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133 彼女を守るために

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ダルクダンジョン11階、フロアボスを倒した。

最初のフロアボスとはいえ、ダンジョンは特級。

誰にも会わないと思っていた。

そこに、ボス部屋前で他の挑戦待ちの人が5人いた。見たところ、強そうな20代の冒険者が4人。

冷静に見た。

なんだ、知っている顔だ。みんな個人ランクはBで、カナワでも上位に入るパーティー。リーダーはシドさんだ。

そして18歳くらいの豪華な装備を身に纏った優男が1人いた。

こいつもかなり力がありそうだ。

「シドさん、久しぶり。こっちは終わったから、どうぞ。マヤ、休憩しましょう」

「あ、ああ。久しぶりだな、ユリナ」

「マヤ!」

優男にマヤが声をかけられた。

「君はなぜ、こんな危険な場所に」

マヤ、返事せず。

「おい、何が言ってくれ。僕の誘いを断って、最近見ないと思ったら・・」

「何度も言ってますが私には想っている人がいます」

「リュウか。奴にはユリナがいるぞ」

こいつ無遠慮に、マヤの心をえぐっている。

「マヤ、聞け」

優男がマヤに手を伸ばそうとした。私は2人の間に体をねじ込んだ。

そしてシドさんも、優男の動きを阻んだ。

「カルゴさん。危険なダンジョン内で他の冒険者と揉めるのはご法度。領主の三男様でも、庇いきれませんよ」

「し、しかし。仲間がいないチャンスなのに・・」

「誘拐まがいのことまでしたくせに、ギルマスのラグさんにも報告済みですよ!」

マヤがとうとう怒った。

何かのスキルは持っている。そしてレベルも高いようだけど、危険人物に認定した。

もし誘拐犯がシドさんなら、顔見知りでも許せない。

シドさんが口を開いた。

「俺からも、2人の女性に謝る。申し訳ない」
「誘拐犯はシドさん達のことじゃないです。シドさんは謝らないで下さい」

「私もマヤがいいなら、なにもしない」

領主が探す私の名前を出さず、うまく収めてくれた。

「ふう、彼女に皆殺しにされるとこだった」

領主の三男、カルゴ君が反応した。

シドさんはカナワにいた時、底辺冒険者の私達にも気さくに接してくれた。

いつも一言多かったが・・

「貧相な顔。細い腕。ボロい服なのに特級ダンジョンで無傷。まさか、君が「噂のユリナ」か」

「失礼なキーワードの連続で気付いてくれたわね、カルゴ君」

「君は一年近く前だが、冒険者ギルド内でカスガ男爵家と揉めたな。それで出頭命令が出ている」

「ふ~ん」

しかし、次の一言でスイッチが入った。

「マヤも逃亡幇助で調べる。一緒に来てくれ」

最中の毛が逆立った。

マヤは早くも、私の妹分。

密室に連れ込んで襲う気か。許さない。

「どっちも断る。この場で撤回しなさい」
「なっ」


「撤回・・しろ」

カルゴを見た。

どんな人となりか知らないが、薄汚いゴブリンにしか見えなくなった。

向こうから、私はどんな風に見えているんだろうか。

すごく弱そうな女が、ただ睨んでいるだけに見えて、何も思わないんだろうか。

シドさん達と戦うんだろうか。

だったらシドさん達には悪いが、彼ら4人の手足を叩き折る。

そして、カルゴを裸でボス部屋に放り込もう。それからシドさんを治療すればいい。

ナイフを捨てた。

私は素手。要するに、「等価交換」で相手を殺す準備をした。


「ユリナ待った。俺らはカルゴさんの命令は聞かない」

「なんだと、シド」

「カルゴさん、俺らへの依頼は11階フロアボス討伐の手助けだけ。行き帰りも転移装置で直行直帰」

「追加ボーナスを払う」
「分かってないな」
「何のことだ」

「マヤ、君がダンジョンに入る前のレベルは?」

「・・22です」

「カルゴさん。ユリナはレベル22のマヤを連れて、無傷で、ここまで来たんですよ。強いとは聞いてたが、尋常じゃない」

「う・・」

「レベル80のハイオーガと戦って、息も切らしてない。目を見て分かったでしょ。すでに俺達の処理、それしか考えてない」  

「大丈夫よ。シドさん達にはエールを奢ってもらった恩がある。・・三男しか殺さない」

「ふう。命拾いした。一杯飲ませといて良かったよ」

カルゴ君はすべて撤回した。これで場は収まった。

けれど、カナワ領主は敵認定する。

イーサイド男爵家と揉めたとき、助けてくれたミハイルさんもきっと近くにいる。

必ず相談しよう。


◆◆◆
私とマヤは10階に上がらず、12階に降りた。

カルゴを遠ざけるためだ。

ここ1ヶ月は、ひとりになると声をかけられ続け、ストレスになっている。

ヤツの手下に、囲まれたこともあったという。

ま、そいつらはリュウとオーグでボコってるそうだ。

「ユリナさん。12階から下は何が出るんですかね」

「分かんない」

「へ?」

「魔物50匹が目標。遭遇したやつ25匹を倒す。引き返して往復で50にしよう。そんでもう一回、11階フロアボスを討伐して帰ろうよ」  

「何だか、薬草採取にでも行くような軽さですね」

「てへっ」
「褒めてませんよ」

そこから14階の途中まで行った。

ノルマ達成に11日をかけた。

確か魔物のレベルは平均85。

オーガ、オオカミ、蛇、大トカゲ。価値がある。

マヤは最後の方、剣を振る音も変わってた。

最低でもレベルは45、うまくすれば50。

マヤは、恐怖心を隠し、必死に戦っていた。

リュウへの思いが伝わってきた。

チャンスを逃さない、気概を感じる。

恋に不器用なマヤと私。拳と剣で想いを伝授している。

そしてマヤ、優しいけど無器用なリュウに、思いを伝えるだろう。

それは、いつになるんだろ。

もしかしたら、一途なマヤにリュウの方から距離を詰めてくれたら、なんて期待してる。

まずは「暁の火」のリュウ、オーグ、ダリアを呼んでもらおう。

◆◆
まあ・・

乙女チックな考えもここまで。

私、手配されてるんだった。

ダルクダンジョンを出ると、領主が派遣したお迎え20人が待っていた。

日数もあったし、仕方なしか。

けどすでに、頼む前に教会暗部を仕切るミハイルさんも来てくれている。

彼はミール以上に強い。

戦闘になっても、マヤを守り切れる。

勝つ要素しか見当たらない。

私は腕組みをしてる。部隊リーダーらしき人に向かって言った。


「何か言う前に、これだけは把握して」

精一杯、低い声を出した。

「私はカナミール家の三男と敵対した。理不尽な内容で手配されてる」

私、高圧的だ。

「腹が立ってる。言葉を選び間違えたら、10階のオーガみたいに、マヤが・・」

マヤ、ん?ってなってる。

「マヤがミンチにするわよ」

貴族家のお迎えの人達、みんな真っ青になった。


マヤは、えええ~?ってなってる。

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