隣の席の、あなた

笹 司

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第七章

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彼女の気持ちは恐らく、ずっと変わっていない。
僕のことが恋愛的に好きで、付き合ってくれてるわけじゃない。

僕の気持ちも変わっていない。
彼女のことが好きな気持ちは消えていない。
それどころか、日を追うごとに強く大きくなる。
その気持ちのまま、少し近づきすぎたかもしれない。
今でも既に衝動的な言動をしてしまっている。
一度冷静にならなければ、龍海と同じ轍を踏んでしまうかもしれない。
あいつの場合は最終的にはうまく行ったけど。

それに、熱に浮かされた心は段々と彼女に見返りを求めようとしている。
君にも僕を求めて欲しいと。





一度、冷静にならなければ。










今日もいつも通り電話をかける。
携帯を耳にあて、電話が繋がるのを待つ。
無機質な呼び出し音が鳴り続けている。
…今日は、繋がるまでが長い。
いや、今日は電話に出られないのかも。
このまま留守電に繋がるかと思ったが、

『っ、はい。もしもし?』

慌てた様子の奏ちゃんの声が聞こえてきた。

「もしもし奏ちゃん?お疲れ様。」

『お疲れ様です。』

そう言って奏ちゃんは、ふぅ、と一息ついた。
何かあったのだろうか。

「なんか、急いでた?大丈夫?」

『あ、いえ、大丈夫です。』

「大丈夫」の一言がこんなに寂しいことはない。
いつも、その一言で壁が築かれていく感覚。

「…そう。」

『…?何かありました?』

奏ちゃんにそう問われることに驚く。
今、僕、そんなに分かりやすかったのだろうか。

「ううん。大丈夫だよ。」

彼女に、僕の暗い気持ちに気付いてほしくない。
すぐに、次のデートについて話題を出す。
今日もすぐに、彼女は希望を伝えてくれると思っていた。

でも、

『獅音さんは、』

「うん?」

『獅音さんは何がしたいですか?』

僕はどうしたいか、と、奏ちゃんは訊ねた。

「え?」

…また、気を遣ってくれているのだろうか。

「…無理しなくていいよ。」

『…え?』

それとも、特にしたいことも無くなってきたんだろうか。
良くない想像しかできない。

代わり映えのしない家デートの約束をまた取り付けて、断られはしないことに安心する。
そのまま僕が一方的に会話を続ける。
彼女がいつもより、上の空になっている気がする。
それに気付かないふりをする。



どうしたの、と訊ねたとしても
きっと彼女は、大丈夫、と言う。
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