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83 もったいない的な、お化け爆誕
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インターハイが終わった。
勝った不知火は喜んでくれる自分の陣営に手だけ振って、そちらに戻らなかった。
そしてカオルの背中に手を添えた。
カオルは、準決勝で痛めた左腕が限界。歩くだけでも、その振動で激痛だろう。足を一歩踏み出すと、次の一歩がなかなか出ない。
だけど、不知火に付き添われながら、自分の足で試合場を降りてきた。
飛び出しそうになった梓も、カオルと目が合って足を止めた。自分で戻るから待っててくれと言われているようだった。
一歩ずつ歩いてくるカオルをみんなで見ている。
カオルの柔道部の仲間もたくさんいる。だけどなんとなく、勇太達を前に出してくれた。
畳スペースの外に、左から桜塚ハルネ部長、伊集院君、梓、勇太、ルナの5人で並んでカオルを待っていた。
「部長、せっかく勇気をくれたのに・・アタイ、部長みたく、ジャイアントキリングできんかった」
「馬鹿野郎、お前がいたから私は泥臭くてもサクラに勝てたんだ。てめえは来年、華麗にリベンジしろや」
「ははっ、落ち込む暇もくれねえな」
「おめえも、私が泣いてもサボらせてくれんかった。それが、長年の私達の関係だろ」
「違いない・・」
カオルは笑った。
カオルは試合前も思ったけれど、本当に幸せだなと思った。仲間もいる。
そして縁がないと思っていた彼氏彼女が3人もできた。
そして、思い出した。だから、やつらの前で勝ちたかった。
すると、涙が出てきた。
観客席のギャラリー達は黙って不知火とカオルを見ている。
そしカメラを回しているテレビクルーは、カオルが勇太の胸の中に飛び込む瞬間を撮り逃さないように神経を研ぎ澄ましている。
男女比1対12の世界で、少女漫画の中でしか起こらないと思っていたシチュエーション。
なんだか夢や希望がある。
伊集院光輝君まで、いつの間にか茶薔薇陣営に加わっている。
余計なことを考えるテレビクルーは、カオルが伊集院君の胸に飛び込んでも絵になるな、なんて邪念が沸いている。
また一歩、カオルが前に出た。手を伸ばせば、みんなと触れあえるくらいの距離だ。
「お疲れ、カオル」
「頑張ったよね、カオル」
「カオル君、頑張ったね」
勇太、ルナ、伊集院君がねぎらった。だけど梓は何も言わない。
いや、梓は何も言えない。
ぽろぽろと涙を流して嗚咽している。
「泣いてくれるんか、梓」
「・・・うえっ」
「しゃーねーな。来年はもっと頑張って、最後に笑わせてやるよ」
ギャラリーは次のカオルの行動で「あれ?」とハモった。
カオルはみんなが期待した通り、ファミリーと抱き合っている。けれど・・・勇太じゃない。
相手が梓だ。
えええええーーー!と体育館が揺れるほど、どよめいた。
右手だけを梓の背中に回したカオル。梓は思いきりカオルを抱き締めている。
2人だけの世界だ。
勇太も伊集院君も、ルナも桜塚部長も納得している。茶薔薇柔道部員も暖かい目で見ている。
今の勇太ファミリーの中では梓とカオルが、特に親密度が高い。このカオルのチョイスも、さもありなんと思っている。
ただ、理解している人間は、2000人近いギャラリーの40人もいない。
エロカワ勇太とハンサム伊集院君、どちらでも選べる贅沢仕様なのに、カオルはそこに行くの?
そんな風にざわついている。
贅沢だ、いらねえならくれ、なんだそりゃあ、と悲鳴が上がる。
ああああああ、と声が沢山上がる。
観客席のどこからか、地の底から響くような声が聞こえてきた。
「勇太君がいるのに、もったいなーい」
「伊集院君もいるのに、もったいなーい」
「もったいなーい」「もったいなーい」
「もったいなーい」「もったいなーい」
「もったいなーい」「もったいなーい」
「もったいなーい」「もったいなーい」
呪詛のような言葉が、3分くらい響いていた。
勇太は前世で、そんな名前のお化けがいたなと思った。
あとで調べたら、この世界にはいなかった。まさか、パラレル世界ではカオルの行動が語源になるのかと、驚く未来がある。
カオルと梓を見守っている勇太の背中が、ちょんちょんとつつかれた。ニコニコ笑顔のルナだ。
ルナの横にはなぜか、不知火マイコさんが立っている。
「あ、あの怪我していたカオルには悪いのですが、勝つことができました・・」
「だって、勇太」
なんだか、こっちはこっちで、一方的だったが簡単な約束をさせられたなと思い出した。
自分程度のハグなんかのために、全国制覇までした健闘をたたえた。
「不知火さん。優勝おめでとうございます」
「はあん、なんだか、力強くていい匂い」
余談だが、この男同士の抱擁に見えるシーンは、久々に腐った女子のハートを刺激した。
ぎゅっとして、なかなか不知火が離してくれないなと思っていると、11人の女子が並んでいる。
「え、えーと、この列は・・」
「各階級の優勝者です!」
先頭の身長180センチ、87キロ超級優勝者のマルヤマミツコが満面の笑顔で答えてくれた。
そういえば、勇太は66キロ優勝の桜塚ハルネ部長をハグした。そして今、63キロ級優勝の不知火マイコをハグしている。
どうやら、勇太が優勝のご褒美にハグをしてくれると思われたようだ。
勇太は、こんなもんで申し訳ないと思いながら、ハグをやり始めた。
閉会式会場にもなる場所で始まったハグ大会。
注意されたらやめようと思ったら、全階級の個人戦優勝者を勇太がハグし終えてから、閉会式になった。
ついでにサービス精神旺盛な伊集院君が、勇太のハグを終えた優勝選手と握手をしていた。
その流れから1人ずつ表彰されていた。まるで勇太ハグ、伊集院握手が最初から閉会式プログラムにあったかのように、流れていった。
閉会式後、勇太は運営委員会に会場をハグ大会に使ったことを謝りに行った。
しかし逆に連盟トップの鬼塚一子はじめ、役員さん一同に感謝された。
勝った不知火は喜んでくれる自分の陣営に手だけ振って、そちらに戻らなかった。
そしてカオルの背中に手を添えた。
カオルは、準決勝で痛めた左腕が限界。歩くだけでも、その振動で激痛だろう。足を一歩踏み出すと、次の一歩がなかなか出ない。
だけど、不知火に付き添われながら、自分の足で試合場を降りてきた。
飛び出しそうになった梓も、カオルと目が合って足を止めた。自分で戻るから待っててくれと言われているようだった。
一歩ずつ歩いてくるカオルをみんなで見ている。
カオルの柔道部の仲間もたくさんいる。だけどなんとなく、勇太達を前に出してくれた。
畳スペースの外に、左から桜塚ハルネ部長、伊集院君、梓、勇太、ルナの5人で並んでカオルを待っていた。
「部長、せっかく勇気をくれたのに・・アタイ、部長みたく、ジャイアントキリングできんかった」
「馬鹿野郎、お前がいたから私は泥臭くてもサクラに勝てたんだ。てめえは来年、華麗にリベンジしろや」
「ははっ、落ち込む暇もくれねえな」
「おめえも、私が泣いてもサボらせてくれんかった。それが、長年の私達の関係だろ」
「違いない・・」
カオルは笑った。
カオルは試合前も思ったけれど、本当に幸せだなと思った。仲間もいる。
そして縁がないと思っていた彼氏彼女が3人もできた。
そして、思い出した。だから、やつらの前で勝ちたかった。
すると、涙が出てきた。
観客席のギャラリー達は黙って不知火とカオルを見ている。
そしカメラを回しているテレビクルーは、カオルが勇太の胸の中に飛び込む瞬間を撮り逃さないように神経を研ぎ澄ましている。
男女比1対12の世界で、少女漫画の中でしか起こらないと思っていたシチュエーション。
なんだか夢や希望がある。
伊集院光輝君まで、いつの間にか茶薔薇陣営に加わっている。
余計なことを考えるテレビクルーは、カオルが伊集院君の胸に飛び込んでも絵になるな、なんて邪念が沸いている。
また一歩、カオルが前に出た。手を伸ばせば、みんなと触れあえるくらいの距離だ。
「お疲れ、カオル」
「頑張ったよね、カオル」
「カオル君、頑張ったね」
勇太、ルナ、伊集院君がねぎらった。だけど梓は何も言わない。
いや、梓は何も言えない。
ぽろぽろと涙を流して嗚咽している。
「泣いてくれるんか、梓」
「・・・うえっ」
「しゃーねーな。来年はもっと頑張って、最後に笑わせてやるよ」
ギャラリーは次のカオルの行動で「あれ?」とハモった。
カオルはみんなが期待した通り、ファミリーと抱き合っている。けれど・・・勇太じゃない。
相手が梓だ。
えええええーーー!と体育館が揺れるほど、どよめいた。
右手だけを梓の背中に回したカオル。梓は思いきりカオルを抱き締めている。
2人だけの世界だ。
勇太も伊集院君も、ルナも桜塚部長も納得している。茶薔薇柔道部員も暖かい目で見ている。
今の勇太ファミリーの中では梓とカオルが、特に親密度が高い。このカオルのチョイスも、さもありなんと思っている。
ただ、理解している人間は、2000人近いギャラリーの40人もいない。
エロカワ勇太とハンサム伊集院君、どちらでも選べる贅沢仕様なのに、カオルはそこに行くの?
そんな風にざわついている。
贅沢だ、いらねえならくれ、なんだそりゃあ、と悲鳴が上がる。
ああああああ、と声が沢山上がる。
観客席のどこからか、地の底から響くような声が聞こえてきた。
「勇太君がいるのに、もったいなーい」
「伊集院君もいるのに、もったいなーい」
「もったいなーい」「もったいなーい」
「もったいなーい」「もったいなーい」
「もったいなーい」「もったいなーい」
「もったいなーい」「もったいなーい」
呪詛のような言葉が、3分くらい響いていた。
勇太は前世で、そんな名前のお化けがいたなと思った。
あとで調べたら、この世界にはいなかった。まさか、パラレル世界ではカオルの行動が語源になるのかと、驚く未来がある。
カオルと梓を見守っている勇太の背中が、ちょんちょんとつつかれた。ニコニコ笑顔のルナだ。
ルナの横にはなぜか、不知火マイコさんが立っている。
「あ、あの怪我していたカオルには悪いのですが、勝つことができました・・」
「だって、勇太」
なんだか、こっちはこっちで、一方的だったが簡単な約束をさせられたなと思い出した。
自分程度のハグなんかのために、全国制覇までした健闘をたたえた。
「不知火さん。優勝おめでとうございます」
「はあん、なんだか、力強くていい匂い」
余談だが、この男同士の抱擁に見えるシーンは、久々に腐った女子のハートを刺激した。
ぎゅっとして、なかなか不知火が離してくれないなと思っていると、11人の女子が並んでいる。
「え、えーと、この列は・・」
「各階級の優勝者です!」
先頭の身長180センチ、87キロ超級優勝者のマルヤマミツコが満面の笑顔で答えてくれた。
そういえば、勇太は66キロ優勝の桜塚ハルネ部長をハグした。そして今、63キロ級優勝の不知火マイコをハグしている。
どうやら、勇太が優勝のご褒美にハグをしてくれると思われたようだ。
勇太は、こんなもんで申し訳ないと思いながら、ハグをやり始めた。
閉会式会場にもなる場所で始まったハグ大会。
注意されたらやめようと思ったら、全階級の個人戦優勝者を勇太がハグし終えてから、閉会式になった。
ついでにサービス精神旺盛な伊集院君が、勇太のハグを終えた優勝選手と握手をしていた。
その流れから1人ずつ表彰されていた。まるで勇太ハグ、伊集院握手が最初から閉会式プログラムにあったかのように、流れていった。
閉会式後、勇太は運営委員会に会場をハグ大会に使ったことを謝りに行った。
しかし逆に連盟トップの鬼塚一子はじめ、役員さん一同に感謝された。
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