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91 いきなり欲深くなった勇太

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8月10日の午前9時。

カフェでない喫茶店で、勇太はルナと純子の双子姉妹を伴ってスーツ姿の40歳前後の女性と話をしている。

例によって興味深げに見ている女性はいるが、女性は焦げ茶色のスーツ。完全なビジネススタイル。

カオルへのプロポーズ以降、『勇太の妻4人目』候補が注目されているけれど、彼女ではなさそうだ。

ちなみに、今日も勇太は午前2時から稼働中。

早朝までパン屋。そのあと午前8時からパラ横商店街でプチコンサート。子供のために、純子、麗子と3人で歌った。

ただ勇太が参加する日は、明かにママさん連中が多い。

今はその後の時間帯。

この喫茶店のあとは、さぼり気味だった勉強をするためにルナと図書館へ向かう。そして3時からリーフカフェで働く。

カフェでは、夏休みに入って特に勇太のシフトのことを聞かれる。確実に仕事に入る日がボードに書いてある。

このボードは店内にある。それを確認しに来た人がドリンクを買ってくれたりする。


さて喫茶店。勇太とルナだけでなく、純子も同席している。

30代女性が口を開く。女性はレコード会社関連で、勇太のマネジメントをしてくれている。

伊集院君の紹介だから、無条件に信頼している。

「『パンの歌』のCDサンプルをお持ちしました」


等身大のゴブリンパンな着ぐるみと、メインボーカルの純子が肩を組んでいる。

その周りに勇太、ゴブリン作者、伊集院君とその婚約者3人、ルナ、梓、カオルがパン屋の店員さんの格好をして、並んでいる図柄だ。

ゴブリン作者は無料でデザインを使わせてくれた。条件は、男子2人と一緒に撮影に加わることだった。

勇太の前世パクり歌を、純子メインで歌った子供の向けで全10曲。


「8月30日に緊急リリースとなりますが、すでに、これほどの販売予約が入っております」

数字を見て、目を丸くする純子。

「そして有料ダウンロードによる収益などを込みにすると、12月に振り込まれる金額は、花木純子さんと坂元勇太さんで折半して、最低でもこの程度かと」

ルナ、純子で声を出した。思っていたより桁がひとつ違った。

「それで、3点程、お話しておきたいことがあるのですが」

1点目は勇太絡み。

気軽に歌っている歌の何曲かを正式な作品として作る提案。

インターハイ会場で勇太がカオルのために歌った曲に反響が大きかった。それは民放でも流れた。

すると複数の大物アーティストから、コラボしたいと打診があるそうだ。

2点目は純子のこと。

フリーの高校生だけど、子供のアイドル的な存在になっている。

かつてセッ●スクイーンと呼ばれたことは問題にならない。むしろアーティストになるのなら、箔がつく世界だ。

純子の歌はカラオケレベルでも声がいい。義理の兄になる予定の勇太も、純子のためなら前世歌をパクる気でいる。

知名度が上がっているし、本格的にボイストレーニングを受けてみないかということだった。これは純子も前向き。


最後は税金のこと。

間違いなく勇太と純子の、来年以降の税金が多額になる。2人とも18歳未満の未成年なので、親と相談して税理士等の用意をすることが必要だと言われた。

勇太は葉子義母さんがカフェの経営者なので、同じ税理士にやってもらえるか相談。

純子も両親が自営業なので、父親に話を持っていく。

場合によっては、レコード会社から紹介してくれるという。

「純子、やっぱり昨日、お父さんが言ってた話だったね」
「だね。今もらった資料、帰ったらお父さんに見てもらうよ」

2人が笑顔で話している。

会話を聞いていると、純子は姉のルナだけでなく両親とも仲良くやっているようだ。

2日前に今回のことのお礼を言いに、ルナと純子の両親が勇太に会いに来た。

親子の関係はいいそうで、勇太はそっちの方に安心した。

◆◆
純子は麗子が待つパンのウスヤに帰った。明日はいよいよ、麗子の入院しているハル母さんが帰ってくるので、準備するそうだ。

勇太はルナと2人になり、今は図書館のロビー。

ルナがちょっと意外だったことがある。金銭欲がなさそうな勇太がレコード会社の人に利益について詳細に聞いていたこと。

最初は純子と、その恋人の麗子のためだと思った。

だけど、自分の利益に関する話になると、勇太にしては熱が入り出した。

勇太は普段は欲を出さない。

精子提供の対価でお金は十分だと以前は言っていた。義理の母となった葉子のカフェでは、無償で働く気だった。

現在もカフェでアルバイトの最低賃金で働いている。無償の手伝いもたくさんしている。

だから、この著作権関連の金銭への執着ぶりは何か疑問を感じた。


ルナは、ストレートに聞いてみた。

やっぱり、それがルナだ。

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