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第九章
Ⅲ
しおりを挟む琥珀が奏ちゃんに連絡してくれている間、少し目を閉じてじっとしていたら少しは気分もマシになった。
立ち上がって奏ちゃんが去っていった方向へふらふらと歩き出す。
案外、近くにいるかもしれない。
奏ちゃんの家のまわりの歩いてみようと思っていると、琥珀から電話がかかってきた。
『奏と連絡ついたよ』
「どこにいるの。」
『それは言わない約束した。言えない。』
「明るいところにいるよね?
家の近く?すぐ帰ってこれる?」
『ん~…とにかく無事。
それより獅音兄さん、動けるようになったの?』
「うん…」
『そう。
じゃあそのまま帰ってきて。』
「は?」
思ったよりも低い声が出た。
「なんで。嫌だ。
奏ちゃんのこと迎えに行く。」
『いや、奏、ちょっと一人になりたいみたいだから…』
「一人で夜道なんて歩いて帰ったら危ないだろう。」
『うん、だから帰り道、私と電話繋がせるから。』
「じゃあ家の前で待ってる。」
『いやだから…』
「なに。」
電話の向こうで琥珀がため息をつく。
ため息をつきたいのはこっちだ。
『獅音兄さんが先に帰ることが確定したら帰るって、奏が…』
「納得できない。」
このまま今日を終わらせるのはダメだと、頭のなかで警鐘がなっている。
だいたい、10分くらい。
琥珀の意見に反論し続けた。
琥珀を仲介してはいるけれど、今のほうがよっぽど喧嘩しているようだと思う。
「いいから、奏ちゃんの居場所教えて。
それか奏ちゃんに電話に出るように言って。」
『だからそんな無理強いしたって仕方ないじゃん。
お互い冷静じゃないでしょ?
私が話を聞いておくから…』
「…なんで、」
『だからぁ、』
「なんで、僕じゃないの…」
奏ちゃんは何も教えてくれない。
僕と君とのことでさえ、僕に言ってくれない。
いつまでたっても。
『…』
「…」
『…私が間にはいるの、不本意かもしれないけど、
私は奏の友達だから、友達の嫌がることはしたくない。
獅音兄さんの嫌がることもしたくないけど…ごめん、今は奏を優先する。
お願い、ここは獅音兄さんが折れて。』
こうしている間にも夜は更けていく。
「…家の前で待つのはいい?
奏ちゃんにはバレないようにする。」
『…奏に話しかけたりするのはしないってこと?』
「…うん」
『正直、それに関しては信用無いよ。
前も家に行くなって言ったのに行ったよね。』
「…前はちゃんと返事しなかった。
今回はしたじゃん。」
『…本当に?』
「…うん。」
『……わかった。
奏に見つからないようにしてね。』
電話を切って、マンションのある筋の曲がり角へ移動する。
まわりは暗いし、見つからないだろう。
…本当にストーカーみたいだ。
龍海が一時期、翠ちゃんの後ろに着いていって、人知れず送り迎えしてたときを思い出した。
今は結ばれた二人。
それに引き換え僕らをつなぐ糸は今にも切れそうに感じた。
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