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111 私がなくした世界

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Eランクに落ちて大人しくしていようと思った。だけど、身の回りが騒がしくなった。


治療したばかりの、闇属性持ち好青年マルコ君に、師匠のミハイルさんはどこに行ったかと聞いた。なんとドルン伯爵家の使者に釘を刺しに行ってくれたらしい。

参考のために私をスカウトに来た貴族家のことを知りたいと思うと、マルコ君達がリストを持っていた。

すごく有能だ。

例の伯爵家の他は子爵家三家、男爵家一家、新興騎士爵家三家だった。

そのうちの、イーサイド男爵家のことを知りたいと言うと、調べに行ってくれると申し出てくれた。

お金はまだ幾らかある。調査料や経費のことを聞くと、自分の仲間の闇属性持ちがきたときに、一緒に乾杯をして欲しいと言う。

エールが飲めるなら大歓迎。むしろご褒美だ。

イーサイド男爵家? 

ジュリアに騙され殺されたアリサの実家だ。

ナリス、モナ、私と同じように「無能」判別されたアリサを15歳の誕生日に追い出した家だ。

「くそっ、苛立つ」

モナ、ナリスも知らなかった話だと思う。
私だけが打ち明けられた悲しい話がある。

イーサイド男爵家が私とアリサの関係を知っているとも思えない。

心の中に封印してきた家の名前。

単なるスカウトだと思うけど、改めて聞いて腹が立っている。

◆◆
しかし私の方はまだ、奉仕作業の期間も終わっていない。

次の日は義務の仕事はなかったが、なりたて冒険者2人の補助。ゴブリンとラビット系しかいない初級ダンジョンにいる。彼らと3日間、ダンジョン12階から15階を回ってレベル上げの手伝いをする。

今回の2人は身体強化持ちでレベルアップの効果がはっきり見える。ゴブリンをなぎ倒して楽しそうだ。

ダンジョン全20階の15階にセーフティーゾーンに14歳の男子2人と入った。2人とも剣士スキルを持ち、レベルも推定で10を越えている。ここで1日泊まって、引き返す。


初心者の引率を何度かやって、手持ちのゴブリンが302匹に増えた。

セーフティーゾーンが見えてきた。

「あれ?ユリナさん、誰か倒れてる」
そこに3人の女性が寝転がっていた。急いで近づくと、体は傷だらけで手足に血がにじんでいた。

なにはともあれ彼女達に『超回復』

「あれ、えーと」
「傷がない」
「どうなった?」

知り合いだ。奉仕作業で子供達と薬草採取をしたとき、近くにいた人達だ。

私と同じ「魔力ゼロ」の冒険者。安い鎖かたびらを身に付け、ショートソードを持っている。

「サーラ、カミーラ、タルモ、ここ数日は姿を見ないと思ったら、こんなとこにいたのね」

「助かったんですね。ありがとうございます」
「ユリナさんでしたよね。助かりました」
「すごいスキルですね」

「どうしたの、こんなとこで」

彼女らは、3人で屋台を出すことが目標の19歳。

オルシマの街で知り合い、地道に3年間も薬草採取で頑張ってきた。

だけどお金がたまらず、少しずつ初級ダンジョンに潜って、9階層の査定が高いうさぎを狙っていた。

だが、レベルが10から上がらず、俊敏なうさぎに追い付けずで苦労した。

レベルを上げるため、思いきって15階まで潜ったが、ゴブリン7匹に遭遇して苦戦。傷だらけになってセーフティーゾーンに逃げ込んだのだった。

「良かったわ3人とも、間に合って」

「馬鹿って言われないんだね。ユリナさん」

「馬鹿だなんて言わない。私も魔力ゼロだもん。気持ちは分かる。それに同じ年だし、ユリナでお願い」

「ユリナさ、ユリナも私達と同じって聞いてたけど本当なんだ」
「1度、死にかけたとき、気功術が発現して回復と戦闘をこなせるようになった。だけど魔力はないままなの」

「けれど、前に会ったあとギルドで聞いたら魔力ゼロでもすごく強いって噂だよ」

「そうなってから、一年も経ってない。本当に得意なのは薬草採取だよ」

「すごい努力したんだね」

共感できる人に褒められると嬉しい。


彼女らは「劣等人」の限界と言われるレベル10まで上がっている。

なぜ普通は限界なのか。

簡単な話でスキル持ちに比べて基礎ステータスが低すぎるのだ。

同行している14歳コンビはスキルの効果で、レベルが1つ上がるとHPが10くらい上がる。

レベル10でHP100と、それに準じたパワーとスピードが付く。

だけど「劣等人」はレベルアップで上がるHPは最低基準の3が基本。レベル10でも30。

次のレベルに必要な獲物となれば、せめてレベル11クラスの魔物を相手にしなければならない。だけどスモールボアを例に挙げてもレベル11で、平均HP77。HP30の人間が挑めば命を落としかねない。

装備で補正しようとしても、ステータスが低ければ持てる武器や防具の力を引き出せない。

比べたくないが、ジュリアはレベル90のときにHP1260あった。

私はレベル90になったとしても、HP270なりのパワーとスピード。

『超回復』のデタラメさで差を埋めているが、スキルなしままだとひどい。

レベル62の今でさえ、剣士のレベル20より地力が低いのだ。

だから、彼女ら3人の苦しみが分かる。私も1年前はレベル8でHP24だったのだから。

あらゆることに不利なのだ。


知り合って2か月もたたない彼女らだけど、何とかしてあげたい。そう思うのは、いいものを得た私の驕りなのだろうか。

どこまで手を貸していいのか。彼女達のプライドを傷つけないか。

「あれ?なんで、そんなことを思うのかな」
すごく動揺してきた。

3人を見ると、お互いの無事を喜びあっている。垣根がない3人を見て何か分かった。

「アリサ、モナ、ナリス。もう私は、あの輪に入れないんだね」

氷のシクルはナリスが好きだったけど、無理に足を踏み入れてこなかった理由も少し分かった。私達「劣等人の絆」に阻まれてたんだ。

沸き上がる複雑な気持ちを圧し殺して、彼女らを保護しながら2日後に地上に送り届けた。


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