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102 嫌われ者の『愚者』でいい

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「私、疲れたからリタイアする」

宣言した。


ゼル、モエバの両試験官は、私が何をやるか予測がついていた。

「・・ユリナ受験生、ここで離脱したら減点以前の問題になる。Eランク降格だぜ」

「試験官ごめんね。私、ランク降格と昇格凍結は確定よね」

「何とかしたいが・・」
「ダメよ。試験官を最後まで演じて」

「そうだな。降格は免れない」

「どうせ、ゴブリンキング討伐で、Cランクに昇格のジョーカーカードは持ってる。みんなとは違うのよ」

「なんだよ、そりゃ」
「ふざけるな」
「お遊びかよ」

「そういうこと。ソロならランク関係ないもん」

「聖女とか呼ばれてるくせに!」
「勝手な女じゃねえか」


「罰則は厳しいぞ」

「ギルドカード剥奪でなけりゃいいよ。じゃあね」

来た道を走った。


ガノン君が付いてくる。やめてくれ。

パーティーを組んで活動する人には、意見を聞かせるためにも、ランクが大事だ。

特に彼のような有能な人間は、ランクを上げるべきだ。

加速はしない。だけど「超回復走法」はスピードも落ちない。

森の中の5キロを15分。3人の警戒役の盗賊に見つかったが、トレントの枝で動けなくした。

日も暮れた。

木で組まれた盗賊砦の門は閉まっていた。私はミスリルポンチョ、ミスリルマスクの新スタイル。

「銀色の悪魔だよ・・」

門の上の見張り所にいた2人が私に気付いていた。

他の盗賊を呼んでいる。

閉まった門の左側。私は体当たりした。

「スライム変換、最弱アタック」

私の体は崩れた。ぺちょっ。

『超回復』

ぱーん。ばきばきばきと、門ごと崩壊する。

見張り台から、男が投げ出された。

木の破片は高速で弾けた。中に入ると、3人が倒れてた。

体は小さくなったままだ。

砦の左奥に走った。かがり火で視界は確保できる。

左側の建物に向かい、3つの家屋のドアを開けた。

三軒目で見つけた。



頭に血が昇る。

裸の若い女性3人が藁の上に転がされていた。

もう何日もひどい目にあわされてきたのだろう。

みんな右足の踵辺りにえぐられた跡がある。逃亡防止に腱を切られた。

裸で汗をかいた大男がいる。

「てめえ誰だ。変なマスクしてるが、なんでガキがいる」

私は子供の姿のままだ。流星錘を出して投げ、男の首に巻いた。

「なんだこりゃ」

私の身長60センチ減。「死ね」

「等価交換」ぱちばちぃ!

男の首、顔、胸が干からびた。

「ひっ!」
「3人とも、大変だったね。家に帰してあげるから待っててね」

「・・帰れるの?」
「うん」

「本当に?」
「もう殴られて、痛い思いはしなくていいの? う、うえっ」

「必ず助ける」

裸の男は死んでいた。
上級ダンジョンクリアの景品で出た、収納指輪に収納した。

そして彼女達に『超回復』をかけて服を渡した。

話を聞いた。内容の悲惨さに怒りを覚えた。女性3人には長い槍を渡した。

戻ってきたらドアを5回たたく。それ以外は盗賊だと言っておいた。

「槍は使っても使わなくてもいい。敵が来たとき降伏してもいい。必ず駆けつけるから」

外に出た。

ここから門が見えるから、門の前で戦いながら、この小屋に注意を払える。

「彼女達の体だけは治せる。ただ、それだけしかできない」

心の傷は治せない。

「外道どもが・・」

門の前に行って、退路を塞ぐ。誰も逃がさない。

◇◇Dランク冒険者ガノン◇◇

ユリナさんが、Cランク試験を放棄した。

上から目線の言葉に怒ってる奴。あいつらは、ユリナさんの目の変化に気付かない奴らだ。

初対面のときから見せていた、情けない顔ではない。

鬼。

少し前、冒険者ギルドを賑わせた人の凄み。

俺は見たい。

ひとつ「Dランク冒険者によるゴブリンキング討伐」

ひとつ「Dランク冒険者による上位ダンジョン単独踏破」


「試験官、ガノン受験生は予定を変更して、盗賊の砦の監視に当たります」

「ガノン」

「みんな、この答えが外れだったら、2ヶ月あとに再試験受けるよ」

その価値はある。

なんと、俺の仲間も付いてきた。

「お前ら・・」
「貴重なもんを見たいのは一緒だ」

「あとで試験官に謝ろうぜ」

ユリナさんは走るのが速くなかった。1分も全速で走ると背中が見えた。

だけど引き離された。走るペースが落ちないのだ。

しばらくして、俺達は息を切らしながら、遅れて砦に近付いた。

門が空いて・・いや、破壊されている。見張り台も傾いている。

ユリナさんを探すまでもなく、門の内側にいた。

銀のポンチョとマスク。てるてる坊主のような格好。

覗く細い手足は彼女のものだ。

右手に何かのひも。それだけだ。

なのに、彼女の足元には、10人以上の男が倒れている。

10人を越える盗賊がいる。ユリナさん1人に、2人の剣士が立ち向かっている。

剣士2人、寸分の油断もなく構えている。

ユリナさんはひもを振り回すだけ、隙だらけなのだ。

かがり火はあるが、もっと光が欲しい。

剣士2人に左右から斬りかかられたユリナさんは、ただ右を向いた。

スパン。こ気味いい音がして、ユリナさんは斬られた。

斬られながら、踏み込むユリナさん。

「ユリ・・」
「スライムパンチ」

パーーーンと、右の剣士の体が弾け、空に舞った。

「ぐげ」
「ぎゃっ!」
「ぐわっ」

肉片と剣の破片のようなものが、高速で飛び散った。

左の剣士、数人の盗賊が血飛沫をあげて倒れた。

逆光で見にくい。何をした。

「てめえ、人間に化けた悪魔だな!」



盗賊の間から、手に炎を纏った魔法使い3人が現れた。

「死ね!」
「今だ!」
「ファイアランス」

3本の火の槍が放たれた。

後ろから見ていると、ファイアランスの光でユリナさんが光った。

光った?

「ファイヤースプラッシュ!」

知らない魔法の名前。

ユリナさんが叫ぶと、四方八方に火の玉が飛び散った。

「ぎゃあああ!」

魔法使い3人はもちろん、何人もの盗賊が火に包まれ、砦の中から悲鳴が聞こえる。



ユリナさんが何かに気が付き、砦の奥に走って行った。

ダメなのは頭では分かっている。

だけど俺と仲間は、砦に入って行った。

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