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110 前世の家族を想う詩

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ギタリスト風花と知り合った。

勇太の中では、パラレル父さんと断定している。

食事が終わり、勇太、純子、風花で近くの公園に出た。

繁華街の近くで、公園にはプチイベント用の小ステージがある。

「純子、風花さん、暗くなってきたけど、まだいいかな。女の子を、こんな時間まで引っ張って悪いんだけど」

「いや、私も純子ちゃんも女だから問題ない。むしろ男子の勇太君が危険な時間帯でしょ」

「風花さん、勇太君って、たまに変なこと言うんだよ」

「優しいけど、勇太君って魔性の男だな~」

そう、また貞操観念の逆転を忘れかけていた勇太だった。

「まあ、そこは気にしないで。風花さんに弾いてもらいたい曲があるんだ。こんなの。♩♪♩♩♪」

前世の『きっと会える』という再会を願う歌を口ずさんだ。

「ん、こうかな」

ポロ~んとギターを鳴らす風花と、それを聞いてリズムを取る勇太。

「ごめん風花さん、今のところ、もう一回」
「うん、勇太君には、こんな感じが合うかな」
「あ、そっちがいいね~」

繁華街近くにある公園。ギターの音と勇太の声を聞きつけて、女の子が集まって来た。

あっという間に20人。スマホも早くもセットされ、集まった人を見て、さらに女の子が増えている。

「あ、エロカワさんだ」
「もしかして、勇太君のゲリラライブ」
「純子ちゃんとギターの人もいるよ」
「外でやるんだ。ラッキー」
「なんか聞いたことないフレーズ。新曲っぽい」

「どうも~。これから僕がこの2人に楽曲を提供することになりました。純子&風花さんでユニットを作ります」

パチパチパチパチと拍手を貰った。

「何曲か歌ってもらいますが、最初だけ僕が、できたてホヤホヤの曲を披露しまーす!」

どんどんギャラリーが増えている。

「いくよ!」

風花が、一回だけ強く弦を弾いて、スタートの合図。みんなが静かになった。

静かに風花の指が動き出した。

「♩♪♪♪♩♪♩♩」

「またねと~♪♩♩告げた君の♩♪♪♪」

1度聴いただけで、風花はイントロを奏でてくれた。

前世の風太と比べると技術は風花の方が格段に上。だけど、なぜか父親の音色を思い出した。

勇太が、子供の頃から何度となく聴かされた歌だ。

前世の父親・風太が妻の葉子に、最初に聴かせた曲。

歌の歌詞は、ずっと離れてたけど、会えると信じていた。そんな構成だ。

歌いながら勇太は2年前を思い出した。

前世で当時19歳だった勇太は、もう歩くことはできなかった。最後かもしれない一時帰宅で病院を出て、自宅で家族と食卓を囲んだ。

梓と葉子がご飯を作り、2人が見えるテーブルに勇太と風太が向かい合って座っていた。

以前なら普通だったけど、この時には特別になってしまった家族の団欒。

葉子と梓が明るく弾んだ声を出していた。固形物は食べられなくなっていた勇太だったけど、好きな物が目の前に並んでいって喜んだ。

そして父・風太が、この歌を口ずさんでいた。

勇太も途切れ途切れの声で、一緒に歌っていた。

視力だけは正常だった勇太は、背を向けて料理を作っていた葉子が、肩を震わせながら嗚咽していたのを覚えている。


風花と知り合った。前世の家族のパラレル人物は父、母、妹に該当する人を3人とも見つけた。

だけど今現在の、あちらの世界のことを考えると胸が締め付けられる。あっちでは、家族の食卓から勇太が欠けてしまった。

あちらの世界を自分が旅立って、もうすぐ4か月。みんな笑えているだろうかと思う。

一緒懸命に育ててくれたのに、親孝行もできなかった。

複雑な気持ちが女神印の響く声に乗ってしまった。

サビを歌うときには声が震えた。純子がコーラス、風花がギターアレンジでフォローしてくれた。


歌が終わったとき、いつの間にか人だかりができていた。そして沢山の拍手をもらった。

泣いてくれる女の子もたくさんいた。


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