上 下
15 / 296

15 クラスメイトに迷惑かけません

しおりを挟む
勇太は職員室で挨拶し、そこまで担任に嫌われていないと思った。

そして愛着があったパラレル佳央理先生を見て、ほっこりした気分になった。

だけど、自分のクラスでは空気になろうと思っている。

勇太の2年3組は1年生のときからクラス替えをしていない。

1年生の6月に別クラスの臼鳥麗子に告白してフラれたパラレル勇太は、同じメンバーに笑われた。

侮られ、シカトされていた。

「希少な男子なのに、情けねえよ、パラレルな俺・・」

辛うじて挨拶をしてくれたのは、パラレル伊集院光輝君と、委員長のパラレル吉田真子さん。

どちらも前世で仲良くしてくれた人のパラレル体だ。

そしてパラレル勇太の記憶が間違いないなら、クラスで勇太が前世で愛着があった顔は2つだけ。

別のクラスメイトはどうでもいい。

勇太自身、クラスメイトに恨みはない。

だけど、記憶から引き出した以上は、シカトされていた相手にいい感情が持てない。

クラスでは伊集院君、吉田さんの2人だけ、挨拶しておけばいい。

学校で1番人気の伊集院君がいるクラス。根暗男に目がいかないのも分かる。

今更、自分がかき乱して、クラスの和をおかしくすべきでないとも思っている。


思い切って、2年3組の教室に入った。

目の前には、週一登校のパラレル勇太と話もしなくなっていた、1年生から同じメンバーのクラスメイト。

彼女らが、月曜日に現れた自分を睨んでいるように見える。

逆に、クラスメイトは困惑している。勇太に見えて、勇太に見えない人物が教室に入ってきた。

普通の体型でシャツのボタンを2つ空け。それ以前に目元に優しさがにじみ出て、妙な色気がある。

勇太の席は後ろの廊下側。3歩で席に付いて座った。

クラス委員長が声をかけた。

メガネの平均的な顔と体型の女子。吉田委員長。

「あの、教室を間違えていませんか・・」

吉田真子は、勇太が登校する金曜日ではないし、勇太かどうか確信が持てなかった。

「おはよう、委員長」

「え、やっぱり坂元君なんだ。おはよう」

勇太は立ち上がった。

「今日から週4登校に切り替えたんだ。今まで挨拶も返さずに申し訳なかった」

パラレル勇太はクラスで浮いていたが、女子では吉田委員長だけは挨拶してくれた。

しかし、パラレル勇太は挨拶を返さなかった。

今、返事を返さなかった理由を、パラレル勇太の記憶から探った。

なんと、委員長が美人でないから。そんなしょ~もない理由だ。

本当に申し訳ないと思った勇太。立ち上がって、深々と頭を下げた。

「本当に今までごめん!」

66キロに痩せた勇太が着ているのは、84キロだったパラレル勇太に合わせて買った大きなシャツ。

ボタンを2つ空けた勇太が頭を下げると、委員長には胸元が空いて中が見える。

ふわっと、いい匂い付き。

むっつりスケベの委員長は真っ赤になって絶句した。勇太の言葉も心地良い。

昨晩、ネットで漁ったエロ画像以上の刺激が目の前にある。

視線はシャツの中。

4回目に頭を下げられたとき、勇太の右乳首が見えた。

「あ、あの、とりあえず座って・・」

勇太は思った。

まだギクシャクしている。委員長だけは、しっかりケアしようと。


他の女子生徒には何も言わない。

自分は根暗勇太の人生を引き継いでいる。勇太の方が異物だと思っている。

ホームルームが始まる。佳央理先生が教室に入ってきた。

「おう、出席を取る前に言っとく。伊集院じゃない方の男子、坂元だ。これから週4で学校に来るそうだ。以上」

じゃない方、である。
「やっぱ、パラレル勇太って佳央理先生に信用されてないな・・」

しかし担任の佳央理先生は、梓が所属するバドミントン部の顧問。

隣のクラスメイトにも2人、バドミントン部員がいると記憶している。

その2人、前世の中学からの同級生。勇太のために千羽鶴を折ってくれた人間だ。

梓に人間関係で迷惑をかけないために、その女生徒に挨拶しに行くかと思った。


思考にふけっていると、佳央理先生に名前を呼ばれていた。
「おい、坂元。何か言いたいことはあるか」

「あ、はい。あの、これから俺・・」
「おい坂元・・」

「はい、なんでしょうか先生」

「教室の片隅でごにょごにょ言うな。前に出ろ」

妙に明るくなった勇太の真意がつかめない佳央理先生。何となく声が気になって、大きな声で喋らせてみようと思った。

勇太は女子生徒の間を通って前に進んだ。

全員が目を見張った。

自分たちの横を通るとき、勇太からそそられる匂いがする。そして、何か格好いい。

先週の金曜日、放課後に階段から落ちた。

デブだった。


事件にならなかったから、学校側も早急に処理した。だから、所用で学校を離れていた佳央理先生は、事故の詳細を知らない。


「これから週4登校をさせてもらいます!」

佳央理だけでなく、全員の腹にずんときた。はっきり言えば濡れた。

女神がいたずらして、声にも細工した効果だ。

佳央理が知る勇太と、今の勇太が結び付かない。

クラス全員が、この勇太と仲良くなれると期待した。

しかし、次の瞬間、しくじりに気づいた。

「これまでも俺の登校日にみんなを不快にさせていたことは自覚しています。迂闊にみなさんに話しかけたりして、ご迷惑はかけません。安心してください」

このクラスは伊集院君を中心にまとまっている。勇太は自分が波風を立てようと思わないから、こう言った。

クラスメイトは、これまで勇太のことをシカトしていた。この言葉を勇太からの拒絶だと受け取った。

みんな沈黙した。

委員長だけがにやけていた。

1時間目はそのまま、佳央理が受け持つ日本史の授業。

佳央理が驚いたのは、勇太の授業態度。

真剣そのもので、うなずきながらノートを取っている。

何が起こったか分からない。


しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

男女比1対99の世界で引き篭もります!

夢探しの旅人
恋愛
家族いない親戚いないというじゃあどうして俺がここに?となるがまぁいいかと思考放棄する主人公! 前世の夢だった引き篭もりが叶うことを知って大歓喜!! 偶に寂しさを和ますために配信をしたり深夜徘徊したり(変装)と主人公が楽しむ物語です!

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...