上 下
5 / 296

5 まずは金の問題を解決しないと

しおりを挟む
勇太はパラレルワールドに来て24時間も経過していない。

心の中で「なぜ」と問うている。解決しないといけない問題がある。

新天地に転移したはずなのに、開放感がなさすぎる。

またも問題を思い出した。それもパラレルな自分のせいで。

いや、自分のせいのようでいて、自分には責任がない気もする。


ただ分かっているのは、勇太自身が逃けたら、梓や葉子が嫌な目をみるということ。

次の問題は金である。これを片付けないと、安心して暮らせない。

家は一軒屋。4LDKで庭は広め。

まず1階にある自分の部屋を確認して、すぐにリビングに戻った。

「葉子叔母さん、俺の生活費って、どうなってるの」

勇太は、パラレル勇太の記憶を探った。

実母の死因は交通事故で、少なくない保険金がパラレル勇太に入っている。

また、中1から1回5万円もらえる精子提供を続けている。これが月4~6回で最低20万円。それだけで4年間で1000万円くらいになる計算だ。

そこはいい。

その金銭を引き出した記憶がない。

つまり、勇太は叔母に寄生している。

金がなくて引き取られたのなら仕方ない。だが、普通の社会人並に収入がある。

いい靴をはいている。服も上等。そしてパソコンやゲームも買った。部屋にあるのも確認した。

梓のご飯を食べず、勝手に出前を取りまくった。高校に入るときも色々な物を揃えている。

金は叔母に貸してもらっていることになっている。パラレル勇太の記憶では、踏み倒す気だった。

根本的なものが人としてダメだ。

「あのね勇太君、そこは気にしなくていいのよ・・」

嘘である。勇太自身が目利きではないが、梓の持ち物は大したものがない。

叔母のカフェで、どのくいらい収入があるかパラレル勇太は関心がなかった。

だけど、梓の持ち物が明らかに勇太より落ちる。


種馬として男が貴重というだけで、パラレル勇太の買い物で家計を圧迫して、梓に我慢をさせていた。

パラレル勇太に怒りが沸いてきた。だけど、殴る相手もいない。

「葉子叔母さん、そこは正直にお願いします。まだ信じられなくても俺も改心したし」

「だけど・・」

「梓が俺の犠牲になるのはダメだよ」
「私はいいから、ユウ兄ちゃん」


「ダメだ!」

思わず勇太は、怒鳴ってしまった。

「すまん。だけど梓、お前は俺の大事な妹なんだ」

勇太と似ていなくて、目がぱっちりしていて可愛い。

「ここ1年だけじゃない。何年も俺が梓に迷惑をかけてきたのは事実だ。遅いかも知れないけど、お詫びがしたい。ホントにごめん」
「ユウ兄ちゃん」

すると叔母は話し出した。

内容は色々とあったが、今の問題は近くに大型チェーンのコーヒー店ができたこと。

カフェの経営に少し陰りが出ているとか。

かなり良くない状況だ。そんなときに叔母の金で散財していた、パラレル勇太をクズだと思っている。

勇太は、試しにスマホでピッとしてみた。

できた。

何ができたかというと、自己の口座に500万円ほど残して、全額を叔母の口座に振り込んだ。

500万円残したのは、梓の物を揃えたり、ちょっとした備え。

叔母葉子に、こんなのは相談しても受け取ってもらえない。スピード勝負だ。

システムが前の世界と微妙に違ってて良かったと思った。

「え、勇太君ダメだよ、こんなの」

「葉子叔母さん、いや、これからは葉子母さんと呼ばせてもらう。家族なんだから、こんなの当たり前だよ」

「・・勇太君」
「ユウ兄ちゃん」

「それで、今までのこと、本当にごめんなさい」

「分かったわ。必要最小限のお金だけ使わせてもらう。あとは進学するときに返すからね」

勇太は、カフェの手伝いをしようと思った。希少な男という立場を利用して何か考えたい。

「母さん、俺って痩せたら、カフェで働けるかな」
「え、男の子が接客業をやるの?」

「どうだろ。ハンサムでもないし、役に立たないかな。けど皿洗いくらい手伝うよ」

「今の勇太君なら歓迎されると思うわよ」

「ええ~、身内だからって、そこまで言わなくていいよ」

勇太が笑うと、つられて葉子と梓も笑った。

勇太は分かっていない。この世界、接客業に従事する男性はごく少数。少なくとも原礼留市内にはいない。

女性看護師の5人と一晩で仲良くなった。

前世界の病気を経て、今の勇太は人の好意に敏感になった。

前世界の感覚で普通に接したが、この世界の男子としては優しすぎるレベルだ。

レアものなのだ。

パラレル勇太が低レベルすぎて、そのあたりの知識が皆無。だから自分の価値を知らない。

それと、勇太はひとつの夢をかなえるつもりだ。

「梓、これから時間あるかな」
「え~と、今日は午後から、お母さんのカフェでアルバイトがあるの。どうしたの」

「梓の服を買いに行こうかと思って」

そうなのだ。前世の勇太は高3になる前に満足に歩けなくなった。最後に梓と出掛けたとき、まだ梓は中学生だった。

高校生になり、美しく育った妹と一緒に出かけてみたいのだ。

「バイトのあとは空いてるよ!」

「おう、そんなに慌てなくていいよ。付き合ってくれるなら、よろしくね」

梓、すでに4年も勇太と一緒に暮らしているが、一緒に出かけるのは初である。

思わず食いついた。

◆◆
今日は叔母の葉子と従姉妹の梓が正午からカフェに出勤。

葉子の帰りは夜9時。梓は4時に終わる。

「俺は、さっそく歩いたりしてダイエットするよ」

「そうだ、ユウ兄ちゃん、あとでカフェに来ない?」

「そうだな。いいんなら午後3時くらいに行くよ」

現在は、午前9時。

叔母が用意してくれた食事を摂って、勇太はジャージででかけた。


しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

男女比1対99の世界で引き篭もります!

夢探しの旅人
恋愛
家族いない親戚いないというじゃあどうして俺がここに?となるがまぁいいかと思考放棄する主人公! 前世の夢だった引き篭もりが叶うことを知って大歓喜!! 偶に寂しさを和ますために配信をしたり深夜徘徊したり(変装)と主人公が楽しむ物語です!

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...