勇太さん、見捨てないで下さいね」


話しながらご飯を食べ終わって、3人で外を歩いている。

再び図書館に行く2人を送っていっている。

図書館の前に来たとき、真子が先を歩き出した。

「嘉菜さん勇太君、私、嘉菜さんの車から荷物取ってくるね」

嘉菜は自分の車で来るから、真子が一緒のとき昼食前に車に荷物を置いている。返事も聞かず真子が走って行った。


たまたま図書館の前には誰もいない。

雪がちらついてきた。

「嘉菜さん、寒くない?」
「かなり・・」

けれど嘉菜は真っ直ぐ立っている。彼女の生き方そのもの。

寒いけど我慢する嘉菜。

そんな嘉菜に勇太があげられるものはひとつだけ。

勇太は嘉菜を引き寄せた。そして抱き締めた。

「あっ・・」
「嫌だった?」

「・・いえ、ぜんぜん」
「それなら、これからは俺に我が儘言いなよ」

「・・あの」

「俺がバカで、また誕生祝いを忘れてたら、怒っていい」

「そ、そんなつもりは」

「由乃さんのことで気持ちも不安定だったでしょ」

「・・そ、それは、こちらの問題で」

「委員長も支えになってくれるだろうけど、俺らにも甘えてよ」

「けれど、私は間門の家があり、その次期当主としての立場があります。だからファミリーの中での役割は・・」

「役割なんて気にしなくていいよ」
「え?」

「カオルは柔道が何より優先。それに俺らが合わせる。嘉菜さんも、自分のスタンスでみんなと接すればいいんだよ」

「それでは妻のひとりとして・・」

「嘉菜さんは自分のペースでいい。仕事優先でもいい。会いたいと思ったら連絡ちょうだい。俺達が会いに行く」

えっ、と嘉菜は勇太を見上げた。優しい目で見てくれる。

緊張するのは変わらないけど、知らない安らぎが心の中に沸いてきた。勇太の声が心地よく響く。


知らない間に張り詰めていた。

由乃の病気治療が困難かも知れないと思ったときも、大泣きする姉妹を慰めて気持ちを出せなかった。

その前には1度、家のために勇太を諦めようとした。

我慢した。我慢に慣れていた。

いや、慣れている自分を演じていた。

今、勇太の腕の中。取り繕うにも逃げ場がない。

逃げ場がないから素直になるしかない。

なんというか、勇太は嘉菜の肩から力が抜けるのを感じた。

「私・・」
「うん」

「冷静なふりしてたけど、由乃が死ぬんじゃないかって怖かった」

「うん」

「みんなに祈ろうって言ったけど、本当は叫びたかった」

平坦に聞こえる声。辛いときも作ってきた喋り方。

この人は不器用だと勇太は思った。

「子供の頃は、もっとお父さんの膝に乗りたかった・・」
「うん」

「もう、笑い方も分からないときがある・・」
「無理に笑わなくてもいいよ」

「ごめんなさい。せっかく気を使ってくれるのに、こんか可愛げがない態度で・・」

「いいんだ・・。俺達が嘉菜さんが笑えるように頑張るからさ」

嘉菜が勇太の胸に顔をうずめている。

張り詰めたものは、少しずつ溶かしていくしかない。


いつの間にか、通りかかる人も出てきた。

勇太は嘉菜との仲をアピールしようとか余計なことを考えていたことを忘れた。

上を向いた嘉菜に、勇太は唇を合わせた。


しばらく、そのままでいた。

雪が静かに降っている。


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