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1 騙された4人

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ユリナという名前は気に入ってる。

18歳160センチ。

だけど今、騙されて大ピンチ。

悪いのは自分。

あんな口車に乗った私が悪い。

◆◆◆
昨日。カナワの街にある冒険者ギルド。

「ねえユリナ、明日から何日か暇? ダルクダンジョンに行くんだけど、料理とか雑用係が何人か欲しいの」

「え、いいの? ジュリアのパーティーはAランクとBランクばかりの高ランクパーティーだよね。ダルクダンジョンも高ランクだし」

「いざとなれば、私の「豪炎」もあるから」

ジュリアの指先に、赤い炎が浮かぶ。

ここは魔法とスキルがある世界。

魔法、スキル、生まれ持った才能で生き方も変わる。

ジュリアは間違いなく勝ち組。

貴族家の生まれ。火の魔法に高い適正まである。

適正はAからFまである中のA。Bランクの「豪炎」まで使える。

最高Aランクの魔法「ファイアバード」。それすら習得寸前まできている。

ジュリアのパーティーメンバーも個々が強い。水、氷、風、光、土と適正も色とりどり。

私は何の適正もない。

なんと1000人に1人の劣等人だ。

魔獣、動物、昆虫も簡単な魔方陣を体の中に持つ。

私、そいつら以下だ。

「ユリナ、そんなに悲観しないの」

「あ、声に出てた?持たざるもののひがみよ。ごめん」

「最近は日照りの影響で薬草も少ないんでしょう。今回はトレジャーハントで儲かるはずだから、一緒に来て稼ぎの足しにしてよ」

私は貧しい農村から2年前、カナワの街に出てきた。

職業、底辺冒険者。

疫病で両親を亡くし、身寄りなし。

「劣等人」

烙印付きだから、嫁にもらってくれる家もなかった。

常に生活の余裕はなく、最近は特に厳しかった。

同じ「適正なし」の友達もジュリアが誘ってくれた。

私の親友たち。アリサ、モナ、ナリス。

この2年間、私達4人は互いを励まし合って生きてきた。

いつかお金を貯めて食堂をやりたい。

料理なら、スキルなしでもハンデにならない。そこまで感張ろうって、いつも話している。

私達は4人とも心から感謝した。
そうしてジュリア達に同行させてもらった。

それが間違った気持ちだと、つい20分前まで知らなかった。

◆◆◆

「ちょっと、冗談だよね。雑用係って約束だったよね。崖を降りるなんて・・」

下まで100メートル。

渓谷型の特級ダンジョン。

1階奥に空いた、直径100メートルの丸い穴。その淵になぜか、腰に紐を付けて立たされている。

目の前にはジュリア達6人が立っている。

やつは薄ら笑いを浮かべてる。

「ちゃんと命綱あるよ。岩もガリガリになってて、足場も大きい。余裕で降りられるよ」

「そうそう。ほら、10メートル下に、でっぱりがたくさんあるよね。そのどこかに祠があるわ。祠に何かあるから、取ってきて」

「け、けど、足場の周りも穴があるし、あれは岩トカゲの巣だよね・・」

「大丈夫。トカゲが顔を出したら、魔法でやっつけるから」

「逆らうなら、ここで丸焦げになる?」

騙されてた。

170センチの金髪美人ジュリアは、注目されている反面、黒い噂もあった。

だけど何の適正もない私達に優しかった。

ご飯をおごってくれた。簡単な仕事で稼がせてくれた。

この2年間、かなり助けてもらった。
私達4人にとって、いい先輩冒険者だった。

何のことはない・・

今日のための仕込みだったんだ。

「ほ、本当に焼かれるわ。行こう」

「魔法で岩トカゲから助けてくれるのよね」
「ちくしょう・・」
「・・騙された」

ここで逃げても、ダンジョン出口まで4キロ。
私達だけで生きて帰るのは不可能。

ジュリアに従って、崖を降りる選択肢のみ。

5メートル降りた。

目標の半分で岩トカゲの巣にさしかかった。

「今はトカゲも寝てる時間。大丈夫、大丈夫」

自分に言い聞かせながら、8メートル地点。

もう少しと思った。

「ぎいいいぃぃやあぁぁ!」
ナリスの悲鳴。

4メートルの岩トカゲが出てきて、ナリスの左足に食いついていた。

声がした。

「ナリス、助けてやるよ」

土の適正者スターシャ。彼女のストーンニードルが何本も飛んできた。

トゴッ、ドゴッ、ドゴッ。

ニードルは岩トカゲに命中した。

ドスッ!

「え?」

うそ・・

ストーンニードルの1本が、ナリスの胸に深々と突き刺さっていた。

「あ、なんで・・」

岩トカゲは落下した。けどナリスも命綱に、ぶらんと垂れ下がった。

音を聞いて、岩トカゲが何匹も出てきた。

「ナリス・・くそう」

私達は指示された足場に一気に降りた。

モナの悲鳴が聞こえた気がした。

私にも上から岩トカゲの牙が迫り、確認する余裕なんてない。

岩トカゲの牙を避け、祠を見つけた。

「あったよアリサ!」

「中のもん取り出して引き上げてもらおう」

「あれ?」
「ユリナ、な、なに・・」

祠はあった。

幅1メートル、奥行き2メートルくらいの穴。中には、土を盛って作った簡単な祭壇のみ。


「ジュリア!」

「祠はあったの?中はどう」

「祠はあるけど、何にも置かれてない!」
「嘘でしょ。隠してない?」

「こんなときに嘘言えるはずないでしょ。岩トカゲが来る。引き上げて!」

「仕方ないわね。ここもハズレか」

ジュリアの目をみて悪寒がした。

ファイアランスが準備済み。

「アリサ、まずい」

祠に2人で飛び込むと、外が真っ赤になった。

けど・・

私だけ、完全に祠の中に入れた。

ほんの少し遅れたアリサは、体の右側に火炎を食らってた。

「ユリナ、悔しい・・」

命綱も炎を上げた。そのまま、アリサが落ちていった。

「ジュリアのやつ・・」

4メートルある岩トカゲ。祠が小さすぎて中には入れない。

安全地帯?いや、甘かった。

「シュルルル・・」
「幼体か・・」

幼体とはいえ、2メートル近い。来た。

必死に岩トカゲの顔を蹴る。3回目に、伸びきった左足を噛まれた。

引き摺り出さる。

なんでもいいから掴め!

地面のでっぱり。

右手でつかむ。

ぽこっと、でっぱりが取れた。

「なにこの丸いの・・玉・・・・ぎゃああああ!」

岩トカゲが噛む力を込め、一気に私を祠から引きずり出した。

「しぶとい。ギルドに報告されたら面倒。ここで引導を渡してあげよっかな」

ジュリアの呑気な声。

左足のキックが岩トカゲの目に当たり、解放された。

もう逃げられない。

けど、私は右手になにかの玉がある。

ジュリアの目的は、恐らくこれ。


かじってやった。

バキッ。

「壊れた・・。スキルオーブ? 何のスキルか分からないけど、発動しろ!」

ピー。スキル『』を獲得します。ピー。

・・・・

「なんだよ・・。適正ゼロだから、劣等人だから、スキルオーブでさえ反応なしかよ」

唇を噛んだ。

けど、もう終わりは迫ってる。

ジュリアの「豪炎」が完成間近だ。

「詰んだかな・・」


まあいい。

オーブを壊したし、ジュリアに一矢報いた。

上を見た。

オレンジの炎は極限まで膨れ上がっていた。




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