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77 ダルの10日間限定、奴隷生活

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◇◇オルシマCランク冒険者ダル◇◇

俺は今、奴隷1と呼ばれている。

冒険者登録は2年前。

友人2人と4年前から訓練して狩りに出かけていたが、あえて登録をしなかった。

全員が16歳になると同時に冒険者になった。

俺は身体強化1、剣技2のスキル持ち。2人の仲間も強力スキルを使って、同じくらい強かった。

2年間の下地は大きかった。登録2か月目にはFランクからEランク。

そこから3か月でDランクに上がった。

装備、ポーション、野営道具と以外に金もかかり、思ったほど討伐実績を作れなかった。

だが、一目置かれる若手となり、1年でCランクに上がった。

これでも早いと言われ、いい気になっていた。

有望な若手で4年かかるといわれるBランク。
昇格を2年以内に達成しようと燃えていた。

そこに落とし穴があった。

上級ダンジョンの22階から出る高レベルオークを狩って、一気に30階を目指すことにした。

ギルドでは止められた。受付嬢メイさんは心配性だなって、3人で笑ってた。

22階でサクッとオークを倒した。強行軍だ。

25階まで、サクサクのサクッ。

しかし26階から敵が強くなった。引き返すべきだった。

勢いで30階に到達したときには、手持ちのポーションも10個だった。

ボス待ちをしていたBランクパーティーが見かねて、ボス戦の同行を申し出てくれた。

だが、寄生した事実が残る。小さなプライドで動いていた俺達は、善意の申し出、これを断った。

結果、ギリギリでボス戦には勝ったが、怪我をした。

奴隷1の俺は左手、奴隷2は左腰、奴隷3は右手に完治しない傷を残してしまった。

俺達は荒んだ。

先月から2回、Eランク冒険者を無理にパーティーに誘って、わずかな報酬でこき使った。

味を占めて3人目のターゲットに噂のユリナを選んだ。完璧に、ぶちのめされた。


俺らも完全には腐っていない。

賭け金を払えず待ってもらおうとお願いすると、奴隷に認定された。

飲みかけのエールを多くの人が見ている前でかけられた。

それが「霊薬」。変な呪文も唱え治療完了と言われた。

屈辱のシーンだが、サルバって人が凄いオーラ出しながら、羨ましそうに見ていた。


そのまま上級ダンジョンまでの25キロを走らされた。

なぜか左手に痛みもなく、走り続けられた。腰を痛めている奴隷2も走破した。

ダンジョン前のホテルでは1人一部屋ずつ取ってもらい、夕ご飯、朝ご飯も満足ゆくまで食べた。

なぜか、半年ぶりに体が快調なのだ。


いよいよダンジョンアタック。

転移装置で31階に移動。30階に上がると、フロアボス部屋前が騒ぎになっていた。

ボス部屋から出てきた5人組パーティーの中の、2人が重傷を負っていた。

1人は右足のすねが折れていた。半年前の俺達以上の重傷。

1人は腹が裂けて血まみれ。もうダメだと思った。

悲壮感の中。

ユリナさんは軽い足取り。

倒れた冒険者に近づき、信じられないことをした。

収納指輪からエールを出すと、腹が裂けた患者の傷口にかけたのだ。

そしてしゃがんで「回復気功」と言った。

ぱちっ。男が起き上がった。

全員があぜんとした。

次は足が折れ、頭に包帯が巻かれた女の、頭を抱いた。

「大丈夫だよ、傷跡は残んないからね」。優しく諭した。

そして「気功回復術」と唱えた。

ぱちっ。何か音がした。

周囲を見渡すと、「お大事に~」と言って29階に上がった。

階段を上がりながら、治療代をもらうのを忘れた。そう呟いた。

俺達は有り金を使い、手や腰に後遺症を残したまま冒険者に復帰した。

その治療費が、3人で800万ゴールド。

あれほどの治療を施した代金いくらだ?
もらい忘れた?

てへへって、笑ってるよ。なんだこの人・・

29階では初戦がオーク2、豚2。

半年前ならいざ知らず、今の俺達にどうしろと・・

なぜか左腕に、最後まで力が入った。腰がおかしいはずの奴隷2も、動きがキレていた。

もしやユリナさん、さっきの冒険者と同じことしてくれたんじゃ・・

ユリナさんは防御力がないミスリルタンクトップ。ミスリルソード一本で、大きなオークと戦った。

今回の彼女の計画は、30階から28階セーフィーゾーンを目指す。
1日休んで帰って来る。

予定では片道2日で計5日。

それを2回繰り返し、30階フロアボスに挑戦。計10日で地上に帰還する。

29階の開けた場所で初日の野営。不寝番はすべて、ユリナさんがやってくれた。

28階と30階のセーフティーゾーンでは、重傷者を見つけると必ず治療した。

1度、死ぬ寸前のやつを助けた。いきなり走って、怪我人に飛び付いた。

仲間に怒鳴られ、殴られた。

だけど治療後、治したことも告げずに去った。

「いいんだよ。頼まれてもないんだから」。飄々としていた。

最終日の10日目。30階ボスに俺達3人は劣勢だった。

だけど、ユリナさんを守ろうと思って必死だった。

そんな俺達にユリナさんは何度も回復をかけてくれた。

「無理なら代わるよ。大丈夫だよ」と言ってくれた。

装備と彼女のおかげで勝てた。

地上に出ると、ユリナさんを殴った冒険者のパーティーが待っていた。

「あんたが噂のユリナ様だったんだな。お陰で助かった。殴ってすまなかった」

稼げているBランクパーティー。大きくジャラジャラ音がする革袋を差し出した。

だけどユリナさんは言った。

「多すぎ。この力を貸してくれた、名もなき神との契約で、治療費は1000ゴールドに固定されてんの」

笑って、小銀貨2枚だけ受け取った。


オルシマの冒険者ギルドに帰還し、獲物の査定額は460万ゴールドになった。

なんとユリナさんは均等に分けてくれた。

だけど厳しい口調で言われた。


「低ランク冒険者を騙したことがあるそうね」

「・・はい」

「冒険者はすべて自己責任。だから騙された方が悪い」

「え・・」

「だけどね、やられた側が、やった人間を殺すまで追うのも勝手」

そして、抑揚もなく、心臓に響く声で言われた。

「私の知り合いがやられたら、あいつらみたいに殺す。あいつらみたいに、心臓が止まるまで、ナイフを突き入れる・・」

ユリナさんの目を見て確信した。

この人の妙な心の強さと優しさは、戦いの中で生まれてる。

大切な何かを失い、血みどろでもがいて作られたのだろう。

人も殺している。


その場を去った直後から、俺たち3人は迷惑をかけた人を探しに行った。


金銭はもちろん返す。そして許してもらえるまで、謝るしかない。

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