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第九章
Ⅱ
しおりを挟む心のなかで呟いたはずの言葉は、口から溢れ出ていたようで
「え…?」
奏ちゃんの声が聞こえて初めて、自分の言葉が伝わってしまったのだと気づいた。
でも、止まれなかった。
「どうして僕のことが知りたくなったの?
僕からすれば凄く急で…
だから無理してるんじゃないかなって、あ…
ごめん、無理はしてないんだったね。」
くらくらしてきて顔をあげていられない。
「奏ちゃんが僕のことを知ろうとしてくれるのは嬉しい。
でも、奏ちゃんは何も教えてくれない。
僕はいつまでも、君のことが分からない。」
そこからは、長い長い沈黙。
そして、
「…ごめん、なさい。」
聞こえてきたのは、彼女の謝罪の言葉。
そこでやっと、やってしまった、と思った。
ただただ、僕が与えるだけでいいと
見返りなんかいらないと
そう思ってきたはずなのに。
…いや、それはそう自分に言い聞かせてきただけ。
本当は同じだけ、返してほしかった。
すぐにでも。
そんな自分の気持ちをさらけ出して
結果、彼女に謝らせた。
ごめん、違うんだ。
話をしたい。
僕も今、冷静じゃない。
ちゃんと話そう。
そう言おうと顔を上げると、顔色が真っ青な奏ちゃんが固まっていた。
「…奏ちゃん?」
声をかける、が、次の瞬間
「っ…!」
「奏ちゃん?!」
奏ちゃんは急に振り返って走り出した。
「奏ちゃん!待って!」
追いかけようとするが、いよいよ限界がきたのか体がぐらりと揺れ、その場に膝をつく。
「ぅ…」
頭が痛い。
くらくらする。
目がまわる。
でも、奏ちゃんを一人にできない。
ポケットから携帯をとりだし、薄目を開けて画面を操作し奏ちゃんに電話をかける。
電話の呼び出し音がいつもより大きく聞こえる。
うるさい。
頭が余計、痛くなる。
早く、出て。
いつまでたっても、電話は繋がらない。
電話を切って、メッセージを送る。
既読がつく前にまた電話をかける。
何度か同じことを繰り返した。
途中で既読がついたけど、返信もなければ電話にも相変わらず出てくれない。
僕の電話には、出てくれない…
今までずっと開いていた奏ちゃんのメッセージを閉じて、別の人間に電話をかける。
『…もしもーし?』
「…こはく、」
彼女が頼る人間なんて、琥珀しか知らない。
僕も結局こいつに頼るしかない。
『なに?どうした?』
「…奏ちゃんから、何か、連絡あった?」
『……ない、けど。
なに、喧嘩でもしたの?』
喧嘩なのかな…
「分からない。
奏ちゃん、走っていっちゃった…
どこにいるか分からない。」
『はぁ?追いかけなかったの?』
「酒が…酔いが、まわって」
『えっ飲んだの?
…動けないの?』
「ん…」
これだけの会話で、僕は今使い物にならないと判断した琥珀は「わかった」と言って電話を切った。
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