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第三十九話 仇討 その七 視線
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公一は身体を折り曲げて前を隠しながらマントの置いてある場所に近づこうとした。
「しょうがない奴だなお前は。頭も尻も隠れてないぞ」
ノイは顔を紅潮させ一言つぶやいた。
公一はマントを腰に巻き付けなんとか体裁を整えようと四苦八苦している。
「さっきまで神と対話していた男の姿とは思えんなあ。だが……」
「着替えが無い!」
カバンを覗き込んだ公一は声を上げた。
「当たり前だろう。お前が来ていた服は燃えてしまったし、
私が来ている服は私といた死体の荷物の中身だろ?」
「確かに予備は一着しか無かった……。俺の服の燃え残りはその辺に……」
「ないない。絶対ない。あの熱だ。あっという間に灰になったよ」
マントを腰に巻いた公一は貧弱な体に、無理やり化粧廻しをつけた素人力士にしか見えない。
「進むにつれて装備も充実したものになるのに……」
(カバンをひっくり返して何とか身体に合うものが出来るか思案を始めた。)
中身を並べながら公一は自分のサイズと残り布から何が作れるか必死になった。
しかし中身で使えるものといったら、旗印をマントに改造するときに
余った布とロープ。
「この布だけじゃ服の上下なんかできる訳ないし、だいいち裁縫ができん」
一言、困った。これしかなかった。
荷物を覗き込んでいた公一は自分の後ろに立ているノイ視線を感じて振り返った。
「なに見てんですか?」
「いや、気にするな。そのまま、そのまま」
なにか、やましいところがあるようで少しだけ視線を外した。
「尻のあたりに視線を感じるんですが……」
「お前の尻なんぞには興味はないぞ!」
何かがおかしい。
ノイは頬を紅潮させ目を潤ませている。
公一はノイの絡みついてくる視線をかわすために、荷物の反対側に回った。
なぜかノイも公一の後に続く。
「だからノイ様、なぜに俺、いえ私の後ろに立とうとするのです?」
振り返るとノイはしゃがみこんで覗き込もうとしていた。
「いやいやいや、ちょっと待て。待ってください。いくら俺の後ろが無防備でも
覗き込まなくてもいいじゃないですか。恥ずかしい!」
「だって前が見えないじゃないか」
「だから冗談はやめてくださいね。仕事が進みませんから。お願いしますよ」
公一はノイの視線を避けるために荷物の前に胡坐をかいた。
「カバンをバラして前に当てるかなあ。ターザンみたいになれば上出来とするか。
ノイ様はターザンなんか想像つかないでょう?」
公一は平静を装ったが普段と違い声は上ずってしまう。
振り返りノイと目が合ったがすぐに視線を荷物に戻した。
明らかにノイの目は獲物を狙う真剣な眼差しだったからだ。
「う、もしかしたら、まずい事態に直面しているかも」
なんとなく場の雰囲気を感じ取った公一はあえて無視を決め込むことにした。
「なあ、なあ、こーいちぃ。ちょっとこっち向けよう」
ノイは猫なで声で話しかけながら公一の真後ろまでにじり寄ってきた。
どうやって収めよう。
公一はカバンの解体に集中するふりをしていた。
「こういちぃ。なあ、ちよっとそのマントをとれよう」
「すいません。色々とまずいので……」
ついにノイは公一の肩に顎をのせ耳に息を吹きかけてきた。
ノイの吐息は普通の男性にとっては危険な誘惑でもあった。
「ノイ様、ご冗談はいけませんよ。手元が狂いますから」
「公一、ちょっとだけでいいから、こちらに身体をむけろ」
ノイはさっきまでの甘えた口調と違いどこか厳しい響きがある。
「何でしょうか?」
「ようやくこっちを向いてくれたな――」
「なあ、公一よ。私も伊達や酔狂で言っている訳じゃないんだ。ここで
今一度、聞かせてくれ」
「何をですか?」
「私はお前のことは大好きだ。で、だ。お前は私のことは嫌いか?」
「私も大好きです」
「じゃあ、お前と私の間には何の遠慮もいらないわけだ。だから隠しているモノを見せろ」
ノイは公一の一部分を指した。
色々な意味でみなぎっている個所を反射的に手で蔽い、無言でいやいやと首をふった。
「なせだ! む、わかった。お前はほんとに恥ずかしがりだな」
言うや否や自ら服を脱ぎ棄ててしまった。
「下の方は後でもいいや。さあ、お前も…… おいこら逃げるな」
上半身をあらわにしたノイは公一に迫る。
公一は逃げおおせる訳もなく、あっという間に取り押さえ、公一に背を向けるかたちで馬乗になった。
公一がもがこうともノイは離してくれるわけもなく最後の抵抗も徒労に終わる。
「ちょ、ちょっと待ってください」
前を隠しているマントを必死で押さえながら公一は懇願した。
「まずは、どんな風になったか確かめてやる」
文字通り目の色が変わってしまったノイの耳には公一の声は届かない
「破れる前に離せよ。ずっと裸ままになるぞ。私は別に構わないがな」
「一番の神様がお許しをもらって――」
「大丈夫だ。許しなら、とっくの昔にもらったさ」
ノイはマントを引き剥がし公一最後の砦を見つめた。
「やせ我慢は良くないぞ。身体は正直だからな」
公一も意地になって前を隠す。
「今はまずいでしょう!」
「なるほど、両手で隠せる大きさか。可愛いじゃないか」
ノイは力ずくで公一の手を外し始めた。
「しょうがない奴だなお前は。頭も尻も隠れてないぞ」
ノイは顔を紅潮させ一言つぶやいた。
公一はマントを腰に巻き付けなんとか体裁を整えようと四苦八苦している。
「さっきまで神と対話していた男の姿とは思えんなあ。だが……」
「着替えが無い!」
カバンを覗き込んだ公一は声を上げた。
「当たり前だろう。お前が来ていた服は燃えてしまったし、
私が来ている服は私といた死体の荷物の中身だろ?」
「確かに予備は一着しか無かった……。俺の服の燃え残りはその辺に……」
「ないない。絶対ない。あの熱だ。あっという間に灰になったよ」
マントを腰に巻いた公一は貧弱な体に、無理やり化粧廻しをつけた素人力士にしか見えない。
「進むにつれて装備も充実したものになるのに……」
(カバンをひっくり返して何とか身体に合うものが出来るか思案を始めた。)
中身を並べながら公一は自分のサイズと残り布から何が作れるか必死になった。
しかし中身で使えるものといったら、旗印をマントに改造するときに
余った布とロープ。
「この布だけじゃ服の上下なんかできる訳ないし、だいいち裁縫ができん」
一言、困った。これしかなかった。
荷物を覗き込んでいた公一は自分の後ろに立ているノイ視線を感じて振り返った。
「なに見てんですか?」
「いや、気にするな。そのまま、そのまま」
なにか、やましいところがあるようで少しだけ視線を外した。
「尻のあたりに視線を感じるんですが……」
「お前の尻なんぞには興味はないぞ!」
何かがおかしい。
ノイは頬を紅潮させ目を潤ませている。
公一はノイの絡みついてくる視線をかわすために、荷物の反対側に回った。
なぜかノイも公一の後に続く。
「だからノイ様、なぜに俺、いえ私の後ろに立とうとするのです?」
振り返るとノイはしゃがみこんで覗き込もうとしていた。
「いやいやいや、ちょっと待て。待ってください。いくら俺の後ろが無防備でも
覗き込まなくてもいいじゃないですか。恥ずかしい!」
「だって前が見えないじゃないか」
「だから冗談はやめてくださいね。仕事が進みませんから。お願いしますよ」
公一はノイの視線を避けるために荷物の前に胡坐をかいた。
「カバンをバラして前に当てるかなあ。ターザンみたいになれば上出来とするか。
ノイ様はターザンなんか想像つかないでょう?」
公一は平静を装ったが普段と違い声は上ずってしまう。
振り返りノイと目が合ったがすぐに視線を荷物に戻した。
明らかにノイの目は獲物を狙う真剣な眼差しだったからだ。
「う、もしかしたら、まずい事態に直面しているかも」
なんとなく場の雰囲気を感じ取った公一はあえて無視を決め込むことにした。
「なあ、なあ、こーいちぃ。ちょっとこっち向けよう」
ノイは猫なで声で話しかけながら公一の真後ろまでにじり寄ってきた。
どうやって収めよう。
公一はカバンの解体に集中するふりをしていた。
「こういちぃ。なあ、ちよっとそのマントをとれよう」
「すいません。色々とまずいので……」
ついにノイは公一の肩に顎をのせ耳に息を吹きかけてきた。
ノイの吐息は普通の男性にとっては危険な誘惑でもあった。
「ノイ様、ご冗談はいけませんよ。手元が狂いますから」
「公一、ちょっとだけでいいから、こちらに身体をむけろ」
ノイはさっきまでの甘えた口調と違いどこか厳しい響きがある。
「何でしょうか?」
「ようやくこっちを向いてくれたな――」
「なあ、公一よ。私も伊達や酔狂で言っている訳じゃないんだ。ここで
今一度、聞かせてくれ」
「何をですか?」
「私はお前のことは大好きだ。で、だ。お前は私のことは嫌いか?」
「私も大好きです」
「じゃあ、お前と私の間には何の遠慮もいらないわけだ。だから隠しているモノを見せろ」
ノイは公一の一部分を指した。
色々な意味でみなぎっている個所を反射的に手で蔽い、無言でいやいやと首をふった。
「なせだ! む、わかった。お前はほんとに恥ずかしがりだな」
言うや否や自ら服を脱ぎ棄ててしまった。
「下の方は後でもいいや。さあ、お前も…… おいこら逃げるな」
上半身をあらわにしたノイは公一に迫る。
公一は逃げおおせる訳もなく、あっという間に取り押さえ、公一に背を向けるかたちで馬乗になった。
公一がもがこうともノイは離してくれるわけもなく最後の抵抗も徒労に終わる。
「ちょ、ちょっと待ってください」
前を隠しているマントを必死で押さえながら公一は懇願した。
「まずは、どんな風になったか確かめてやる」
文字通り目の色が変わってしまったノイの耳には公一の声は届かない
「破れる前に離せよ。ずっと裸ままになるぞ。私は別に構わないがな」
「一番の神様がお許しをもらって――」
「大丈夫だ。許しなら、とっくの昔にもらったさ」
ノイはマントを引き剥がし公一最後の砦を見つめた。
「やせ我慢は良くないぞ。身体は正直だからな」
公一も意地になって前を隠す。
「今はまずいでしょう!」
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