私、獣人の国でばぁばになります!

若林亜季

文字の大きさ
上 下
20 / 76

20.ガネーシャとラウェルナ

しおりを挟む
息長足姫おきながたらしひめはピンク色を基調にした極彩色の部屋にいた。熱い風に乗ってみずみずしい果物の香りを集めたような香がたかれている。
 
 部屋の中央には、金色に輝く豪華な長椅子にしどけなく寄りかかるピンクの象がいた。

「……ガネーシャ様? 」 

 息長足姫は地球で見かけたことのある神の名前を思わずつぶやく。

 ピンクの象はゆっくりとこちらを見た。象の頭と四本の腕、太鼓腹と人間の体。どこからどう見てもヒンドゥー教のガネーシャ様だ。ラウェルナが親しげに話しかける。

「ヤッホー! ガっちゃん、お邪魔するねー! 」 

「ヤッホー! らうるん、元気してた? 急に訪問するって聞いて心配してたよー。何? トラブルとか? 」

「あー。うん。また、追々話すね。それよりこの子、日本神話支部の息長足姫おきながたらしひめ。オッキーって呼んであげて」

 二人はハグをしている。ラウェルナは小柄なため、すっぽりと覆われている様だ。ガっちゃんと呼ばれたガネーシャ様は、息長足姫と目線を合わせ自己紹介をする。

「こんにちは。初めましてー。ティーノーンで神様やってます。ガネーシャだよ。地球のガネーシャの分身体。よろしくっ」

 差し出されたピンク色の手と握手する。ガネーシャ様は男性だが、ふんわりと柔らかく、思わずやんわりと握る。常に剣や弓を持って鍛えていてタコやマメがある大きく硬い息長足姫の手だと傷つけてしまいそうだった。見た目は全然違うのに、ガネーシャ様とラウェルナの手は大小の差はあるがそっくりだった。

「あのねー、あ、ここに座るね。オッキー、ほら、絨毯に上がって、このプフに座ったらいいよ。絨毯に正座の方が落ち着く? それで大丈夫。うん」

 ガネーシャが長椅子に座り、ラウェルナはプフに座り、正座した姫の両手を優しく撫でて落ち着かせる。ラウェルナから話を始めた。

「あのねー、ちょっと言いにくいんだけど。転生者をね、地球から送ったんだけど、詐欺なんじゃないかなーって疑いがあってね、その誤解を解くためにここに来たの。ガっちゃんを疑っているわけじゃないんだけど、はっきりさせた方がお互い良いかなって思って」

「そうか。らうるん、どこが詐欺みたいに思われてるのかな? 」

「そうね『親』とか『子』がいて神位が上がるってトコかな。確認したけど、転移させたら神位が上がることは無いっていわれたのぉ」

 息長足姫は俯いてぎゅっと握った拳を膝に押し付ける。自分が悪いわけではないのに、責められているような気分だ。ガネーシャは、長い鼻をゆったり揺らし笑った。

「あー、それな。転移させただけでは神位は上がらない」

「なっ! そんな! 妾はもう転移させてしまったのだ! 地球に帰してやることはできないのか? 」

「オッキー。落ち着いて。ガっちゃんのお話を最後まで聞かなくちゃ。大丈夫。私が付いているわ」

 ラウェルナは息長足姫の肩を抱き、背中を擦ってくれる。じんわりと伝わる体温が息長足姫を少しづつ解していく。

「転移させただけではって言ったっしょ。転移して、ティーノーンの神々の信者を増やす事が大事なんよ。後さ、転移してしまったら地球には帰れないよ。研修で習わなかった? 」

 息長足姫は衝撃の事実に首を横に振るだけだった。

「えー? 私は覚えてなかったな。戻れなかったら、どうしてあげたらいいのかしら? 」

「そうだねー。研修の時は『均衡を保てなくなるから』とか言われて、オッキーは制限付けてない? 」

「あっ! 付けてるぞ! マニュアルに沿って転移させたからな」

「そう。そうなんだ。その制限を付けるとちょっと困るんだよね。何でかって言うと、寺院や教会で奇跡が起きることが信仰を集めるのに効果的なんだよねー」

 息長足姫は頷き、話を促した。

「だから、オッキーの転移者さんが寺院や教会に行くときに、チョーッとだけ制限を外してくれるだけでいいんよ。
オッキーが選んだ転移者さんだから、性格も良いはずだから、行った先を殲滅せんめつしたりしないでしょ。ティーノーンの神々もね、信者さんを増やさないと神位が上がらないからさ。転移に昔から協力的なんだよ。だから、オッキーが送った転移者さんが、寺院や教会で奇跡を起こせば信者さんが集まるから判定の儀の前がいいかも」

 ラウェルナが少し慌ててガネーシャに尋ねる。

「ガっちゃん。私、手続き間違ったかも。制限の解除のこと、オッキーに説明し忘れてた。ナ・シングワンチャーの領主様の所に行ったら大切にしてもらえると思ってたけど、あそこの領主様って短気なんだよね。オッキーが制限付けてたら怒って殺しちゃうかな? 」

「えっ? それは本当か? 葉月は大丈夫なのか? 」

「オッキー、神気は溜まった? お話しできそう? 」

「あぁ。多分大丈夫だ。やってみよう」

 姫は懐から手鏡を取り出し、葉月に呼びかける。

「葉月よ! 応えてくれ!! 葉月!! 葉月!!! 」

 姫の叫びにも似た呼びかけに、ゴソゴソといった雑音に交じり声も聞こえてくる。

「もしもーし。姫ですか? 」

 その間延びした返答に姫は安堵し、床に座り込んだ。放心状態の姫に代わってラウェルナが話しかける。

「ローマのラウェルナです。初めましてー」

「げっ! あの……息長足姫がいつもお世話になっております。あの、姫、大丈夫ですか? 代われますか? 」

「オッキー。代われる? ハヅキが話したいって」

「……葉月よ。無事か? 」

「姫ー!! 色々あって何から話したらいいかわかんないよ。とにかく領主さまに、奴隷にされて放逐ほうちくって言われて高級奴隷になれなくて、庶民の奴隷にもなれなくて困ってたのね。

 その時、亀のお兄さんが私を買い取ってくれたの。で、亀のお兄さんの家で、コツメカワウソの獣人さんたちを介護して、双子の孫のお世話するのが仕事なんだ。また、その双子が可愛いの!!その他にも子供が三人いてね、九人家族なんだよ。今日はね、みんなで役場に自由民になる手続きに来たの。一人金貨三枚。私、金貨一枚だったのに!

 その後ねナ・シングワンチャーの大神殿に行って。それで、ショボい魔法使えるようになったって! まだ使ってないからショボいかわかんないけど。 あ、姫が授けてくれた魔法やスキルショボいって言ってごめんなさい。それで『ステータスオープン』って言ってもボード出てこないんだけど、手の向きとかが関係あるのかな? 結構恥ずかしかったからさ……」

 あぁ。葉月だ。支離滅裂に早口でまくし立てるように言っているのは通常運転だから、変わりないのだと判断した姫は安心する。状態確認が終わったので、もう一度ガネーシャと話し合う必要がある。

「止まれ! ハヅキ! 時間が足りなくなる! ステータスオープンと言っても見えないぞ。頭で感じ取るのだ。映像は手鏡を通してではないと、妾の負担が大きくなり話す時間が短くなるのでもうしばらくは手鏡に話しかけるようにすればよい。仕事をするなら、夜寝る前に定期的に連絡しなさい。いつも見守っているからな。葉月よ。達者で」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】男爵令嬢は冒険者生活を満喫する

影清
ファンタジー
英雄の両親を持つ男爵令嬢のサラは、十歳の頃から冒険者として活動している。優秀な両親、優秀な兄に恥じない娘であろうと努力するサラの前に、たくさんのメイドや護衛に囲まれた侯爵令嬢が現れた。「卒業イベントまでに、立派な冒険者になっておきたいの」。一人でも生きていけるようにだとか、追放なんてごめんだわなど、意味の分からぬことを言う令嬢と関わりたくないサラだが、同じ学園に入学することになって――。 ※残酷な描写は予告なく出てきます。 ※小説家になろう、アルファポリス、カクヨムに掲載中です。 ※106話完結。

【完結】引きこもり令嬢は迷い込んできた猫達を愛でることにしました

かな
恋愛
乙女ゲームのモブですらない公爵令嬢に転生してしまった主人公は訳あって絶賛引きこもり中! そんな主人公の生活はとある2匹の猫を保護したことによって一変してしまい……? 可愛い猫達を可愛がっていたら、とんでもないことに巻き込まれてしまった主人公の無自覚無双の幕開けです! そしていつのまにか溺愛ルートにまで突入していて……!? イケメンからの溺愛なんて、元引きこもりの私には刺激が強すぎます!! 毎日17時と19時に更新します。 全12話完結+番外編 「小説家になろう」でも掲載しています。

【完結】転生少女は異世界でお店を始めたい

梅丸
ファンタジー
せっかく40代目前にして夢だった喫茶店オープンに漕ぎ着けたと言うのに事故に遭い呆気なく命を落としてしまった私。女神様が管理する異世界に転生させてもらい夢を実現するために奮闘するのだが、この世界には無いものが多すぎる! 創造魔法と言う女神様から授かった恩寵と前世の料理レシピを駆使して色々作りながら頑張る私だった。

処理中です...