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42 伊集院君の、さらなる爆弾

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伊集院君との絡みで、勇太とルナの周囲がざわついている。

ざわついたままだが、伊集院君が忙しすぎて、クラスメイトなどと接する時間が少ない。

彼は婚約者が早くも7人。

話は逸れるが、8人目の候補だったルナは伊集院君の申し出を断った。

勇太が大好きと言うと同時に、勇太のセッ●スがすごいとも言った。

ここは女子が肉食な世界。

映像を見た女子はルナが、伊集院君の顔より勇太の身体を選んだと思っている。

ルナはネット界で『魔王』の称号が浸透しつつある。

伊集院君の婚約者のうち4人が政略結婚の相手。その4人の女性には、いずれも大きな企業などのバックボーンがある。

伊集院君自体も能力が高く見目麗しい。会合、パーティー、イベントと、婚約者らの家の『新しい顔』として多忙な日々を送っている。

そのため、帰国後3回目・金曜日の登校からはパラ高には最低限の時間しかいない。朝は黒塗りの車でギリギリに来て、帰りも教室までお付きの人が迎えに来る。

ちなみに、勇太が転生した日、ルナの冤罪事件が起きたときも、そのパターンだった。

パラレル伊集院君の性格は勇太の前世伊集院君と同じくらい良さそう。思い人のルナが冤罪に巻き込まれて黙っているはずがない。

が、あの日は授業が終わると同時、事件が起こる前に教室まで迎えが来て連れ去られた。使った階段も別。

その足で国際空港からフィンランドに旅立った。

そこでも多忙すぎた。

ルナの騒動を知ったのは6日後。すでにルナが勇太と親密になったあとだった。

◆◆◆
ただ、接する時間が少ないといっても、伊集院君がすごく勇太に話しかけてくる。

多忙な中で取れる時間を、勇太やルナと接するために割いている。

翌週の火曜日、伊集院君とお茶もした。勇太が働くリーフカフェに行って、ルナ、梓、カオルを入れて5人でテーブルを囲んだ。

勇太は素肌に半袖のワイシャツのみ。

伊集院君は男子の常識として、長袖の濃い色のシャツ。今日は濃紺。

その時間、カフェの店内外には、人、人、人。

伊集院君はルナに愛着があると言葉にしたが、節度は保っている。勇太は彼の狙いがいまいち分からない。

まあ勇太は、前世伊集院君とは相性は良かった。性根が似ているパラレル伊集院とも打ち解けるのは早かった。

この世界初の男友達として歓迎している。

「カオルちゃんケーキだよ。あ~ん」
「あ~ん」。梓からぱくっ。

「カオル、クッキーくえよ。あーん」
「あ、あ、あ、あ、あ~ん」。勇太からぱくっ。

「カオル君、僕からはチョコを。あ~ん」
「あ。ひゃ、ひゃあ~ん」。緊張して伊集院君の指ごとぱくっ。

カオルが何度もフリーズしている。

もう目立ちたくないルナが、男子2人の目がカオルに行くように誘導している。

勇太の中の伊集院君の前世、パラレルの違いは女性に対する態度か。

勇太といるときは、パラ高にいる親衛隊のような群がる女子達を一切寄せ付けなくなった。

それがまたも腐女子達のハートを刺激した。


さて、大注目の勇太とルナは、6月29日になって再び原礼留市民体育館にいる。

柔道のインターハイ出場権獲得を目指す、茶薔薇学園カオルを応援に来た。

もちろん梓も、カオルのお弁当を作って一緒に来ている。


ところが、伊集院君までいる。

会場の市民体育館が、とんでもないことになっている。きゃ~きゃ~と黄色い歓声が飛び交う。

今回の勇太らは選手ではないので、基本的に2階の観覧席にいる。

今、ルナと梓はトイレに行って、席には男子2人で横並び。周囲も女子だらけ。

噂の手作りクッキーを持ってきた勇太が、最近の癖で伊集院君の口にもクッキーを放り込んだ。

「ん、いけるね」
「もっとあるよ」

動画は流れまくり。

きゃ~、きゃ~、ぐへへぐへと、乙女、腐女子から混沌とした歓声が上がる。

まだ1試合も終えていないのに、会場は熱気に包まれている。

勇太からすれば、自分1人のときとは熱気の違いを感じる。やっぱり伊集院君の人気はすごいと、感心の方が先立っている。

純粋に柔道の観戦に来ているから、強そうな選手の動きをしっかり見ている。


団体1回戦。ブロック戦を1位で通過した4チームのみの出場。今回も勝ち抜き戦の形式。

茶薔薇は田中、山田、桜塚部長、今川カオル、葉山の順番。

桜塚部長から、考え抜いた末の布陣だと聞いている。

結論から言えば、茶薔薇学園柔道部は強かった。

団体戦は副将カオルに回ることなく、あっさり優勝。

最後は桜塚部長が決めて、やっと勇太におめでとうのハグをしてもらえた。

桜塚ハルネ18歳。これを狙ってみずからを中堅に据えた。

個人戦は勇太の前世より細分化されて13階級。そのうち7階級で茶薔薇の選手がインターハイ切符を獲得。

カオルも圧勝劇の連続で、決勝は豪快な内股を決めた。


「やったなカオル」
「カオルちゃん、おめでとう」
「カオル、インターハイも頑張ってね」

「サンキューみんな。応援してもらって力が沸いてきたぜ」

試合直後、体育館通路に迎えに来た勇太、梓、ルナに祝福されたカオル。

伊集院君も来ている。婚約者との待ち合わせがある彼は打ち上げには参加できないけれど、茶薔薇のみんなを祝福した。

そして伊集院君は勇太達4人を見て目を細めている。

「勇太君のところは、梓君を中心にまとまっている感じだね。いつも雰囲気がいいよね」

「そうだよ。梓のお陰で、ギスギス感がなくて4人でいて楽しいよ」
ルナが答えた。

勇太は伊集院君のところは、違うのかと疑問が湧いた。

「うーん、僕の婚約者たちもお互いに仲良くしようと努力してくれるけど、何か違うんだよね」

「伊集院君、違うって?」

「勇太君と女性3人を見て分かったけど、勇太君はルナ君、梓君、カオル君のことをきちんと理解しているよね」

「あー」。としか勇太は言えない。まさか自分の前世から引っ張られ、親密になれた3人とも言えない。

「そういう自然な親密さがうらやましいな。僕と婚約者達は、歩み寄るためにエネルギーを使いすぎて大変さ」

「ああ、お金持ちの政略結婚の相手もいるんだよね。そうなると俺と違って、婚約者が背負ってるものもあるもんね」

「そういうものの弊害かな。女性同士も、カオル君と梓君みたいに甘い空気を醸し出す婚約者達もまだいない」

ちょっと疲れた目をした伊集院君。勇太達の関係がうらやましそうだ。

「勇太君と仲良くなれて10日くらいだけど、提案があるんだ」

「何かできることなら、いいよ」



「勇太君、将来、僕とも結婚しないか」


「え?ええ?ええええ!」

きゃああああと、すごく黄色い歓声が上がった。

勇太、そして腐った女子達に超ド級の爆弾が落とされた。

勇太はこの世界に来て、初めてフリーズしている。そして内股になった。

「もちろん、ルナ君、梓君、カオル君も一緒だよ。簡単な話ではないけど、君達と過ごすのは安心感があるんだよね」

何を言われているのか分からない勇太だった。


最後の一言で茶薔薇の仲間にガン見されて、カオルも固まった。

「・・なんで、アタイも?」

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