隣の席の、あなた

第六章

Ⅰ

不名誉な浮気疑惑をかけられて数日経った頃、琥珀に声をかけられた。

「獅音兄さん、これ。」

「あぁ。円盤化したの？」

手渡されたのは『ヨルと森』のDVDだった。

「うん。良かったら奏と見て。」

「ふーん…ありがとう。」

DVDか…
どこで見ようかな。
家はちょっと、って奏ちゃん言ってたしなぁ。
調べてみるか。






その日の、夜。

「一緒に観たいDVDがあるんだけど、どうしたらいい？」

『どうしたら、とは…』

「どこで観よう。
ネットカフェは画面小さいしあんまりお喋りできないし…
シアター付きのレンタルスペースとかかな？
映画館貸しきりとかも出来るらしいよ。」

色々調べてみたものの、結局どうするのが一番良いのか分からず本人に聞くことにした。

『えっと…』

「どこがいい？」

なんだかんだネットカフェかなぁ。
返事を待っていると、






『…普通に、どちらかの家でいいんじゃないでしょうか…』





長い、長い、沈黙が流れる。

「…いいの？」

『…逆になんでですか？』

分からない、といった雰囲気の声がスマホ越しに聞こえてくる。

『デートは外の方が良いんじゃないの？』

初めに言ってたじゃない。
家はちょっと、って。

『あ…』

奏ちゃんは僕がそう言って初めて、あの時の自分の言葉を思い出したようだ。
本当に家でも良いと思ってるのか？
それとも、僕がしたいことならば、と無理をしているのか。

「無理しなくても、」

『無理はしてないです。』

「…本当に？」

『はい。』

それなら、今回は家にする、か…
どうしようかな。
龍海がいる時に家にあげるのは龍海も奏ちゃんも気まずいだろう。
琥珀がいると、奏ちゃんを琥珀に取られそうだ。
でも、僕一人の家は奏ちゃんが緊張するかな。
どうしたものか…






『私の家で大丈夫ですよ。』






「えっ…」

『え？』

僕が考えを巡らせている間に、奏ちゃんはなんてこともないように自宅を提案してきた。
奏ちゃんの家で？二人きり？
しかも、それを特になんとも思ってない様子。
こ、れは…全然、意識されてない…？

「いや…じゃあお邪魔しよう、かな。」

好きな子の家にお呼ばれするという嬉しい状況の筈なのに、何故か素直に喜べない。



『…いやぁ、あの…
半年も経つのに、凄く清い交際をしていらっしゃるようで…』



数日前の琥珀の言葉が、頭の中に響いた。