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17 妹弁当、彼女弁当

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勇太は1人で学校の屋上に出た。

女子生徒が6グループで15人ほどいる。ちらちら見られている。

幸いドアを出て右側の一角が空いていたから、座って弁当を広げた。

卵焼き、唐揚げ、ミートボール、ブロッコリー。じっくり見て感動している。

梓が作ってくれた、前世を通じての初の妹弁当だ。

今の梓は従妹だけど、勇太の気持ちの中では妹だ。

腹ペコで、まず卵焼きをほおばった。うますぎる。

すごく腹が減っている。女神印の回復力の唯一の欠点は燃費の悪さ。

今日も休み時間のたびに、カロリーバーを1本ずつ食べている。

それにしても、勇太はモグモグしながら遠方を見て感動しまくりだ。

転生して3日程度だが、闘病生活が長かった。だから、外でご飯を食べるなんて5年ぶりだ。

屋上から見える線路、ビル、雲、青空。そして遠くに見える海。

すべてが感動的だ。

「あの・・」

「え、ああ、ルナ!」

いつの間にかルナがいた。お弁当の包みを2個持っている。

「ごめんね。LIMEの返事、返さなくて。ちょっと、手が空かなかったの」
「何かあった?」

「・・休み時間のたび、みんなに勇太君とのこと聞かれちゃって・・」

勇太はやらかしたと思った。

可愛いルナ↓陰キャ勇太と会う↓馴れ馴れしくされる↓一緒に登校↓バカにされる。

ルナは思い出す。

地味子の自分↓デブ勇太からの告白↓勇太大変身↓改めての逢瀬↓イケてる勇太に抱き締められる↓質問だらけ。

勇太の勘違いはともかく、ルナの休み時間はクラスメイトに質問されまくって終わった。

屋上に来るのも、白状させられた。

これはルナが考えていた以上。

勇太にはネットの映像だけではない魅力がある。

朝から下級生に謝って回ったり、ルナの友人に挨拶したりと動き回っている。

ルナも気付いていなかったが、勇太の大変身はルナの冤罪を晴らしに行った日から。

みんな、ルナに陰キャデブをエロカワ男子に作り替えた秘密があると思っている。


勇太は、ルナにお詫びを考えながら、ルナの手に包みが2つあることに気付いた。

「もしかして、ルナがお弁当2つ持ってるのって、俺の分も作ってきてくれたの?」

「あの・・やっぱり、お弁当あったよね。私のは気にしないで」

「嬉しいな。もちろん食べさせてもらうよ」

「む、無理しなくていいよ」

勇太は単純に燃費が悪いから、いくらでも食える。

ルナは無理して食べてくれる、勇太の優しさを発見したと思った。

勇太はルナに座るように促した。

「あ・・いいのかな」
「むしろ、一緒に食べて。お願い」

この謙虚さも希少な男子としては目立っている。

すでに周囲で動画を撮っている女子生徒がいる。

パカッと蓋を空けて、梓弁当とルナ弁当を並べた。

唐揚げがルナは塩唐揚げ、梓は醤油ダレと違うだけで、見事にそっくりだ。

勇太には、最高の贅沢だ。

「ごめん勇太君、中身が被っちゃったかな」

「いやいや、ごちそうが2倍だって~」

ルナの唐揚げを頬張った。

「うまい!」

勇太の弾んだ声を聞いて、ルナはまた嬉しくなった。

・・・・

「ごちそ~さま~。ああ最高だった」

「お粗末さまでした」

食後のお茶をいただきながら、勇太は部活の話をした。

「ルナ、この学校って柔道部あったよね」

「・・あるけど」

「木曜日から柔道部に入ろうかと思って」

「えっ、勇太君も?」

「あ、そうかルナって合気道から柔道部に転向したクチかな、もしかして」

「え、いえいえ、小2から体を鍛えるために柔道やってて、その流れで先輩に誘われたの」

勇太は惜しい、と思いながら、『ルナ』とまた一緒に部活がやれると思うと嬉しくなった。

前世では中2の春にルナと仲良くなった。するとルナは明らかに運動経験がないのに、勇太、純子と同じ合気道道場に入った。

そして高校では柔道部。進んだ学校に合気道部がなかった。そのため勇太の親友に誘われ、柔道部に入った。

前世ルナも当たり前のように付いてきた。

だから、この世界でも柔道にこだわりたかった。

「カフェの手伝いとかもやるから、全部は参加できないんだけど入部したいんだ」

「そうなんだ。部活は月、水、木曜日だよ」

「じゃあ、木曜に連れていってよ。俺でも入れてもらえるかな」

「大歓迎だと思うよ」

ルナの緊張が解けて、ワクワク感が伝わってきた。勇太も気楽だ。

「そういや、火曜日と木曜日って5時間目が体育で、2年3組とルナの4組で合同だよね」

ルナの唇に指を当てた。じ~っと考えている。

ゆっくりと口を開いた。

「今まで・・男子で参加する人ね~。見たことないよね~」
「ルナがいるから、俺も参加しちゃおっかな~」

「ええ~、みんな驚くよ~」
「珍しがられるだけでしょ~」

「勇太君、カッコよくなってるし~」
「ちっと痩せただけでしょ」

「きっとモテモテだよ」

「俺はルナにモテてればいいって~」

「え・・」
「あっと・・」

勇太は、また『ルナ』とのやり取りに、気が緩んで前世のノリになってしまった。

ルナは再び驚いた。そして真っ赤になった。

とんでもないことを言われた気がした。

それよりも、こんなにリズムを合わせてくれたことに感動していた。

土曜の夜に続いて2度目だ。

この光景は、もちろんネットにアップされた。


一緒に教室の前まで帰って、ルナは気付いた。

「そういえば、勇太君って純子の話を1度もしてこない」

登校中に話したとき、純子とルナが双子なのは知っていた。その話題はルナから振って、そこから膨らむことはなかった。

ここ2年ほど、新しく知り合った人は、みんな純子のことを聞いてきた。

勇太には、それがない。

地味子が何を期待していると自分に言い聞かせながら、ルナは胸がじんわりと暖かくなっていった。


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