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58.二人で魔力循環

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「あっ、あん。ふうん……っふ。あっ、ダメ! はぁ、んっ、んっ……」

 官能的な声をあげているのはメーオだ。

 顔を紅潮させ、ほっそりとした首筋まで薄く汗を滲ませている。いつもはクールな目つきのメーオだが、今は目の周りを赤く染めてとろりと溶けて縋り付くような目線で葉月を見ている。紅い薄い唇を盛んに舐め、半開きの口からは甘い声を更に甘くして吐息と共に吐き出している。

 今は床に座って、お互いに向かい合って魔力循環を行っている。葉月は体がポカポカして、低い温度の岩盤浴程度にしか感じない。

「ねえ、やめよっか? 」

 なぜかいけないことをしている感覚におちいり、葉月はメーオに尋ねてみる。メーオが背を丸め、何かに耐えるように眉根を寄せている為、早急に中止した方が良いのだろうか?

「いやっ。やめないでよっ! このままっ……ん、っふ」

 ナ・シングワンチャーの荘園の上位魔法兵士のメーオが言うのだ。異世界産の魔力は異質なのだろうか? それに耐える訓練の一環か? 以前より、魔力循環は行っていたが、今日は最初からスムーズに循環できるようになっていた。メーオの言う、二人で行う魔力操作が上手くいっているのだろう。

 ぐるぐると巡る魔力を感じ取っているが、ちょっとき止めてみよう。もしくは、早めることができるのか。葉月は魔力を調節し、堰き止める。魔力が段々貯まると、黒部ダムの放水のイメージで開放する。

「あんっ……ハヅキ。止めないでっ。続けて! お願いっ! えっ?!!!! ああああっん!!!!! 」

 メーオが体をねさせた後、体を硬直させている。色の白いメーオはうなじまで赤く染め、葉月とつないだ手は強く握られ、ぬるぬるする程汗ばんでいる。しばらく、その姿勢のまま動かない。流石に心配になり、名前を呼んでみる。

「メーオ? メーオ、大丈夫? 」

 メーオは大きく脱力し、葉月にすがるように寄りかかっている。肩で大きく呼吸しているので、今回の魔力操作が思ったよりメーオに負担が大きかったことを知る。さっきから、うつむいているので心配だ。顔をのぞき込もうとすると、チュッとバードキスをされてしまった。

「なっ! 何するのよっ? 」

 葉月は慌てて後ずさる。メーオはヨロヨロと立ち上がり、ふらふらと風呂場に行ってバタンと扉を閉めてしまった。

「もうっ! 何なんだろうね。きっと、魔力操作が上手くいったお礼なんだろうけどさ。これだから、プレイボーイは。軽いんだよな」

 葉月は、お風呂から上がったメーオの為に、レモンの果実水に氷を準備するために立ち上がり、台所に行った。

 ※ ※ ※

「はあぁー」

 メーオは脱力し、風呂場のドアに寄りかかり座り込んでいる。まだ、体が快楽で脈打っているようだ。

 今日の魔力循環は、なんと言うか、今までの「ハヅキの魔力が気持ちいい」をはるかに超えていた。

 気持ちイイ事が大好きで、倫理観が薄いと言われる魔法使いの中でも、群を抜いているメーオの様々な体験をはるかに超えた気持ち良さだった。禁止魔法薬の実験と称して使用したり、複数人の美女や美少年等と交わったりした事がかすむ位だった。ハヅキは手を繋いでいただけだったのに。こんな体験をして、メーオは葉月から離れられないのではないかと少し恐怖を感じた。それを振り切るように風呂で体を清める。

 葉月が椿油と香油から作った「シャンプー・リンス」や「ボディーソープ」は良い匂いがして、しっとりとする。風魔法と火魔法を混ぜて利用するという葉月から教えてもらった「ドライヤー」は快適に体全体を乾かすことができる。脱衣所に準備されているメーオの下着や手拭いは、ふんわりとしてメーオの好きなバラの香りがほんのりと香る。メーオの生活全部、もう葉月に依存しているではないかと苦笑しながら、下着姿のまま台所に行く。

 外は肌寒くなってきたが、室内は気温を一定に保つ魔道具を利用しているので薄着でも寒くはない。葉月は恥ずかしがる所がおかしい。下着姿なのに、普通に冷たい果実水を手渡してくる。家族でもこんな姿は見せないのに。

「ねーさっきの接吻は何なのよっ。軽い接吻だからって誰でもいいわけじゃないからね。すけこましの挨拶は禁止! もう今度からしないでね。メーオの取り巻きの女の人と一緒にしないで」

 果実水を受け取るときにそんなことを言うので、もう一度接吻しようとすると、顔を背け嫌な顔をされた。意外に傷ついた。それに、他の女とは葉月は全然違う。一緒にする訳ないじゃないかと心の中で憤慨しているが、にっこりと笑ってごまかした。

「ねえ、今日の魔力循環どうだった。今までと違って魔力が勢いよくグルグル巡ってるの分かったね。最後さ、堰き止めたり、ドバっと放出したんだよね。私は、解放て感じで気持ち良かったけど、具合悪くなっちゃった」

 また思い出して体の奥が疼く様な気がする。恥ずかしくて、カップの中の果実水と氷を混ぜながら、下を向いて首を横に振るだけだった。

「あ、そうだ。メーオ。忘れない内に言っとかなきゃ。あのね今度、私、引っ越すんだ。このお仕事、続けられなくなっちゃった。ごめんね? 」

「えっ? なんで? 店主と結婚するの? 他の人とお見合いしたの? それとも、また売られちゃうの? まさか、ポームメーレニアンの愛人になる事を了承したの? 」

 柄にもなく焦る。葉月がどこかに行ってしまう。このまま、拘束してしまうか。薬で眠らせようか。

「湖の宿屋の食堂を皆でやるんだ。ふふ、メーオの育った村の近くだよ。メーオも馬に乗ってきたら一泊二日で来れるくらいの距離だと思う。湖のお魚料理、作ってあげる。でも、今みたいに半日メーオの所には来れないかな。食堂は休めないから。契約の事どうする? 」

「宿屋の食堂……。通えないことは無い。いっそ転移門を個人で作ってしまうか……」

 メーオは思考に沈んでいる。
 
「契約は継続だよ。簡単にやめることはできないよ。ちゃんと公証役場まで行って契約したんだから」

「でも、食堂は朝や昼はどうにかなっても、夜が稼ぎ時なんだよ。時間が無いよ」

「深夜来ればいい。移動魔法で迎えに来るから問題ない」

「私、すぐ眠くなっちゃうよ。すぐ帰ることになっちゃう。それに、今と同じ位には家事はできないもの」

「泊って行けばいい。家事は通いの女中を雇う。だから、夜の間、一緒に居てくれないかな? 」

 葉月は困った顔をしている。メーオは葉月を困らせたいわけではない。魔法で解決できないことはない。この現状を必ず魔法で打破してみせる。

「必ず、解決方法を見つけて、店主の許可をもらってハヅキとのデートの時間は確保するから! 待っててね? 」

 葉月との交流が無いと死んでしまうと、今は本気で思っている。これは死活問題だ。
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