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第五十一話 仇討 その十九 魂
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「長の勤め、愛情もある……さ」
公一はノイの呟き聞き目を開いた。
「目を閉じていろと言わなかったかはてな」
膝の頭の位置などお構いなく、ノイは急に立ち上がった。
おかげで公一は強かに後頭部を床にぶつける事になってしまった。
「ついて来い」
公一は後頭部をさすりながらノイと陽炎の後に続いた。
「またお前を待たせてしまった。すまんなインテンジィバ・ストムよ」
ノイは振り返り公一に声をかけた。
「さあ、お前の役目の一つだ。早く私の隣へ来い」
「これから何をするんですか?」
「ああ、簡単に言うとインテンジィバ・ストムの骨を私たちが吸い込む、と言ったところだな」
「粉々にでもならないと飲み込めませんよ」
「ああ、砂よりも細かくするのさ。さっきお前が牙の剣を飲み込んだのと似ているかな」
公一は訳が分からず首を傾げた。
「お前の世界の考え方と、ここの世界の考えの違いさ。説明するよりも、やった方が早いな。さあ隣に立つんだ」
「インテンジィバ・ストム様をお呼びした時と同じですね」
ノイは違うとばかりに鼻を鳴らした。
「無駄口を叩くな。一緒に唱えるんだ」
ノイの顔を伺うと、厳粛な面持ちで目を瞑り、口の中で呪文を唱え始めていた。
その表情を見た公一は慌ててノイに倣った。その横ではノイは次の儀式に入ったようだった。
「母なる神よ、我に力の一端を使うことを許したまえ。ここからお前も一緒にだ」
ノイは一息継ぎ、次の呪文を唱える。
「我らの眷属であるインテンジィバ・ストムの魂を、再び我らの元に返し賜え。ここに残される魂の抜け殻を我らに与え賜え」
公一はノイの唱える言葉をたどたどしく追った。
ノイは呪文唱え終わった後、インテンジィバ・ストムの亡骸をじっと見つめていたが何も起こらなかった。
「なあ公一、お前ちゃんと唱えてなかったよな?」
「いや、なんか恐れ多くて。我が一族はちょっと……」
「不満か? 我が一族であることに不満なのか?」
公一は、食いつかんばかりの勢いで詰め寄ってきたノイの肩を抑え、必死の言い訳をした。
「決して不満ではありません。私が一族として列して良いものかと迷ったのでつい」
「つい、じゃない。ついじゃ。私とインテンジィバ・ストムが認めていることだ。何の遠慮もいらん」
難しい顔している公一に向かって吠えた。
「それともお前は、判っていて、とぼけているのか?」
「い、いえ、そんなことは……」
公一は目をそらした。
「お前って奴は……。もういい! 全て事が済んだら絶対に仕置きしてやる。覚えていろよ」
ノイの横では陽炎が楽し気に揺らいでいる。
「ええ。お手柔らかにお願いします」
「無駄口を叩くな。もう一度、やり直す。今度はちゃんと唱えろよ」
ノイと公一は声を合わせて呪文を唱えた。
呪文を唱え終わった時だった。打ち捨てられていたインテンジィバ・ストムの魂の拠り所は一瞬にして砕け散り、銀の粉になって宙に舞い上がった。
銀の粉は音を立てて渦を巻き始め竜巻となって二人を覆った。
「よし、上出来だ。だが、此処からが本番だからな」
ノイはサッと右手を上げると高らか叫んだ。
「インテンジィバ・ストムさらばだ。再び生きて出会える日を楽しみにしているぞ。公一、お前も何か言え」
「必ずノイ様を、光溢れる地上にお戻しすることを約束します。ご安心してください」
陽炎は激しく光を瞬かせたながら、竜巻の中心を貫くようにして虚空に飛び去って行った。
「公一よ。仕上げだ、じっとしていろよ」
その言葉を待っていたかのように、空中に激しく舞い踊っていた銀の砂はノイと公一の周りに一気に集まった。
銀の砂は二人の皮膚に当たった瞬間、皮膚に波紋を残して、次々と体の中に吸い込まれていった。
公一は唖然として皮膚の波紋に見入った。
「これは一体…」
驚きを言葉にした瞬間、銀の砂は容赦なく口の中に飛び込んだ。
「公一、口からも吸い込むか。いい考えだ」
全身で銀の砂を受けていたノイは公一の真似でもするように大きく口を開けた。
二人の身体は銀の砂の当たる時の波紋で美しく光り輝いていた。
「どうだ公一。私たちは新しい力を手に入れているのだ」
「驚いた―― としか言葉が有りません」
「そうだろうな。もう一つ教えておこう。今、私たちは生まれ変わっているのだ。私はノイであって、さっきまでのノイとは違う。そしてお前もだ」
「私もですか?」
「ああ、そうだとも。お前は少なくとも三回は生まれ変わっているのだ」
ノイの話が終わらぬうちに全ての銀の砂は二人の身体に取り込まれ、辺りは
再び静寂に包まれた。
「終わりましたか? 生まれ変わった実感が有りません」
「仕方ないだろう。見た目は同じだからな。生まれ変わる度に、尻尾でも生えるわけでもないぞ」
「そうですね。ノイ様は生まれ変わったっと仰いましたが、ノイ様にかけられた呪いはどうなったのですか?」
「呪いは解かれたはずだ。この闘技場の仕掛けが、そのままであれば元の場所にとばされていたはずた。だが私を騙した奴は、まだ生きている様だ」
「次はそいつですね」
ノイは大きく頷いた。
公一はノイの呟き聞き目を開いた。
「目を閉じていろと言わなかったかはてな」
膝の頭の位置などお構いなく、ノイは急に立ち上がった。
おかげで公一は強かに後頭部を床にぶつける事になってしまった。
「ついて来い」
公一は後頭部をさすりながらノイと陽炎の後に続いた。
「またお前を待たせてしまった。すまんなインテンジィバ・ストムよ」
ノイは振り返り公一に声をかけた。
「さあ、お前の役目の一つだ。早く私の隣へ来い」
「これから何をするんですか?」
「ああ、簡単に言うとインテンジィバ・ストムの骨を私たちが吸い込む、と言ったところだな」
「粉々にでもならないと飲み込めませんよ」
「ああ、砂よりも細かくするのさ。さっきお前が牙の剣を飲み込んだのと似ているかな」
公一は訳が分からず首を傾げた。
「お前の世界の考え方と、ここの世界の考えの違いさ。説明するよりも、やった方が早いな。さあ隣に立つんだ」
「インテンジィバ・ストム様をお呼びした時と同じですね」
ノイは違うとばかりに鼻を鳴らした。
「無駄口を叩くな。一緒に唱えるんだ」
ノイの顔を伺うと、厳粛な面持ちで目を瞑り、口の中で呪文を唱え始めていた。
その表情を見た公一は慌ててノイに倣った。その横ではノイは次の儀式に入ったようだった。
「母なる神よ、我に力の一端を使うことを許したまえ。ここからお前も一緒にだ」
ノイは一息継ぎ、次の呪文を唱える。
「我らの眷属であるインテンジィバ・ストムの魂を、再び我らの元に返し賜え。ここに残される魂の抜け殻を我らに与え賜え」
公一はノイの唱える言葉をたどたどしく追った。
ノイは呪文唱え終わった後、インテンジィバ・ストムの亡骸をじっと見つめていたが何も起こらなかった。
「なあ公一、お前ちゃんと唱えてなかったよな?」
「いや、なんか恐れ多くて。我が一族はちょっと……」
「不満か? 我が一族であることに不満なのか?」
公一は、食いつかんばかりの勢いで詰め寄ってきたノイの肩を抑え、必死の言い訳をした。
「決して不満ではありません。私が一族として列して良いものかと迷ったのでつい」
「つい、じゃない。ついじゃ。私とインテンジィバ・ストムが認めていることだ。何の遠慮もいらん」
難しい顔している公一に向かって吠えた。
「それともお前は、判っていて、とぼけているのか?」
「い、いえ、そんなことは……」
公一は目をそらした。
「お前って奴は……。もういい! 全て事が済んだら絶対に仕置きしてやる。覚えていろよ」
ノイの横では陽炎が楽し気に揺らいでいる。
「ええ。お手柔らかにお願いします」
「無駄口を叩くな。もう一度、やり直す。今度はちゃんと唱えろよ」
ノイと公一は声を合わせて呪文を唱えた。
呪文を唱え終わった時だった。打ち捨てられていたインテンジィバ・ストムの魂の拠り所は一瞬にして砕け散り、銀の粉になって宙に舞い上がった。
銀の粉は音を立てて渦を巻き始め竜巻となって二人を覆った。
「よし、上出来だ。だが、此処からが本番だからな」
ノイはサッと右手を上げると高らか叫んだ。
「インテンジィバ・ストムさらばだ。再び生きて出会える日を楽しみにしているぞ。公一、お前も何か言え」
「必ずノイ様を、光溢れる地上にお戻しすることを約束します。ご安心してください」
陽炎は激しく光を瞬かせたながら、竜巻の中心を貫くようにして虚空に飛び去って行った。
「公一よ。仕上げだ、じっとしていろよ」
その言葉を待っていたかのように、空中に激しく舞い踊っていた銀の砂はノイと公一の周りに一気に集まった。
銀の砂は二人の皮膚に当たった瞬間、皮膚に波紋を残して、次々と体の中に吸い込まれていった。
公一は唖然として皮膚の波紋に見入った。
「これは一体…」
驚きを言葉にした瞬間、銀の砂は容赦なく口の中に飛び込んだ。
「公一、口からも吸い込むか。いい考えだ」
全身で銀の砂を受けていたノイは公一の真似でもするように大きく口を開けた。
二人の身体は銀の砂の当たる時の波紋で美しく光り輝いていた。
「どうだ公一。私たちは新しい力を手に入れているのだ」
「驚いた―― としか言葉が有りません」
「そうだろうな。もう一つ教えておこう。今、私たちは生まれ変わっているのだ。私はノイであって、さっきまでのノイとは違う。そしてお前もだ」
「私もですか?」
「ああ、そうだとも。お前は少なくとも三回は生まれ変わっているのだ」
ノイの話が終わらぬうちに全ての銀の砂は二人の身体に取り込まれ、辺りは
再び静寂に包まれた。
「終わりましたか? 生まれ変わった実感が有りません」
「仕方ないだろう。見た目は同じだからな。生まれ変わる度に、尻尾でも生えるわけでもないぞ」
「そうですね。ノイ様は生まれ変わったっと仰いましたが、ノイ様にかけられた呪いはどうなったのですか?」
「呪いは解かれたはずだ。この闘技場の仕掛けが、そのままであれば元の場所にとばされていたはずた。だが私を騙した奴は、まだ生きている様だ」
「次はそいつですね」
ノイは大きく頷いた。
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