ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる

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84 見よ、ファイヤースプラッシュ

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私は、ルシア男爵家に招かれた。

それも、南部の厄災を未然に止めた、ギルドも認めた功労きゃとして。

なのに!

男爵の次男に絡まれた。

今、屋外訓練場の試合スペース。面倒ごとは、1回で済ませたい。

まだ昼前だけど、夕方に、エールが飲みたい。

長引くくらいなら、こいつら全員を再起不能にして、時間短縮にしてもいい。

相手は計23人。兵士20人、火属性2、風属性1で魔法使い3人の構成だ。

「私はDランク冒険者ユリナ。順番はこっちで決めるわ」

戦い方は受け1本にする。

副ギルマスに、ギルマスは信用していいと言われてる。

だけど、男爵家の人間には、手の内を見せない。

多くの人が知る「自己回復」だけで戦う。

実験したいことがある。必要なのは、最初に指命した女性の火魔法使いのみ。

「劣勢人がゴブリンキング討伐とは、大きく出たわね。痛めつけて、キング素材の入手方法を吐かせろと言われてやる」

「あなた火魔法適正Bなのよね。豪炎、使える?」

「使えるわよ」

「じゃあ、撃ってきて。ほい、詠唱スタート」

「は?」

教会上層勢力だけじゃない。これから色んな人間と戦う。

現に今も男爵家という有力者の、息子に絡まれている。

ここでは、上位火魔法に「超回復&破壊的絶対領域」がどう作用するのか知りたい。

何か惨事につながっても構わない。周りで私を包囲するやつらは、私の中では敵だ。

訓練場の試合スペースは30メートル四方。


私はスーツを脱いで裸になり、一番ボロボロのミスリルタンクトップを羽織ってる。

開始線より下がり、7メートル離れた。

魔法使いが詠唱を始めない。

「早くしてーー」

暇になって、エールを出して飲んだ。

「なっ、こんな時にお酒。ふざけないで!」

詠唱を始めた。たちまち彼女の頭上に2メートル近い炎が出来上がった。

さすがは貴族家に雇われるレベルた。

「ユリナ、これを食らう気なの。死ぬわよ、降参しなさい」

「ごくっ。ぷは~。そうだ、干しオーク出すから、あぶって~」


「ざけんな!」

ギャラリー、ギルマスが騒然とする。熱の塊が飛んできた。

ごごごごごう、といい音。

後ろにも兵士がいる。そいつらが悲鳴を上げている。

「心配しなくても、受けるから」

右手の干しオーク、膨れ上がる炎の塊にかざした。

熱いけど、こんなもん。

あの日、ジュリアに食らった熱波を思い出す。

だけどジュリアの豪炎に比べれば弱い。頭の芯は冷静だ。

ぼうっ!

うっかり手に持ったまんまの木のジョッキから炎が上がった。

干しオークも食べる前に炭になった。

「豪炎」。コアが近付く。熱くて痛い。

だけど半年の間に、この程度の苦痛は何度も受けている。

炎のコアが私の胸に入るタイミング。

私は口から火を吹きながら意識した。

「超回復&破壊的絶対領域」

ばちぃ!ぱーーーん。ぱん、ぱん、ぱぱぱぱぱぱ!弾ける音。

惨事が起きた。

物質的に安定している鉄の剣は、折れて体から飛び出した。

炎は、物質的に安定していないエネルギー塊。これに体内から弾くと・・

「ぎゃああ!」
「あぢいい!」
「助けてえ!」

私の上半身から炎が、四方八方に飛び出した。

それも高速で。

「秘技、ファイヤースプラッシュを編み出してしまった・・」


「ぎゃああああ!」

「やばっ」

ひときわ大きな叫びは、術者の火魔法使いだ。

幾つもの炎を体の全面に受け、頭から火を上げている。

「まずい」

私はダッシュで彼女のとこに走り、手をつかんだ。

『超回復』

傷が治ったのは一瞬。
服も火が着いていて、またも絶叫。

「めんどくせえな!」

コイツの服をひっぺがして、素っ裸の女に、二度目の超回復。

裸で放置した。

辺りを見回すと、5人の兵士とガルサが倒れていた。

訓練された兵士に、頭に食らった間抜けはいなかった。

兵士5人は回復したよ。可愛そうだからね。

「焦った。予想いてなかった。周りが石造りじゃなかったら、大惨事だった」

どよどよどよ。

「じゃあ、気を取り直して2回戦」

「ま、待ってくれ」

「なによ。次は兵士バルコよ。早くして」

「だから待ってくれ。ガルサ様も火傷をしているのだ」

「そのまんま置いときなよ。待ちたくない・・」

仕方ない。

私は訓練場の真ん中に座って2杯目のエールを出した。

ギルマスは苦笑いしている。

兵士が近付いてきた。
「すまん、ガルサ様も治療してもらえぬか」

「嫌だよ」

「なぜだ。私も含め、負傷者はみんな、治してくれたではないか」

依然として、ギルマスは見ているだけ。

「私は、劣等人。スキルの発動に必要な魔力がないのよ」

「し、しかし今の回復力は・・」

「名もなき神が、たまに力を貸してくれるのよ。あなた方にな悪意がないから、治してくれたんだよ」

「し、しかし・・」

その時、やっとギルマスが口を開いた。

「見たところ、ガルサ様の火傷は左足だけだ。だが重傷だな」

冷たい目でガルサを見ている。

「早く男爵様に事情を話し、高レベルポーションをもらってこい」

「わ、分かった」
「な、ならん。父上に言ってはいかん」

「おいガルサ、オルシマ冒険者ギルドのギルドマスター、ベン騎士爵が男爵に報告に行くぜ」

「なに?」

「あのな、今日のユリナは男爵様に呼ばれた客で、ギルドの功労者だ」

「・・」

「ユリナ、ルシア男爵家で敵対するなら、ギルドはユリナを守るためにバックアップするぜ」

「ギルドが、それをやるのか?」

「やるさ。ギルドは会員に意外と厳しいペナルティが課せられる組織だ。その反面、今日のような理不尽から会員を守る」

それがやれなきゃ、100年前の腐った組織に戻ってしまう。

そう、きっぱりと言った。

ギルマスベン。44歳。身長185センチ、胸板ドーンの「上位騎士」スキル持ち。

踏んできた場数が違うだろ。

火魔法使いとの戦いから飛び火した炎が空にも舞い、このことがバレた。

当主も含めて何人もの人間が訓練場に飛び込んできた。

ギルマスはガルサの独断と思ってる。

だけど、「ルシア男爵家による冒険者への卑劣な振る舞いが行われた」

声高らかに叫びながら、男爵と話をつけに行った。

待つように言われた。

私は自分の予想以上に、派手に立ち回ってしまった。

やる気もなくなった。

訓練場の真ん中でエールを飲んでいる。


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