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109 今度の世界でも寂しいギター弾き
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勇太の前世の父親は、家庭に恵まれず育った。
両親と3人暮らしだったそうだ。だけど風太が10歳のとき、家庭が破綻した。
原因は両親双方の浮気。風太は母親に引き取られた。
小学4年生の2学期から名前が周防風太になり、母親も間男と付き合ったままで、次第に家に帰ってこなくなった。
幸いに最低限の金銭はもらって、食事には困らなかった。だけどコンビニ弁当などが主食。
美形で明るく振る舞えたため、心の中の穴を悟られず数年間を過ごした。
しかし、中3になると夕御飯を誰かと食べることもなくなった。孤独な時間にはギターを弾いていた。
父親が置いていったアコースティックギターの弦を触り、少しずつ弾き方を覚えた。
そんなときに、夕方のコンビニでクラスメイトの坂元葉子とばったり会った。
小学校も一緒で、気後れせずに話せる程度には近い関係だった。
「あれ、風太だ」
「・・なんだ坂元葉子か」
普段の明るいキャラと違う。バツが悪そうだった。手に持っているのは暖めてもらう前のカレーライス。
「風太、今日はコンビニ飯?」
「・・今日もだよ」
葉子は、失言に気付いた。風太の家庭の事情は多少なりとも知っていた。
「ごめん、風太」
「・・いや、お前悪くないし」
「そうだ。カレーは棚に返して、うちにおいでよ。こっから近いからさ」
「え?」
「肉じゃか、私が大量に作ったんだよ。食っていきなよ」
母・葉子はあとから考えると、なぜ父・風太を家に連れて帰ったか分からないと笑っていた。
風太は、なぜか未来の妻・葉子に付いていった。
ご飯を御馳走になる回数が増えた。葉子にだけは、本音で話すようになっていた。
葉子は、風太にギターを弾いてもらった。普段の明るいキャラが奏でる、悲しい歌に惹かれた。
同情からスタートしたけれど、きちんと愛情に育っていった。
やがて2人は結婚し、風太は母親と実質的な縁切りをして、名字を周防から坂元に変えた。
父親は、その昔話を笑いながらしてくれた。
「そんで葉子に似た子供が欲しいって願ったら、葉子そっくりの勇太が生まれたんだよ」
美形の風太からそれを聞いたモブ顔勇太は、神様に余計ことお願いすんな、バカ親父。本気でそう思った。
普通の子供と違う家庭の話。勇太は、成長とともに父親の子供時代の辛さを理解していった。
時として、無理矢理にでも明るく振る舞う姿が成長した勇太の心に刺さった。
その表情は、知り合ったばかりの父親のパラレル人物・周防風花とそっくりに見える。
風花は、場所を変えたイタリア料理店の個室の一室で話し始めた。
勇太ファミリーのグループLIMEでも知らせた。ご飯を作ってくれる梓には謝った。
純子も一緒だ。純子と風花は、これから最低1年間は一緒に仕事をする。
純子は、会うのは3度目。多少の事情を知っていてもいいだろうと思った。
「母さん3人の中の、私を産んでくれた母さんが死んでね・・」
風花の母親は、元警察官。同僚と女性3人婚をした。
しかし、風花が11歳のとき産みの母親が職務中に殉職。残る2人の母親が育ててくれたが、ムードメーカーだった風花の母親が欠けて、関係がギクシャクし始めた。
残った母親が風花の中学卒業と同時に離婚した。
2人の母親は、どちらも引き取る気があると言ってくれた。だけど、どちらの母親にも自分が人工受精で産んだ子供がいた。
家は血の繋がりがある母子2組で分かれて、そこに風花が居候していた感じだった。どちらを選んでも自分の居場所はないと感じた。
風花は独り暮らしを選んだ。
お金は、保険金も含めた亡くなった母親のお金を丸々渡された。離れた母親2人も、多少の支援はしてくれる。
プラス、アルバイトで小遣いを稼ぎ、風花は学校に通っている。
金銭的な不安は少なくても、きっと風花は孤独だ。
定期的に2人の母親や姉妹とは会っている。だけど、この世界の欠陥が風花の現状に孤独感を浴びせている。
本当の親族がいないに等しい。血が繋がった祖母は亡くなり、人工受精で産まれたから父親も特定できない。
「大学生になったら独り暮らしのやつも多いし、むしろ高校時代より友達との交流はあるね」
ふふっ、と笑う風花の顔が、前世の風太と似ている。勇太は切なくなった。
パラレル父さんに今世で会えるなら、今度こそ家族に恵まれていて欲しいと思っていた。
こればかりは女神に文句を言いたい勇太。
モヤモヤした気持ちを吹き飛ばすため、近くの公園で3人で歌ってみようかと提案した。
両親と3人暮らしだったそうだ。だけど風太が10歳のとき、家庭が破綻した。
原因は両親双方の浮気。風太は母親に引き取られた。
小学4年生の2学期から名前が周防風太になり、母親も間男と付き合ったままで、次第に家に帰ってこなくなった。
幸いに最低限の金銭はもらって、食事には困らなかった。だけどコンビニ弁当などが主食。
美形で明るく振る舞えたため、心の中の穴を悟られず数年間を過ごした。
しかし、中3になると夕御飯を誰かと食べることもなくなった。孤独な時間にはギターを弾いていた。
父親が置いていったアコースティックギターの弦を触り、少しずつ弾き方を覚えた。
そんなときに、夕方のコンビニでクラスメイトの坂元葉子とばったり会った。
小学校も一緒で、気後れせずに話せる程度には近い関係だった。
「あれ、風太だ」
「・・なんだ坂元葉子か」
普段の明るいキャラと違う。バツが悪そうだった。手に持っているのは暖めてもらう前のカレーライス。
「風太、今日はコンビニ飯?」
「・・今日もだよ」
葉子は、失言に気付いた。風太の家庭の事情は多少なりとも知っていた。
「ごめん、風太」
「・・いや、お前悪くないし」
「そうだ。カレーは棚に返して、うちにおいでよ。こっから近いからさ」
「え?」
「肉じゃか、私が大量に作ったんだよ。食っていきなよ」
母・葉子はあとから考えると、なぜ父・風太を家に連れて帰ったか分からないと笑っていた。
風太は、なぜか未来の妻・葉子に付いていった。
ご飯を御馳走になる回数が増えた。葉子にだけは、本音で話すようになっていた。
葉子は、風太にギターを弾いてもらった。普段の明るいキャラが奏でる、悲しい歌に惹かれた。
同情からスタートしたけれど、きちんと愛情に育っていった。
やがて2人は結婚し、風太は母親と実質的な縁切りをして、名字を周防から坂元に変えた。
父親は、その昔話を笑いながらしてくれた。
「そんで葉子に似た子供が欲しいって願ったら、葉子そっくりの勇太が生まれたんだよ」
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時として、無理矢理にでも明るく振る舞う姿が成長した勇太の心に刺さった。
その表情は、知り合ったばかりの父親のパラレル人物・周防風花とそっくりに見える。
風花は、場所を変えたイタリア料理店の個室の一室で話し始めた。
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純子も一緒だ。純子と風花は、これから最低1年間は一緒に仕事をする。
純子は、会うのは3度目。多少の事情を知っていてもいいだろうと思った。
「母さん3人の中の、私を産んでくれた母さんが死んでね・・」
風花の母親は、元警察官。同僚と女性3人婚をした。
しかし、風花が11歳のとき産みの母親が職務中に殉職。残る2人の母親が育ててくれたが、ムードメーカーだった風花の母親が欠けて、関係がギクシャクし始めた。
残った母親が風花の中学卒業と同時に離婚した。
2人の母親は、どちらも引き取る気があると言ってくれた。だけど、どちらの母親にも自分が人工受精で産んだ子供がいた。
家は血の繋がりがある母子2組で分かれて、そこに風花が居候していた感じだった。どちらを選んでも自分の居場所はないと感じた。
風花は独り暮らしを選んだ。
お金は、保険金も含めた亡くなった母親のお金を丸々渡された。離れた母親2人も、多少の支援はしてくれる。
プラス、アルバイトで小遣いを稼ぎ、風花は学校に通っている。
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ふふっ、と笑う風花の顔が、前世の風太と似ている。勇太は切なくなった。
パラレル父さんに今世で会えるなら、今度こそ家族に恵まれていて欲しいと思っていた。
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