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閑話 ポームメーレニアンの場合(七十話 再びの三つ巴?の後)

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※R15 直接的な表現はほぼありませんが、性的な表現が含まれます。苦手な方はブラウザバックをお願いします。


「私、知ってるのよ。『クズ男』」

 ポームメーレニアンは急に全身から汗が噴き出るのを感じた。

「ねえ、アン。私、とっても悲しいの……」

 妻はベッドの中で、ポームメーレニアンに上目遣いですり寄る。長いまつ毛に縁どられた黒くて丸い瞳。一ヶ月前まで生娘だった、まだ少女の姿の妻。葉月のことは絶対に知られてはいけない。妻を傷付けるだけではなく、荘園間の諍いのもととなるからだ。

 妻はナ・シングワンチャーの隣にある小さい荘園の領主の娘だ。その荘園は、小さいが武門を司り、武装した兵士や魔法兵士が常に臨戦態勢で控えている。血気盛んな為、近隣の荘園から恐れられている。ポームメーレニアンの父は所詮ナ・シングワンチャーの一部分をまとめている豪族でしかないのだ。バーリック様から、この見合いを打診された時点で断ることはできなかった。年を取ってできた末っ子の妻は父親に溺愛されている。このことが妻の父親に知られると、最悪、ナ・シングワンチャーと戦争が始まるかもしれない。

「いや。何の事だろうか?」

 だらだらと流れる汗を袖口で拭いながら、ポームメーレニアンはシラを切った。

「知らないふりをするのね。新婚旅行の時、家族部屋に泊まった二組は『危ないから』とお父様が付けてくださった諜報員ちょうほういんだったのよ。アン。貴方、こちらでは出世頭とも言われている兵士様なのに全然気づかないのね?随分、ナ・シングワンチャーの兵士様はのんびりされている事。ハヅキさんと再会して浮かれていたのかしら?それに、ハヅキさんにも投げ飛ばされるなんて……」

「え。いや、あれはとっさの事で!」

「あら、何の事かはご存じなのかしら?」

「いや、あれは……あれは、果実水を頼みに行って声をかけたらビックリされただけなのだ。一般人なので、私が抵抗するとケガをさせるといけないので受け身を取っていただけだよ」

「ふうん。ハヅキさんって、アンの想い人だった人でしょ?ナ・シングワンチャーの荘園では有名な話なんですって?アンは、大きくて醜いお婆ちゃんにしか興奮しない変態って聞いてたの。亡くなられたお義母様に似ているから執着していると思ってたのに。だけど、ハヅキさんって、私が結婚する前に見た姿絵とは全然違ったからビックリしたわ」

 バレている。いや、溺愛している末娘を嫁がせるのだ。ポームメーレニアンの素行調査なども済んでいただろう。もしかして、新婚旅行もポームメーレニアンの動向を探るために仕組まれたのかもしれない。そのことを考えると、改めて自分の浅はかな行為が悔やまれる。

「何で新婚旅行中に、ハヅキさんにに抱かせてくれなんて言ったの?そして、ハヅキさんに妻の事は義務で抱いているなんて言うの?そんなのハヅキさんにわざわざ教えなくてもいいじゃない!貴方、二重に私を侮辱してるってわかってる?それに、夜中、貴方の上司と接吻していたハヅキさんを見て、興奮したのかしらね?あんなに獣のように至る所でスルなんて。酷いわ!」

 妻はあの時どんな思いでポームメーレニアンを受け入れていたのだろう。今までは、その小さな体を壊さないように優しく壊れ物を扱うように抱いてきたのに。あの時は、ハヅキをメーオに取られたと、既婚の身なのに嫉妬し、それを妻に欲としてぶつけてしまった。

「アン。でも私、貴方の事が好きなの。理屈じゃない位、どうしても貴方の事が欲しくてたまらないの。私の獣性がそう叫んでるの。でも、何かが足りないの。アンが、私を心から愛してくれてないからなの?」

「私も、君とならば結婚して上手くいくと思ったから結婚したんだ。ただ、バーリック様に命令されただけだは無い。それは、本当だ。信じてくれ!」

 ポームメーレニアンはベッドの下に降り、土下座をし、懇願した。

「すまない!ハヅキに言ったことは一時の気の迷いだ。ハヅキには思いがけず会ってしまって混乱していたんだ!今、愛しているのは君だけなんだ!」

「そうなのかしら。私、新婚旅行で永遠の愛のバラをもらった日に他の女を抱きたいなんて言う人の事信じられないわ。だけどこの事はまだお父様には報告していないわ。アンがどうしたいか聞かせて?」

 やけに冷静な口調と態度である分、妻の怒りが伝わってくる。黒くて丸い瞳は泣くでもなくポームメーレニアンを見つめている。妻は、砂糖菓子のような見た目に反して、芯の強い女なのかもしれない。妻は、物憂げにベッドに腰掛け、足を組んでポームメーレニアンを見下ろす。薄い煽情的な夜着の下から、温まった空気と共に甘い雌の匂いを拡散させる。

「何でもする!償いたい!いや、償わせてください!」

 ポームメーレニアンは床に額を擦り付ける程、土下座を続ける。妻が小さな足先でポームメーレニアンの顎を持ち上げる。ポームメーレニアンは抵抗せず、妻の足先が触れる自分の頬に、全神経を集中させた。妻は愉悦を覚えて、足先でポームメーレニアンの顔を上下左右に振らせてみる。言葉にせずとも、意思の疎通ができる。

「そうねー。本当に私の事を心から愛しているの?本当なら、私の足に接吻しなさい」

 ポームメーレニアンは震える大きな手で妻の右足を両手で恭しく支え足の甲に接吻を落とす。跪いて足を支えながら妻を見上げる。満足気にウットリとしている妻がいた。両手ですっぽりと隠れてしまう白く小さな足を辿ると細いのに肉感的な太ももが目に入る。衝動的に妻のかわいらしい桜貝の様な爪のその一本一本に接吻をし、口に含み愛おし気に舐めしゃぶる。

「!!」

「ああ、ごめん。ごめんよ。君を悲しませるつもりは無かったんだ!」

 妻はその行為に驚き、ポームメーレニアンを足蹴にする。しかし、ポームメーレニアンは謝罪の言葉を口にしながら、妻の足を離さない。ポームメーレニアンは段々興奮し、唇は足先から脛、太ももにうつる。とうとうポームメーレニアンは妻の腰に手をまわし、マウンティングを始めてしまった。

「犬!!アン、あなたはやっぱり犬だわ!貴方より五歳も年下の小さな妻に媚びを売って!!その卑しい腰ふりをどうにかしなさい!!」

 蔑む妻の言葉に、ポームメーレニアンは脊髄を駆け抜けるようなぞくぞくした感覚を覚えた。そしてその言葉に従い、正座をし、次の言葉を待つ犬のように、縋るような目で妻を見つめる。

「何を興奮しているの?やっぱり『クズ男』なのね!」

 妻は立ち上がり、まだ少女の様な顔を耳まで紅潮させ荒い息で叫び、その美しい足先でポームメーレニアンの下半身を踏む。その足の下でポームメーレニアンは痛みと今までにない興奮を覚えた。正座をしたまま下半身を踏まれ、上半身を可能な限り後ろにそらせたポームメーレニアンの目の中に情欲と安堵を感じた妻は自分の気持ちが満たされていくのを感じた。

「恥ずかしいわね。ここをこんなにして。我慢できないなんて」

「すまない。可憐で美しい君が僕のすべてを受け入れてくれていると感じたら嬉しくて……」

「私を見て。アン、貴方、男らしいのに可愛いのね。ほら、視線をそらさないで。私にどうしてほしいの」

「私を愛してほしい。私だけ、私だけに愛を注いでくれ。こんな私に罰を与えてくれ!」

 ポームメーレニアンと妻は欠けていた何かを手にした。二人にしかわからない主従関係は今始まったのだ。

「アン。貴方のコレはもう私のモノなの。わかったわね?」

「はい……」

 恍惚としたポームメーレニアンは大きな躯体の上に跨る小さな妻に接吻をねだるため両手を差し出した。

 ナ・シングワンチャーの荘園で初めて申請された新婚休暇明けのポームメーレニアンの首には、漆黒で銀のスタッズがたくさん付いた革の首輪がはめられていた。それはポームメーレニアンの雰囲気に良く似合っていた。革にカービングで彫られた名前はポームメーレニアンではなく、妻の名前だった。
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