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108 今度こそ家族が揃った

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勇太にギター演奏の深みは分からない。

だけど、父親風太のパラレル人物、風花のギターを気に入った。

それに、物言いの軽さとか口調に父親を思わせるものがある。

今世ではDカップの21歳。

父さんと呼びたいけど、呼んだら頭をはたかれそうだ。

演奏をしたパラレル総合芸術大学の食堂で勇太と純子は、父親のパラレル人物・周防風花とお茶を飲んでいる。

当然のように、周りのテーブルに女子がたくさんいて、中には風花に目配せしている人もいる。

パステルで『勇太君を紹介してくれ』と、ポップ風に書いた紙を掲げた人もいた。

風花自身は、勇太を雇い主として見ている。邪念やスケベ心はなく、まだテストは続いていると思っている。

だから、パラレル父さんに邪念が沸かない勇太からしたら話しやすい。

「純子、いい人と会わせてくれたね。ありがとう」
「でしょ。気に入ってくれて安心した」

「ああ~、良かった。決定権持ってる勇太君に、ダウト言われたらどうしよかってドキドキだったよ」


「いや、風花さんには会いたかったから、それはないですよ~」

「え?」「え?」


勇太は、ギタリストよりもパラレル父さんという意味で、熱がこもった言い方になった。

「え、初対面だよね、私達。いや~、照れるね。なんか愛の告白されてるみたいだよ。経験ないけどさ、あっはっは」

純子が、あれれ、という感じだ。

ルナには聞いていたし、体験した。姉のルナ、梓、カオル、それに加えて自分と伊集院君は、勇太の中で何かが違う。

過去の勇太との間に、それぞれ思い出があったかのような接し方をされる。

梓が言う、勇太の『特別』を感じる。

純子が、それをなおさら感じるのは、麗子と一緒にいるから。

もちろん勇太は麗子にも優しい。親の病気を本気で気にかけるほどだ。

だけど純子と麗子に、あえて線引きをするなら、純子だけがルナ、梓、カオルの方にいる。

接点がなかったはずなのに、勇太に再会を喜ばれる『こちら側』

だけど麗子、あとは茶薔薇の桜塚ハルネやパラ高1年の三つ子、タマミ、マルミ、キヨミは、違う。

勇太と親しいし、純子より接点が多い子もいるのに、『あちら側』なのだ。

風花は、勇太の『こちら側』の匂いがする。

今日が、勇太と風花の初顔合わせだからこそ分かる。

ルナと純子の姉妹も、初めて勇太と話したときから、懐かしい人に会ったかのような対応をされた。

だから、勇太は風花に色んなことを聞いている。

「風花さん連絡先教えて下さい」

「OK、よろしくね」

「じゃあ、風花さんの都合いい時間帯に、歌作りしましょう」

勇太としては、かなりテンションが上がっている。そして思い付いた。

今はパラレル葉子、パラレル梓と3人で暮らしている。

風花を呼べば、前世の勇太の家族がそろう。親子の4人家族と呼べない構成で勇太の自己満足だけど、風花を招いてみたいと思った。

「風花さん、良かったら近いうちに家に来ませんか」

食堂内が、ざわっとした。

え、いきなり男子の自宅?
風花って、勇太君と初対面って言ってたよね。
美人だけど、女性経験しかないって言ってたよ。
風花~、私も~一緒に誘え~や~~。

声楽の人なのか最後に、やたら声が通る人もいる。

どうも勇太は、ルナ、カオルのときといい、大切な人のパラレル人物に会うと、周りが見えなくなるようだ。

「打ち合わせだけじゃなく、俺や従妹で作ったご飯でも食べていって下さいよ」

「え、え~と、私が行っていいのかな。家庭の味なんて久しぶりだから、ありがたいけどね」

「あ、風花さんって、大学から家を出て独り暮らしですか」


「・・まあね」
初対面で物怖じしない風花が、ちょっと目を伏せた。

勇太は、いきなり冷静になった。

突然の歯切れの悪さ。それを見た勇太は、嫌な予感がした。

まさかと思った。


「立ち入った話ですが、もしかして風花さん、独り暮らし長いんですか?」

「ん?ん~。まあ色々とあって高1のときから独り暮らしなんだよね。まあ、お金は親に支援してもらってるから大丈夫だけどね」

聞いた勇太の方が、ショックを受けた。

「風花さん、ちょっと場所を変えませんか」

「え、どうした勇太君」

明らかに勇太は動揺している。

その勇太を見た風花と純子の方が驚いている。

ギャラリーも、何が起きているのか分からない。


勇太が動揺したのは、風花の生い立ちに不穏なものを感じたから。

前世の父親・旧姓周防風太と同じく、恵まれなかった子供時代を感じた。

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