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102 嫌われ者の『愚者』でいい
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「私、疲れたからリタイアする」
宣言した。
ゼル、モエバの両試験官は、私が何をやるか予測がついていた。
「・・ユリナ受験生、ここで離脱したら減点以前の問題になる。Eランク降格だぜ」
「試験官ごめんね。私、ランク降格と昇格凍結は確定よね」
「何とかしたいが・・」
「ダメよ。試験官を最後まで演じて」
「そうだな。降格は免れない」
「どうせ、ゴブリンキング討伐で、Cランクに昇格のジョーカーカードは持ってる。みんなとは違うのよ」
「なんだよ、そりゃ」
「ふざけるな」
「お遊びかよ」
「そういうこと。ソロならランク関係ないもん」
「聖女とか呼ばれてるくせに!」
「勝手な女じゃねえか」
「罰則は厳しいぞ」
「ギルドカード剥奪でなけりゃいいよ。じゃあね」
来た道を走った。
◆
ガノン君が付いてくる。やめてくれ。
パーティーを組んで活動する人には、意見を聞かせるためにも、ランクが大事だ。
特に彼のような有能な人間は、ランクを上げるべきだ。
加速はしない。だけど「超回復走法」はスピードも落ちない。
森の中の5キロを15分。3人の警戒役の盗賊に見つかったが、トレントの枝で動けなくした。
日も暮れた。
木で組まれた盗賊砦の門は閉まっていた。私はミスリルポンチョ、ミスリルマスクの新スタイル。
「銀色の悪魔だよ・・」
門の上の見張り所にいた2人が私に気付いていた。
他の盗賊を呼んでいる。
閉まった門の左側。私は体当たりした。
「スライム変換、最弱アタック」
私の体は崩れた。ぺちょっ。
『超回復』
ぱーん。ばきばきばきと、門ごと崩壊する。
見張り台から、男が投げ出された。
木の破片は高速で弾けた。中に入ると、3人が倒れてた。
体は小さくなったままだ。
砦の左奥に走った。かがり火で視界は確保できる。
左側の建物に向かい、3つの家屋のドアを開けた。
三軒目で見つけた。
頭に血が昇る。
裸の若い女性3人が藁の上に転がされていた。
もう何日もひどい目にあわされてきたのだろう。
みんな右足の踵辺りにえぐられた跡がある。逃亡防止に腱を切られた。
裸で汗をかいた大男がいる。
「てめえ誰だ。変なマスクしてるが、なんでガキがいる」
私は子供の姿のままだ。流星錘を出して投げ、男の首に巻いた。
「なんだこりゃ」
私の身長60センチ減。「死ね」
「等価交換」ぱちばちぃ!
男の首、顔、胸が干からびた。
「ひっ!」
「3人とも、大変だったね。家に帰してあげるから待っててね」
「・・帰れるの?」
「うん」
「本当に?」
「もう殴られて、痛い思いはしなくていいの? う、うえっ」
「必ず助ける」
裸の男は死んでいた。
上級ダンジョンクリアの景品で出た、収納指輪に収納した。
そして彼女達に『超回復』をかけて服を渡した。
話を聞いた。内容の悲惨さに怒りを覚えた。女性3人には長い槍を渡した。
戻ってきたらドアを5回たたく。それ以外は盗賊だと言っておいた。
「槍は使っても使わなくてもいい。敵が来たとき降伏してもいい。必ず駆けつけるから」
外に出た。
ここから門が見えるから、門の前で戦いながら、この小屋に注意を払える。
「彼女達の体だけは治せる。ただ、それだけしかできない」
心の傷は治せない。
「外道どもが・・」
門の前に行って、退路を塞ぐ。誰も逃がさない。
◇◇Dランク冒険者ガノン◇◇
ユリナさんが、Cランク試験を放棄した。
上から目線の言葉に怒ってる奴。あいつらは、ユリナさんの目の変化に気付かない奴らだ。
初対面のときから見せていた、情けない顔ではない。
鬼。
少し前、冒険者ギルドを賑わせた人の凄み。
俺は見たい。
ひとつ「Dランク冒険者によるゴブリンキング討伐」
ひとつ「Dランク冒険者による上位ダンジョン単独踏破」
「試験官、ガノン受験生は予定を変更して、盗賊の砦の監視に当たります」
「ガノン」
「みんな、この答えが外れだったら、2ヶ月あとに再試験受けるよ」
その価値はある。
なんと、俺の仲間も付いてきた。
「お前ら・・」
「貴重なもんを見たいのは一緒だ」
「あとで試験官に謝ろうぜ」
ユリナさんは走るのが速くなかった。1分も全速で走ると背中が見えた。
だけど引き離された。走るペースが落ちないのだ。
しばらくして、俺達は息を切らしながら、遅れて砦に近付いた。
門が空いて・・いや、破壊されている。見張り台も傾いている。
ユリナさんを探すまでもなく、門の内側にいた。
銀のポンチョとマスク。てるてる坊主のような格好。
覗く細い手足は彼女のものだ。
右手に何かのひも。それだけだ。
なのに、彼女の足元には、10人以上の男が倒れている。
10人を越える盗賊がいる。ユリナさん1人に、2人の剣士が立ち向かっている。
剣士2人、寸分の油断もなく構えている。
ユリナさんはひもを振り回すだけ、隙だらけなのだ。
かがり火はあるが、もっと光が欲しい。
剣士2人に左右から斬りかかられたユリナさんは、ただ右を向いた。
スパン。こ気味いい音がして、ユリナさんは斬られた。
斬られながら、踏み込むユリナさん。
「ユリ・・」
「スライムパンチ」
パーーーンと、右の剣士の体が弾け、空に舞った。
「ぐげ」
「ぎゃっ!」
「ぐわっ」
肉片と剣の破片のようなものが、高速で飛び散った。
左の剣士、数人の盗賊が血飛沫をあげて倒れた。
逆光で見にくい。何をした。
「てめえ、人間に化けた悪魔だな!」
盗賊の間から、手に炎を纏った魔法使い3人が現れた。
「死ね!」
「今だ!」
「ファイアランス」
3本の火の槍が放たれた。
後ろから見ていると、ファイアランスの光でユリナさんが光った。
光った?
「ファイヤースプラッシュ!」
知らない魔法の名前。
ユリナさんが叫ぶと、四方八方に火の玉が飛び散った。
「ぎゃあああ!」
魔法使い3人はもちろん、何人もの盗賊が火に包まれ、砦の中から悲鳴が聞こえる。
ユリナさんが何かに気が付き、砦の奥に走って行った。
ダメなのは頭では分かっている。
だけど俺と仲間は、砦に入って行った。
宣言した。
ゼル、モエバの両試験官は、私が何をやるか予測がついていた。
「・・ユリナ受験生、ここで離脱したら減点以前の問題になる。Eランク降格だぜ」
「試験官ごめんね。私、ランク降格と昇格凍結は確定よね」
「何とかしたいが・・」
「ダメよ。試験官を最後まで演じて」
「そうだな。降格は免れない」
「どうせ、ゴブリンキング討伐で、Cランクに昇格のジョーカーカードは持ってる。みんなとは違うのよ」
「なんだよ、そりゃ」
「ふざけるな」
「お遊びかよ」
「そういうこと。ソロならランク関係ないもん」
「聖女とか呼ばれてるくせに!」
「勝手な女じゃねえか」
「罰則は厳しいぞ」
「ギルドカード剥奪でなけりゃいいよ。じゃあね」
来た道を走った。
◆
ガノン君が付いてくる。やめてくれ。
パーティーを組んで活動する人には、意見を聞かせるためにも、ランクが大事だ。
特に彼のような有能な人間は、ランクを上げるべきだ。
加速はしない。だけど「超回復走法」はスピードも落ちない。
森の中の5キロを15分。3人の警戒役の盗賊に見つかったが、トレントの枝で動けなくした。
日も暮れた。
木で組まれた盗賊砦の門は閉まっていた。私はミスリルポンチョ、ミスリルマスクの新スタイル。
「銀色の悪魔だよ・・」
門の上の見張り所にいた2人が私に気付いていた。
他の盗賊を呼んでいる。
閉まった門の左側。私は体当たりした。
「スライム変換、最弱アタック」
私の体は崩れた。ぺちょっ。
『超回復』
ぱーん。ばきばきばきと、門ごと崩壊する。
見張り台から、男が投げ出された。
木の破片は高速で弾けた。中に入ると、3人が倒れてた。
体は小さくなったままだ。
砦の左奥に走った。かがり火で視界は確保できる。
左側の建物に向かい、3つの家屋のドアを開けた。
三軒目で見つけた。
頭に血が昇る。
裸の若い女性3人が藁の上に転がされていた。
もう何日もひどい目にあわされてきたのだろう。
みんな右足の踵辺りにえぐられた跡がある。逃亡防止に腱を切られた。
裸で汗をかいた大男がいる。
「てめえ誰だ。変なマスクしてるが、なんでガキがいる」
私は子供の姿のままだ。流星錘を出して投げ、男の首に巻いた。
「なんだこりゃ」
私の身長60センチ減。「死ね」
「等価交換」ぱちばちぃ!
男の首、顔、胸が干からびた。
「ひっ!」
「3人とも、大変だったね。家に帰してあげるから待っててね」
「・・帰れるの?」
「うん」
「本当に?」
「もう殴られて、痛い思いはしなくていいの? う、うえっ」
「必ず助ける」
裸の男は死んでいた。
上級ダンジョンクリアの景品で出た、収納指輪に収納した。
そして彼女達に『超回復』をかけて服を渡した。
話を聞いた。内容の悲惨さに怒りを覚えた。女性3人には長い槍を渡した。
戻ってきたらドアを5回たたく。それ以外は盗賊だと言っておいた。
「槍は使っても使わなくてもいい。敵が来たとき降伏してもいい。必ず駆けつけるから」
外に出た。
ここから門が見えるから、門の前で戦いながら、この小屋に注意を払える。
「彼女達の体だけは治せる。ただ、それだけしかできない」
心の傷は治せない。
「外道どもが・・」
門の前に行って、退路を塞ぐ。誰も逃がさない。
◇◇Dランク冒険者ガノン◇◇
ユリナさんが、Cランク試験を放棄した。
上から目線の言葉に怒ってる奴。あいつらは、ユリナさんの目の変化に気付かない奴らだ。
初対面のときから見せていた、情けない顔ではない。
鬼。
少し前、冒険者ギルドを賑わせた人の凄み。
俺は見たい。
ひとつ「Dランク冒険者によるゴブリンキング討伐」
ひとつ「Dランク冒険者による上位ダンジョン単独踏破」
「試験官、ガノン受験生は予定を変更して、盗賊の砦の監視に当たります」
「ガノン」
「みんな、この答えが外れだったら、2ヶ月あとに再試験受けるよ」
その価値はある。
なんと、俺の仲間も付いてきた。
「お前ら・・」
「貴重なもんを見たいのは一緒だ」
「あとで試験官に謝ろうぜ」
ユリナさんは走るのが速くなかった。1分も全速で走ると背中が見えた。
だけど引き離された。走るペースが落ちないのだ。
しばらくして、俺達は息を切らしながら、遅れて砦に近付いた。
門が空いて・・いや、破壊されている。見張り台も傾いている。
ユリナさんを探すまでもなく、門の内側にいた。
銀のポンチョとマスク。てるてる坊主のような格好。
覗く細い手足は彼女のものだ。
右手に何かのひも。それだけだ。
なのに、彼女の足元には、10人以上の男が倒れている。
10人を越える盗賊がいる。ユリナさん1人に、2人の剣士が立ち向かっている。
剣士2人、寸分の油断もなく構えている。
ユリナさんはひもを振り回すだけ、隙だらけなのだ。
かがり火はあるが、もっと光が欲しい。
剣士2人に左右から斬りかかられたユリナさんは、ただ右を向いた。
スパン。こ気味いい音がして、ユリナさんは斬られた。
斬られながら、踏み込むユリナさん。
「ユリ・・」
「スライムパンチ」
パーーーンと、右の剣士の体が弾け、空に舞った。
「ぐげ」
「ぎゃっ!」
「ぐわっ」
肉片と剣の破片のようなものが、高速で飛び散った。
左の剣士、数人の盗賊が血飛沫をあげて倒れた。
逆光で見にくい。何をした。
「てめえ、人間に化けた悪魔だな!」
盗賊の間から、手に炎を纏った魔法使い3人が現れた。
「死ね!」
「今だ!」
「ファイアランス」
3本の火の槍が放たれた。
後ろから見ていると、ファイアランスの光でユリナさんが光った。
光った?
「ファイヤースプラッシュ!」
知らない魔法の名前。
ユリナさんが叫ぶと、四方八方に火の玉が飛び散った。
「ぎゃあああ!」
魔法使い3人はもちろん、何人もの盗賊が火に包まれ、砦の中から悲鳴が聞こえる。
ユリナさんが何かに気が付き、砦の奥に走って行った。
ダメなのは頭では分かっている。
だけど俺と仲間は、砦に入って行った。
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