私、獣人の国でばぁばになります!

若林亜季

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10.獣人から見た葉月

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自分の鑑定眼の無さに落ち込むグロンだが、それでも再鑑定してくれる様だ。奴隷の葉月に対する態度も変わらない。老舗高級店の意地があるのだろう。再鑑定の準備中にトイレに行く。

 異世界の生活水準の指標になるトイレだが、個室で和式の簡易水洗トイレだった。トイレには図解付きで、排泄の仕方やトイレの仕組みが書いてある。『一歩前へ! 』の注意書きもあった。水洗の水は温泉水を利用した中水。SDGsだ。中世ヨーロッパ風プラス魔法で全て現代と変わらない生活ができる生活では無い事は分かっていたが、全く未発達な文明でも無い事も分かった。

 トイレの後、ステータスオープンと唱えてみた。反応が無いので、手をスライドさせてみたが何も起こらなかった。異世界でも、小説や漫画の様にはいかなかった。部屋に戻るとグロンの再鑑定の準備が整っていた。

「鑑定」とか言ってグロンが鑑定してくれると思ったが、安定して詳細がわかる魔道具を使用するそうだ。鑑定の魔道具と言えば水晶玉がピカーっと光を出すイメージだったが、実際はロールした感熱紙を利用するファックスのようだった。薄く板状に削った透明に磨かれた石の面に手を乗せ光が入らない様に上部を黒い厚い布で覆う。魔力を注ぐと、内部に内蔵された巻かれた羊皮紙に印刷されて出てくるとの事。つくづくご都合主義な仕様だ。

「さあ、ハヅキ。魔力を注いで下さい」

「急に言われても……魔力ってどの様にしたら出るのですか? 」

「うーん。とりあえず手を置いて、魔力流れろーと念じてみてください」

「……うぅん。魔力流れろ! 」

ジワリジワリと何かが葉月から吸い上げられる感じがした。少し気持ちが悪いが、倒れる程でも無いので静かに耐えた。魔力を注いでから五分程で印刷が始まり、十分程で止まった。

ハヅキ・マツオ(四十三歳)未婚

清らかな乙女

魔力極小

生活魔法のみ使用可(日本神話支局・息長足姫おきながたらしひめより制限あり)

生活魔法内訳

『火属性』種火をつけることができる

『風属性』乾燥させることができる

『水属性』清潔な飲料水を出す事ができる、家庭内の清潔を守る為の洗浄用水を出す事ができる

『土属性』家庭菜園程度の作物の成長促進、家庭菜園程度の土壌の改善

『光属性』治療院に行くほどでもない怪我の治療、自然治癒力の促進

『スキル』言語理解、身体強化(極弱)、簡易鑑定、アイテムBOX(極小)

 その他には、性格や、地球で取得した普通自動車免許や狩猟免許、ヘルパー三級などの資格情報。計算や文章力などの知的な程度など事細かに記されている。だが、葉月は魔法が使える事に感動していた。

 凄いと葉月は顔を紅潮させ、興奮している。

「グロン様! 凄くないですか? 金貨五十枚分あると思いませんか?! 」

 グロンは困り顔で葉月に伝える。

「無いよりマシですが……。ナ・シングワンチャーの奴隷を買える経済力のある家庭は井戸や風呂やトイレ等の設備も整っており、手押しポンプや火つけ箱等便利な道具もあるのですよ。何より成人少し前の若く美しい強靭きょうじんな肉体を持つ獣人の奴隷や若く美しい膨大ぼうだいな魔力を持つ人間の奴隷を二人購入しても金貨五十枚にはならないのです」

「若く美しく能力が高い、そしてお買い得。……わかります。私は選ばれないですよね」

「ハヅキ。この際はっきり言いますね。貴女の能力は、このナ・シングワンチャーでは極めて普通です。そして、見た目よりずいぶん年を取っています」  

 葉月は決して童顔ではない。少し眠そうなタレ目で他は特徴の無いのっぺりとした顔。今も小学生の時の写真と顔が変わらない。まだ白髪は無いし、太っているからか色黒の肌は張りがあり、顔に皺も無い。年齢不詳と良く言われていた。

「何かすみません。ところで私、獣人の方には何歳に見えるのですか」

 東洋人は欧米人に比べ五歳程若く見えると聞いている。こちらではどうなのだろう。

「私は色々な人間を見てきたのですが、二十代には見えますよ。獣人国では人族でも二十代以降の経産婦の子育て経験者は乳母として歓迎されますが……。ハヅキは何しろまだ清い乙女ですからね」

「あの、ずっと気になってたのですが清い乙女って、男性経験が無いって事ですよね」

 グロンはとたんに顔を赤くし葉月に抗議の声をあげた。

「ニホンジンは皆さんそんなに率直なんですか」

「いやいや、さっき性癖とか言ってましたよね? 高級な性奴隷とかも扱うんでしょ」

 ますます焦るグロンは額の汗を手拭てぬぐいで拭きながら答える。

「まぁ、そうですが。貴女の様なおとなしそうな方から、そんな言葉が出るのがビックリしたと言うか……。ところでどうしてその清い乙女の事が気になるのですか」

 グロンの反応から言っても良いのか迷ったが、はっきりさせたくて言ってみる。

「私、男性経験ありますよ」

 あれは二十代で恋人が欲しいと焦っていた時だった。妹の弥生に黙って、結婚紹介所を通して知り合ったバツイチ三十代の男性とお付き合いをした。葉月より背も高く、営業をしているからか見た目もスマートで清潔感があり、話も上手だった。葉月は恋をした。初体験はあっという間だった。その日の帰りに、結婚相談所にカップル成立を伝える事を言うと否定してきた。複数人と同時にデートをしていたようだ。

「君は一等賞では無いのに一等賞の賞品を貰ったんだから、それだけでラッキーなんじゃない」と言われた。弥生に泣きついて慰めてもらい、結婚相談所は退会することになった。どんな手を使ったか分からないが、結婚相談所の入会金三十万円は戻ってきた。とにかく、葉月は清い乙女では無いのだ。

 どちらにせよ『アンポーンの店』専属の医師に健康診断と一緒に調べてもらう事になった。まだ若い奴隷の処女は価値がある為、買い上げてもらう前に必ず調べるそうだ。

 結果、葉月は健康で処女だった。

 あの人は早すぎてバツイチになったのだろうか。いやいや、絶対に性格が最悪だったからだと思う。嫌な思い出はノーカウントにする事にした。

 葉月は獣人から自分がどの様に見えているか現代日本の平均年齢に当てはめてみる。

『健康的な九十代の女性。今回、外国に一人で移住してきて身よりは無い。移住する前は実家から出て生活をした事が無い。就職をした事もなく、家事手伝いをしていた。未婚。男性との性交渉は無いため閨の指導や乳母としては実力不足。特筆する特技はない。資格は普通運転免許証と狩猟資格。後は履歴書に書けない小学生の時に取った習字三段。今は廃止になった二十五年前に取ったヘルパー三級位だろうか』

 うん、金貨五十枚は無いな。グロン様、不良債権を抱えさせてしまってすみません。
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