隣の席の、あなた

双子のたまご

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第四章

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どんどん話を進めてしまおう、と言っても
奏ちゃんの嫌がることはしたくないし、しちゃ駄目だ。

連絡の頻度や、デートはどこがいいか。
彼女はどこまで許してくれるのか、どうして欲しいのか。
すべて訊ねた。

彼女がどんな人なのかも、段々分かってきた気がする。




「基本的に毎日会いに行っていい?」

「…毎日はちょっと大変かも、です。」

嫌なことは嫌と、はっきりとしている。
でも、相手に配慮した言い方が出来る。




「電話は毎日かけていい?
出れなくてもかけ直さなくていいよ。
出れるときだけでいいよ。」

「はい…」

押しに弱く、ちょっと流されやすいところもある。





「デートは家?外?」

「…家はちょっと、」

一応、僕のことは男だとは思っている様子。





「行きたいところある?僕が決める?」

「人が多すぎないところなら、どこでも。」

人混みはちょっと苦手。





『…もしもし。』

「もしもし、奏ちゃん?今日もお疲れさま。」

『お疲れ様です。
すみません、昨日電話出れなくて…』

ちょっと気にしやすいところもある。





「今日はどんな一日だった?」

『いつもと変わりありませんが…
あ、数学の点数がかなり伸びた生徒がいて嬉しかったです。
あと、犬を飼っているご家庭があるんですけど、そこのワンちゃんがやっと私に慣れてきてくれたんです。
うん、今日はいい日でした。』

小さな幸せを見つけるのが上手。





あとは…照れ屋。

「…手、繋いでいい?」

「え…えっと、」

「ごめん、嫌?」

「嫌ってわけじゃなくて、」

「…もしかして照れてるの?」

「…」

「嫌じゃないなら、繋ぐね。」

「…どうぞ。」

「ふふ、可愛い。好き。」

手を繋ぐとき
可愛いと言ったとき
好きだと言ったとき

彼女は特に何も言わなかったけど、いつも頬を赤く染めていた。



手を繋ぐ以上のことは何もない、おままごとのようなお付き合い。
成人した男女の付き合いとは思えないほど綺麗で幼稚。
でも幸せだった。
そんな毎日も気づけば数ヶ月続いていた。










「わぁ…この椅子ふわふわですね…」

奏ちゃんが近くの座席を触ったあと、周りをきょろきょろ見渡している。
今日のデート先はプラネタリウムだ。

「奏ちゃん、こっちだよ」

「あ、はい。」

奏ちゃんを呼び寄せて、予約していた席に向かう。

「えーっと、はい、ここ。」

僕らのお付き合いは、喧嘩もなく、恐らく無理もなく、順調。
なので、もうちょっと距離を詰めていきたいと思った。



「…え?
…カップルシート?」



物理的にも。
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