隣の席の、あなた

笹 司

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第八章

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改まってプレゼントなんて、初めてだ。
いつも食べ物が多いから、形として残るものがいいなぁ…





「龍海。クリスマスは翠ちゃんと会うの?」

仕事帰りの車の中で運転している龍海に声をかける。

「…あぁ。」

なんとなく警戒したような声色の返事が返ってくる。
何故。

「クリスマスプレゼントとか、考えてる?」

「…あぁ。」

「何が欲しいか聞いたの?」

「いや…」

「何あげるの?」

「…指輪。」

えっ、

「何お前、プロポーズするの?」

「いやまだ…」



まだ



いやでも、そうか。
こいつは翠ちゃんとの未来を見ているのか。

…僕は未来のことなんて、怖くて考えられない。
未来の奏ちゃんの隣に僕がいるのか、確信が持てない。

龍海が羨ましい。
僕もペアリングとか買いたいよ。
というかプロポーズしちゃいたいよ。
紙一枚の契約だとしても、結婚すれば奏ちゃんが離れるかも、みたいな不安はなくなるかもしれないのに。
でも…

「重い、よねぇ…」

「えっ」

僕たちの関係は、僕の執念と彼女の良心で成り立っている。
そんな僕が指輪なんてあげたら、奏ちゃん引いちゃうよね…

「はぁ…」

でもアクセサリーの類いはいいかもなぁ。
いつも身に付けていられるものがいい。
こっそりお揃い買っちゃうか。
気持ち悪いかなぁ。
いやでも一応恋人じゃん、僕たち。
お揃いくらいよくない?

「………兄さん。」

赤信号に止められた車の中で、龍海が声をかけてくる。

「なに?」

ふと龍海の横顔に目をやると、何やら青ざめている。

「俺は…やっぱり、重いのか…?」

「…なんの話?体重?」

急に変な質問をされたことに対して率直に聞き返す。
すると、信じられない、といった顔をされた。

…なんなの?

「わかんないけど、適正体重なんじゃない?」

「…」

「え、本当になに?」

「……いや、なんでもない。」

「…そう?」

「あぁ。…兄さん。」

「なに?」

「兄さんはクリスマス、双木さんと過ごすのか?」

驚いた。
こいつがそんなことを聞いてくるなんて。

「…当日は会えないけど、直前の休日会うことになってるよ。
プレゼント交換もするんだけど、何がいいかなぁって…」

「そうか。」

「何がいいと思う?」

「…兄さんが渡したいものでいいんじゃないのか。」

「彼女が喜んでくれるか分かんないじゃん。」

「兄さんは双木さんから何をもらえたら嬉しいんだ?」

「なんでも嬉しいに決まってるじゃん。
僕のことを想って選んでくれただけで嬉しいよ。」

「双木さんもそう思うんじゃないのか。」

彼女も、そう、思う…?
思ってくれるんだろうか。

そうだったら嬉しいけど、そんなことないと思う。

「…お前、生意気だね。」

「何故だ…」

「ふふっ、嘘だよ。」





恋人から貰えるものならなんでも嬉しい、なんて。
僕はそう思うけれど、奏ちゃんは…






…僕、いつの間にこんなに弱気になったんだろう。
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