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97 VS火のジュリア

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私ユリナは潜伏している。

かけがえのない親友モナ、ナリス、アリサの3人を殺したジュリアに奇襲をかける。

勝率は低い。そんでも、やる。

隣国に嫁入りするジュリア。あの女が煌びやかな馬車に乗って、この場所を訪れるのを待っている。

本格的な警戒が敷かれる前、3日前から体をスライム変換して寝転んでいる。

スライムボディーから人間の肌に戻ると見つかるから、昼間は空腹でも我慢。暗くなって『超回復』。瞬時にスライム変換でボディーの補充をして、じっと待っていた。

やっと、その日が来た。


◇◇マアミ侯爵家 ジュリア◇◇


やっと、この日が来た。

大手を振ってマアミ侯爵家の娘として、煌びやかな馬車に乗って街から送り出される。

今、侯爵家の門を出た。次は大聖堂に行く。王都から招いた司祭が、私だけのために祈る。

侯爵の子供として認知されているが、母親はマアミ侯爵領の領都にある雑貨屋の娘。

私が父の火遊びが原因で生まれたことは、周知の事実だ。

8人の当主の子供で4番目の私だけが継承権を持たない。

皮肉なことに、私だけが父の素質を受け継いで、兄弟で1人だけ火魔法の適正A。

父も私の扱いに困っていた。

母親が貴族である7人の兄弟と微妙な関係ながら、いじめられたことはない。早くから火を操れた。

8歳の時、家に入った泥棒を見つけた。

ためらわず、庭のバラ園ごと丸焼きにしてやった。

あの火柱を見た兄弟は、誰も私に話しかけてさえ、こなくなった。

15歳のとき、父の元に王から「秘宝探し」のお願いがあった。

父に指名され、「名誉ある任務」という厄介払いをされた。

だけど魔法適正の高さは惜しい。縁が切られず多額の金銭を持たされた。

そのときは、こっそり街から追い出された。

本当にお宝があるのなら、掠めとるつもりだった。作り上げた6人パーティーの中でもスターシャ、ウイン、私と同じくらい性根が腐った仲間と悪どいこともした。

最後にカナワの街で4人の「劣等人」をはめた。

その時、火だるまになったユリナが岩肌に激突しながら100メートル近い高さから落ちて、普通に歩き出した。

ぞくっとした。

「秘宝」が見つかった可能性よりも、嫌な予感がした。

風のカルナを囮にしてパーティーメンバーから離れ、父親の領地に帰ってきた。

光のマリリは何も言わず、どこかへ消えた。

領都の隣街で次の行き先を考えているとき、父から呼ばれ隣国の賓客護衛を言い渡された。

屈辱。

最初は娘として紹介されなかった。単に戦闘力が高い護衛として、呼ばれたことを知った。

そこで私は炎を撒き散らした。

ハイオーガクラスの、弱っちい刺客数人が隣国の賓客を殺しに来た。

鬱憤晴らしだ。刺客全員をあぶってやって、躍り狂うように焼き殺してやった。

気分良く暴れただけなのに、守護神のごとく称賛された。

特に助けた隣国のハサ侯爵家の跡継ぎショーン25歳が、私にご執心だ。

私は22歳。最初から貴族同士の良縁はないし、今さら考えてもいなかった。

だが父が、継承権さえ持たない私の「格」を裏で上げた。ショーンとの縁談をまとめてしまった。


私は運がいい。

Aランク冒険者でもある私はギルドに顔がきく。情報を集めた。

私は第二婦人になるが、第一婦人は体も弱く子もいまだにいない。実家の家格も伯爵。

子供さえいなければ、第一婦人を暗殺すればいい。その後は、ハサ侯爵家をどうにでもできる。

ジョアンヌ聖国には、お宝探しをしたいダンションが3つある。


そしてカナワの街にいたユリナと同じか、同等のスキルを探す。


ユリナは馬鹿だ。

冒険者ギルドで情報の遮断をしていない。

金と時間と人手を使い調べようと思った情報を開示してやがる。逆に拍子抜けした。

一度は「カナワのユリナ」の足取りが途切れた。

いきなり水のウインは死亡。時間を置いて、土のスターシャ、氷のシクルまで消息不明。風のカルナもユリナ探索にいったきり行方不明だ。

シクルなんて、私でさえ勝てる自信がない。

ユリナが、とんでもない力を手に入れた。きっと復讐に来ると思った。

護衛を雇って迎撃体制を取った。

だけど、しばらくしたら「オルシマのユリナ」で登録しやがった。

尋常ではない討伐履歴に対して魔力ゼロ。

そこまで特徴的な情報を隠さず、別人になったつもりなのか。

劣等人なのに、不思議な技を使うことも、別に調べてある。

人を雇い、この街の冒険者ギルドに2日に1度は行かせている。ユリナのギルドカードに変化があれば、必ず報告させている。

ユリナの最新の記録は8日前。

Dランクで上級ダンジョンの単独踏破に成功している。あの劣等人がAランク並の仕事を達成した。


興奮でゾクゾクしてくる。

すでにAランクの私が同等のスキルを手にしたら、どこまで強くなる。

何でも欲しいまま。ユリナなんて気にしなくて良くなる。


おっと、頬が緩んだが気を引き締めよう。

父には知られていないが、冒険者時代に悪どいことした。その被害者の生き残りと縁者が、街の外で私を襲撃しようと待っている。

気がかりなユリナは、8日前に1200キロ離れた場所にいた。ここには来れない。

ショボい襲撃者は護衛騎士に任せればいい。


大聖堂は貸し切りだ。

周囲であふれる人々は私1人を待っている。

私は大聖堂の手前で馬車を降りた。沿道に詰めかけた民衆に一礼して手を振った。

沸いた。

ここから先は神殿騎士が並んでいる。総ミスリル装備の騎士が100メートルの間に何人いるのだろうか。

「炎のマアミ侯爵家」を強調したい父が、私にデモンストレーションを勧めてきた。

大聖堂がある敷地に入る前に、父が決めたセリフとともに火魔法を上空に討つ。

炎の魔力を練る。

私の右手から数メートルの火球が浮かび、うねりだす。

横に広がって20メートルの鳥の形を作った。

「マアミに暮らす人々の願いを背に乗せ、天高く羽ばたけ。ファイアバーーード!」

うおおおおおお!

不死鳥のごとく炎の尾を引きながら、私が放った火の鳥がはるか上空に舞い上がって行く。

おおおおおおお~!

再び、民衆の声に地面が揺れそうだ。

適正Aの火魔法使いの中でも2割しか使えない超高等魔法。

少し息切れしたが最高だ。

ここでもう、魔法は必要もない。次に撃つなら、襲撃者がいる街の外の溪谷地だ。

私は大聖堂の敷地に入った。

ゆっくりと荘厳な建物に向かう。

嫌な思いもした故郷だけど、いい印象を残しておさらばできる。

大聖堂の前に立った。

上級の騎士2人が、もったいぶりながら重そうな扉を両側から開けている。

大聖堂の中のステンドグラスが見えてきた。

私の輝かしい未来を七色に彩り、希望だけが溢れている。

頬が緩んだ。




一瞬、上に影がさした気がした。

避けようとしたのに反応が遅れた。

跳ぶ前に何かが降ってきた。

べちゃ。

「は?」

ぱーーーん。


青い水のようなものが両足に当たった。破裂音がした。

なに?

次の瞬間、私は空を舞っていた。

視界も上下が逆になりかけていた。




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