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肩透かし
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「……ふぁーあ」
翌朝は夜明けとともに起きた。奴隷というのは、何か夜に起きていなければならない特別な職能を与えられているのでもない限りは、早寝早起きが原則だ。自分の主より先に寝て自分の主より遅くまで寝ていたのでは、奴隷は務まらない。
というつもりだったのだが。
隣のベッドを見たら、ジェイド様の姿はなかった。
「あれっ」
別にこんな朝っぱらからどこへ出かけているというわけでもなく、隣の部屋から、ペンを走らせている音がする。僕は扉をノックした。
「開けてよい」
「お、おはようございますご主人様。あの、昨夜は過分にお待たせしてしまって、本当に申し訳ありませんでした」
怪訝そうな目がこっちを見た。
「何のことだ?」
「え?」
「ん?」
本気で、何を言っているのか分からない、という顔をされている。てっきり、僕が待たせすぎたから、事に及ぶ前に眠くなってしまったんでああいう推移になったのかと思ったのだけれど。
「えーとその。僕を女としてお求めになるつもりではなかったのですか? 入浴の後で」
「ああ……」
やっと得心はいったようだが、その目は険しかった。呆れているようだ。
「私はそういうつもりでお前を買ったわけではない」
「えっ」
「とりあえず、朝食の支度をしてくれないか」
「あ、はい」
台所を漁り、卵を見つけたので、オムレツを焼いて、持っていく。当たり前だけどキッチンも広い。専門の料理奴隷が三人くらいは置かれてしかるべき設備だと思う。僕は性奴隷として売りに出されていた身なので、仕込まれている知識や技能は主にそっち方面に関わることばかりで、その他の家事やなんかの芸は必要最小限くらいに教えられているだけだ。正直、ジェイド様のやっていることは宝の持ち腐れだと思うよ。いろんな意味で。
自分で言うのもなんですけど、僕は美少女です。髪をショートカットにしてキャラは僕っ子ですが、世の中にはそういう需要もあるからわざわざそういう風にしているのです。美少女の奴隷というものはとうぜん所有者から見れば高く売れるし、自分たち自身でだっておのれの価値がどういうものであるか、理解しているのがふつうだ。
高価な競走馬を買ってきて荷駄馬にする人がふつういないのと同様、オールワークス、つまり身の回りの世話全般を一人でやる種類の家事奴隷にするために、僕みたいな奴隷を買ってくるのはあまり常識的な行為とは言い難い。僕よりおいしくオムレツを焼けるというだけの奴隷でよければ、僕を買ったあの金額で五人くらいは買えると思う。
まあそれはそれとして、食事と食器を盆に載せて、さっきの部屋まで持っていく。ノックして尋ねると、朝食は自室でとるから置いておけ、だって。自室というのはベッドが二つある、今いるこの部屋のことらしい。さっきからジェイド様がずっといる部屋は、書斎だそうだ。ダイニングやリビングも存在するようなのだが、ちょっと覗いた限りでは埃だらけで、使っている様子がない。
それからしばらくして、ジェイド様に声をかけられた。
「これから王宮に出仕する。留守を頼む」
「かしこまりました。行ってらっしゃいませ」
家の鍵その他を預けられたので、とりあえずこの広い屋敷中の掃除でも始めることにする。というのは建前で、真っ先に確認するのは、書斎だった。書簡類があった。目を走らせる。「王室付軍事学博士 ジェイド・マキアヴェリ殿」と書いてある封筒が目に留まる。ぐんじがくはくし、というのが具体的に何をする人であるのか、僕の頭では分からない。わからないが、ジェイド様がたいそうお偉い方なのであろうことは漠然と分かった。
書斎は雑然としているが、ここを掃除するのはやめておいた方がよさそうだということが直感で分かるので、とりあえずリビングやダイニングを片付ける。
もちろんこの広大な屋敷の掃除を半日やそこらで全部終わらせられるわけではないので、ほどほどにきりのいいところで切り上げて。
僕は主にジェイド様の自室を中心とした家探しを始めました。なにってわいせつ本の類を探すのです。エルフとはいえ男性が、男一人の所帯を営んで、持っていないはずはありません。どういう女の好みを持っているかとか、調べなくては。僕は掃除をするためだけに買われてくるような奴隷じゃないんだ。
でも、ベッドの下をはじめ、その他もろもろありそうなところにはありませんでした。その代わり、一台の小さなクリスタル写像が、大事そうにしまい込まれているのが見つかった。え、クリスタル写像知らない? 魔法の技術を使って、三次元立体の投影像をクリスタルの中に封じ込めたもの。てっきりわいせつな内容のものを期待したのですが、違いました。
ジェイド様と、人族の女性がひとり、写像の中に写し込まれていました。女の勘だけで言いますが、恋人か奥さまか、そんなような関係であることはまず疑いようもありません。僕とはまったくタイプの違う、穏やかそうな、優しそうなタイプの人でした。
一つだけ間違いない事実として、ジェイド様は少なくとも別に女にまったく関心が無いというタイプの男性ではないようです。よし、それなら打つ手はたくさんあるぞ。みてろよー
翌朝は夜明けとともに起きた。奴隷というのは、何か夜に起きていなければならない特別な職能を与えられているのでもない限りは、早寝早起きが原則だ。自分の主より先に寝て自分の主より遅くまで寝ていたのでは、奴隷は務まらない。
というつもりだったのだが。
隣のベッドを見たら、ジェイド様の姿はなかった。
「あれっ」
別にこんな朝っぱらからどこへ出かけているというわけでもなく、隣の部屋から、ペンを走らせている音がする。僕は扉をノックした。
「開けてよい」
「お、おはようございますご主人様。あの、昨夜は過分にお待たせしてしまって、本当に申し訳ありませんでした」
怪訝そうな目がこっちを見た。
「何のことだ?」
「え?」
「ん?」
本気で、何を言っているのか分からない、という顔をされている。てっきり、僕が待たせすぎたから、事に及ぶ前に眠くなってしまったんでああいう推移になったのかと思ったのだけれど。
「えーとその。僕を女としてお求めになるつもりではなかったのですか? 入浴の後で」
「ああ……」
やっと得心はいったようだが、その目は険しかった。呆れているようだ。
「私はそういうつもりでお前を買ったわけではない」
「えっ」
「とりあえず、朝食の支度をしてくれないか」
「あ、はい」
台所を漁り、卵を見つけたので、オムレツを焼いて、持っていく。当たり前だけどキッチンも広い。専門の料理奴隷が三人くらいは置かれてしかるべき設備だと思う。僕は性奴隷として売りに出されていた身なので、仕込まれている知識や技能は主にそっち方面に関わることばかりで、その他の家事やなんかの芸は必要最小限くらいに教えられているだけだ。正直、ジェイド様のやっていることは宝の持ち腐れだと思うよ。いろんな意味で。
自分で言うのもなんですけど、僕は美少女です。髪をショートカットにしてキャラは僕っ子ですが、世の中にはそういう需要もあるからわざわざそういう風にしているのです。美少女の奴隷というものはとうぜん所有者から見れば高く売れるし、自分たち自身でだっておのれの価値がどういうものであるか、理解しているのがふつうだ。
高価な競走馬を買ってきて荷駄馬にする人がふつういないのと同様、オールワークス、つまり身の回りの世話全般を一人でやる種類の家事奴隷にするために、僕みたいな奴隷を買ってくるのはあまり常識的な行為とは言い難い。僕よりおいしくオムレツを焼けるというだけの奴隷でよければ、僕を買ったあの金額で五人くらいは買えると思う。
まあそれはそれとして、食事と食器を盆に載せて、さっきの部屋まで持っていく。ノックして尋ねると、朝食は自室でとるから置いておけ、だって。自室というのはベッドが二つある、今いるこの部屋のことらしい。さっきからジェイド様がずっといる部屋は、書斎だそうだ。ダイニングやリビングも存在するようなのだが、ちょっと覗いた限りでは埃だらけで、使っている様子がない。
それからしばらくして、ジェイド様に声をかけられた。
「これから王宮に出仕する。留守を頼む」
「かしこまりました。行ってらっしゃいませ」
家の鍵その他を預けられたので、とりあえずこの広い屋敷中の掃除でも始めることにする。というのは建前で、真っ先に確認するのは、書斎だった。書簡類があった。目を走らせる。「王室付軍事学博士 ジェイド・マキアヴェリ殿」と書いてある封筒が目に留まる。ぐんじがくはくし、というのが具体的に何をする人であるのか、僕の頭では分からない。わからないが、ジェイド様がたいそうお偉い方なのであろうことは漠然と分かった。
書斎は雑然としているが、ここを掃除するのはやめておいた方がよさそうだということが直感で分かるので、とりあえずリビングやダイニングを片付ける。
もちろんこの広大な屋敷の掃除を半日やそこらで全部終わらせられるわけではないので、ほどほどにきりのいいところで切り上げて。
僕は主にジェイド様の自室を中心とした家探しを始めました。なにってわいせつ本の類を探すのです。エルフとはいえ男性が、男一人の所帯を営んで、持っていないはずはありません。どういう女の好みを持っているかとか、調べなくては。僕は掃除をするためだけに買われてくるような奴隷じゃないんだ。
でも、ベッドの下をはじめ、その他もろもろありそうなところにはありませんでした。その代わり、一台の小さなクリスタル写像が、大事そうにしまい込まれているのが見つかった。え、クリスタル写像知らない? 魔法の技術を使って、三次元立体の投影像をクリスタルの中に封じ込めたもの。てっきりわいせつな内容のものを期待したのですが、違いました。
ジェイド様と、人族の女性がひとり、写像の中に写し込まれていました。女の勘だけで言いますが、恋人か奥さまか、そんなような関係であることはまず疑いようもありません。僕とはまったくタイプの違う、穏やかそうな、優しそうなタイプの人でした。
一つだけ間違いない事実として、ジェイド様は少なくとも別に女にまったく関心が無いというタイプの男性ではないようです。よし、それなら打つ手はたくさんあるぞ。みてろよー
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