上 下
69 / 188

69 盗賊退治でお勉強

しおりを挟む
マーロン君とドラゴニュートのラルーフさんの恋の橋渡し。中途半端にやった。

結果は彼ら次第。


今度こそ受け付けカウンターに行き、帰還報告をした。

カウンターでは、伝言あり。

オルシマの副ギルマスジェフリーさんからだった。

「安心してオルシマの街を訪れて下さい。どういうことだろ」

オルシマのルシア男爵家次女アイリーン。
あの女の障害は、すでにない。そんな内容だった。

考えられることだ。

アイリーン自身、色んなとこで恨まれてる、と思う。

最初の暴走馬車も主人はアイリーンだった。

私が会ってから1か月以上は経っている。

別の問題で逮捕、または復讐されてる可能性も高い。

わざわざ副ギルマスが、何の後ろ盾もないEランク冒険者に伝言をくれた。

一度だけど、話した印象は良かった。

回復スキル目当ての罠って線も薄そうだ。

ダンジョン前からオルシマまでは25キロ。街道があるので、全力走法なら一時間で行ける。

だけど、そういう無茶を20日も続け、気持ちがおかしくなりかけた。

必要がないときは、普通に歩く。

恐らくオルシマの街の門が閉まったあとの到着。

「いい川があったし、その近くで眠ればいいや」

魔物が出たときのために、ミスリル製のワンピース1枚とサンダル。4時間ほど歩いて木陰で休憩した。

ウサギが1回顔を出しただけで、何もなかった。

東側に海があるオルシマは、豊富なダンジョン素材を生かした交易も盛ん。
街の人の生活にも余裕がある。

南に100キロ行けば国境。

北の王都からオルシマまで1100キロ。

さらに南100キロの国境地帯、新興貴族や商人がうまく立ち回り、多くの交易都市が作られている。

それらの勢力が、両国の王家が軽視できない力を持っている。

いざというとき、私が逃げ込める場所も多い。だから、ここを選んだのもある。

今、商人さんの馬車が私と同じスペースで休憩している。

食材を扱っているグルールさん。護衛がCランク3人。

オルシマに帰るところだそうだ。

最近はエールばかり飲んでいる私は、酒の産地について教えてもらった。

お礼に火水風土のドラゴンパピー干し肉を4枚出したら、驚かれた。

出所を聞かれ、素直に素手で捕まえたと言った。ジト目で見られた。

本当のことを言った方が、信じてもらえないのが、今の私である。

オルシマのグルールさんの店に行って、ドラゴンパピーを卸す約束をした。

肉、牙、爪、肝を売って、皮と鱗は私がもらう。これで契約成立。


話をしていると、護衛の斥候役の人が何かに気付いた。

この街道、平和ではあるが100パーセントではなかったようだ。

西、つまり山側の草むらから盗賊が8人出てきた。うち弓持ちが2人。

護衛の人を見ると、商人さんを守るように剣を構えている。

プロだ。

「緊急事態だけど、斥候の人から見て追加部隊はいそうかな?」

「いや。少なくとも100メートルの範囲内には誰もいない」

「私がまず、弓持ちを潰して来るから、頑張ってねー」
「危ないぞ。おい!」

「何ヵ月がしたらCランク試験受けたいの。余裕があれば、私の採点もお願い」

「うわ、呑気だな」

3人は護衛任務が多いと言っていたが、なるほど隙がない。

私は片方の弓持ちに向かって直進した。

その前に立ちはだかる盗賊2人に剣で腹を斬られたが、気にしない。

『超回復』前転して、立ち上がった。

弓持ちに急接近すると、思い切り矢が飛んできて左胸に刺さった。

「ぐえ。試験でこうなったら不合格なのかな」

『超回復』

「仕留めたと思って気を緩めたね」

魔鉄棒を出して、思い切り弓持ちのこめかみを殴った。

「ぎゃあっ!」

「なんだ、あの女」
「こっちの方がやべえ」

商人さんの護衛に向かったのは2人だけ。
残り5人は、異様な私の方に、視線が向いていた。

2人目の弓持ちの攻撃が首筋に当たった。
のけぞったとき、剣士のロングソードの一撃が腰に入った。

「『超回復』そして流星錘」

弓持ちの首に流星錘を投げて巻き付けた。
矢とロングソードの損傷分は、きっちりいただく。

「等価交換」ばちっ。どさっと弓持ちが倒れた。

「致命傷だぞ。なんで女は死なねえんだ」

盗賊4人、私1人での対決。

馬車の護衛手練れ3人に、盗賊わずか2人。

私は4人の男に20回ほど、めった斬りされた。

どさっ、どさっ。だけど倒れたのは盗賊の中の2人。

そのときには、商人さんの護衛3人が来てくれた。

残った盗賊の片方が逃げ出したが、疲れ切っている。

息が上がりながら必死に走る大男。私が追った。

大声を出しながら、鉄の棒を振り回し、大男を追う痩身女性。

絵面は私の方が盗賊かも。

200メートル先で盗賊をタコ殴り。みんなのとこに引きずっていった。


「どう、私、Cランク試験に受かるかな」

聞いてみたが、判定はグレーだった。

「ユリナちゃん、結果的には尋常じゃないほど強いけど・・」
「攻撃食らいすぎ」

「俺が試験官なら、最初の一撃で不合格かな・・」

「魔物討伐で点数を稼いでるなら、捜索系の試験を無難にこなすのが一番かもな」


ソフトな言葉ながら、間違いなく不合格だった。

「回避」。試験に受かるには、忘れていた、回避という技を覚えねばならない。

商人さん達とは、そこで別れた。


私はオルシマの街に入る前に、もうしばらく休むことにした。

盗賊は商人さんの護衛の稼ぎになるし、そのまま連れていってもらった。


盗賊戦で貴重な体験ができて、それで満足だ。

「ぷは~。いい汗かいたあ」

戦闘のあとのエールもおいしかった。

   
しおりを挟む

処理中です...