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第二十二話 同盟

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「あんた人間の言葉が喋れたのか?」
  公一は小声で尋ねた。
「しゃ…。…い」
 喉の奥から絞り出す言葉は辛うじて言葉として聞き取れるものだった。

「わたちはしゃべけるよ。ぐーいち」
「あーはいはい。寝言で返事しないでね」
 ノイの背中を優しく叩いてあやした。眠っているノイ公一の腕の中でもぞもぞと身体を動かし甘えるようにすりつけた。

 公一は老猿の目を見つめ顎を動かて話を続きを促した。
 たどたどしい語り口で自分の身の上を語りだした。
 
 族長は絶えず次の地位を狙う若者の挑戦を受けることや、負ければ殺され次の族長の血肉になる掟があることなど身振り手振りを付けての説明だった。
 老猿は続ける。
「だまさ… にげ… くやし」
「騙し打ちに合ったのか?」
「に… いち」
「二対一か。本当ならサシの勝負にか…」
「待てよ。族長が二人いるのか?」

「われ…」
「割れたか。二つに割れて戦っているのか? それ止めるつもりなのか?」

「わし… いる… ころす」
「裏切り者には、あんたは邪魔者って訳だ。だから狙われる」
「そう… てつ…れ」
 
 ここまで聞いて公一は腕の中にいるノイを抱き直して目を閉じた。
  ノイの性格から必ず首を突っ込もうとするだろう。公一も無関係と割りる気にはなれなれなかった。
 公一は自分の気持ちを落ち着かせようとノイの頭を撫ぜた。
 さらさらとした髪を撫ぜながらノイにとって何が一番相応しいかを考えを巡らせる。
「みち… あ… しってて…」
「そうだな知ってるからこそ隠れる事もできるもんな」
「たの…」
「勝手に約束できないし、困ったな。おきるまで待ってくれ」

 ノイの口元は夢の中を楽しんでいるのか微かな笑みをたたえている。
「大人しくしてる時はホントにかわいいんだがなあ」

 ピクリと動いたノイの首のあたりが、ほんのり桜に色に染まったと思うと見る間に耳が真っ赤くなった。
 薄暗いなかでもはっきりわかる。
「うん、どうした熱っぽいな。まさか風邪でも…」

 公一はノイの熱が少しでも冷める様に首筋に手をあててやった。
 ノイはくすぐったいようで無意識に公一にすがりついて来た。
「ばか……」
 ノイは公一叱咤でもしているのだろう。

 二人の様子を見ていた老猿は深いため息をついた。
「ち…もらった いま… お…る」
「もらったって。ノイ様にか。さっきのあれか、背中を叩かれたときか……」
「そう……」

 公一の腕の中で眠っていたノイの体から骨が軋む微かな音が鳴った。
 公一が慌ててノイを覗き込むとノイの体はみるみるうちに元の姿に戻っていく。
 ノイはパチリと目を開き慌てて覗き込んだ公一に向かって恥ずかしそうな笑みを浮かべた。
「うん……。良く寝たあぁぁ」
 公一の膝の上で両腕、両足を気持ちよさそうに伸ばした。

「話しは寝ながら聞いた。私の祝福は大したものだろう」
 公一の膝の上を特等席としたノイは下から公一を見上げた。
「公一、こいつの名前はサルでいいな」
「あ、はい……」
 老猿も苦笑いに似た表情をして大きく頷いた。

「で、サルよ。お前の望みは我らと同盟を結ぶということで間違いはないな」
 サルは無言で頷いた。
「よし決まりだ!」
「ノイ様、簡単に事を決めたら……」
「お前、事を起こしたら何事も素早くだ。ただでさえ敵が多いのだぞ」
「確かに味方は多い方が良いに決まっていますが……」
「お前の言いたいことも判る。見返りと最後の結果がどうかだろう。だがな公一、運不運は天命であることと思え」
 猿は身体を前後に揺らしてノイに同調する態度を見せた。

「この人が良いなら俺も、これ以上は文句は言いません」
 公一は口では言って見せたが考えが定まらず自分の膝の上にいるノイの頭を抱きかかえた。ノイはそんな公一の気持ちを知ってか知らずか公一の膝を書くる叩いた。
 
 もう公一はこの老猿と共に猿の群れと切り合いをしている。今となっては後戻りもできない。
 公一ははっとした表情をして猿を真剣な眼差して見つめた。
「あんた、俺たちがムラサキの奴を封じ込めたのを見てたな」
 
 老猿は悪びれもせず歯を大きく見せた。
「シッシシ、シッシシ」

「笑ってごまかすなよ。それであそこまで俺達を引っ張ったのか。やられたなあ」
 公一は自分の額に手をあてて呆れて見せた。

「な。公一これだけの強い奴の頼みだぞ。無下にするなよ。見こまれたんだ」
「あきらめろぐずぐず言うのは男らしくないぞ。私はそんなのみたくないし聞きたくないぞ」

 ノイは公一の膝小僧を鷲掴みにして、ただっ子の様に体を前後に揺さぶった。
 公一はノイにせがまれると嫌とは言えなくなってしまった。
「じゃあ、どこで何をすればいいんですか?」
「公一、さっきサルと話してたろう。こいつは切り込むのさ。一対一の勝負をつけに行くに決まっているじゃないか」
「あれ、寝てなかったんですか?」
「いや、ね、寝てたぞ… な、なんとなく判るんだ」
 
 ノイは慌てて話しを老猿に向けた。
「なあサル、公一にはもう一方の相手をさせて邪魔が入らない様にすればいいんだろ?」
 老猿は返事の代わりに手にしていた剣を叩いた。

「あれ、この人喋れなくなりましたよ」
「ああ、そうだな私の祝福の時間が終わったんだろうよ。さあ、話は終わった」出陣だぞ」

 老猿は素早く立ち上がり公一の膝の上にいるノイに手を差し伸べた。ノイは老猿の手を掴むと公一の膝から飛び出し勇ましく叫ぶ。
「出陣! 公一よ遅れるなよ」
「ちょっと… 置いてかないで下さいよ。何処に行くかわかってますか?」
「サルが案内してくれるさ。細かい事を気にするやつだな。まったく!」
 
 老猿の道案内は確かな物で道の途中で敵に出くわすことも無かった。
 一つの例外を除いては…
 変化に気付いたのは公一が最初だった。
「猿の死体です」
 公一は早速しゃがみ込んで死体を調べ始めた。
「刀傷ではありません。殴られた跡だと思います。裂傷も有りますが致命傷は拳で殴られて内出血してるところだと思います」
「なぜ拳だと思う?」
「固い物で殴られたのなら力の方向に皮膚がはがれますが、ここの傷にはそれがありません。ここの特有な武器だと思います」

 公一は老猿の様子を窺って見たが老猿にも困惑の表情が見て取れた。
「うん、サルもわからんか」
「そうてですね。ここまで逃げのびて、こと切れた感じです」
 ただ一つ猿たちの縄張りでなにか今までと違うことが起こりつつあることは確かだった。
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