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第四章
Ⅰ
しおりを挟む「ほら、どれにする?」
メニュー表を覗き込む。
なにかを探すように彼女の視線がメニューの上をすべる。
「ティラミス?」
「え…
…それも琥珀に聞いたんですか?」
あってたみたいだ。
やっぱり奏ちゃん、ティラミス好きなんだ。
「いや?
君、いつもうちに来るときコンビニのティラミス買ってきてたじゃない。
好きなんだなぁと思ってた。
好きな子の好きなものは覚えてたいでしょ。」
僕の言葉に、奏ちゃんが少し眉間に皺をよせる。
「またそういうこと言う…」
「本心だよ」
近くにいた店員に声をかけて注文をする。
「じゃあ、ティラミス来たら話を始めようね。」
ティラミスが来たら
本心を全部、全部伝えよう。
「お待たせいたしました。」
彼女の目の前にティラミスが置かれる。
「まず可愛いなって思い始めたのは…」
「えっ、な、ちょっと待ってください。」
話し出した僕に焦り出す奏ちゃん。
「え~、ティラミス来たら話すって言ったじゃん。」
「そ、そうですけど…」
急な展開にドギマギしている奏ちゃんを見ているのも楽しい。
けれど、早く全てを伝えて信じて欲しいんだ。
「話していい?」
「ど、どうぞ…」
奏ちゃんのことを、ただの琥珀の友達、と思わなくなったところから。
「まず可愛いなって思い始めたのは…
うちで一緒に台本の読みあわせしたときだね。」
「…その節はどうも…」
あの頃の話をされるのは嫌かな、と思ってたけどそうでもないらしい。
「いえいえ~。
…その中でさ、何度か僕ら恋愛ものやったでしょ。」
「えぇ、まぁ…」
「僕のこと好きすぎて殺そうとするメンヘラ地雷女の時も、ストーカーに怯えて僕にすがってくる友達以上恋人未満な幼なじみの時も、身分の違いに葛藤する第二王女の時も可愛かったけどさ」
「…よく覚えてますね」
奏ちゃんが意外そうな顔で僕を見る。
「それでも一番は、僕ら仲良し夫婦なのに、戦があって離ればなれになっちゃう話の時だね。
覚えてる?」
奏ちゃんはすぐにピンと来たようだった。
「…『おしどりの辞世』、ですね…」
奏ちゃんも覚えていた。
あの作品がきっかけだった。
君の魅力に気づいた、きっかけだった。
「そうそう、奏ちゃんが急に泣いてびっくりして、台詞とんじゃったの。」
「す、すみません…」
「凄く可愛かったの。
可愛すぎてびっくりしちゃった。」
「え?」
今ならあの時の感情を、言語化できる。
そう、君の芝居に心がときめいた。
「僕のこと愛してるって言いながら泣いてたんだよ?
胸キュンしちゃうじゃん。」
「いや、獅音さんに言ったわけでは…」
その言葉に、心が悲しみと嫉妬で蝕まれていくのを感じる。
…そうだね。
僕もあのときそう思った。
あのときはまだ恋になっていなかったと思う。
でも、君のことが気になり始めたことは事実。
…僕に言ったわけじゃないことなんて、僕が一番よく分かってるよ。
「まぁまぁ。
とにかくそれから、可愛い奏ちゃんが見たくて、いつも読みあわせに呼ばれるのを楽しみにしていました。」
「それは役が可愛かったのであって、私ではないのでは…」
…彼女はどうしても、この僕の想いを勘違いにしたいらしい。
ここで、一度踏みとどまるべきだった。
連日、冗談か何かだと思われてきた僕の気持ちを正しく知ってもらおうと、気が急いた。
「続きまして、奏ちゃんのことを好きかもしれないと思い始めたのは」
意地になって、慎重にならなくてはならなかった文言を勢いのまま吐いた。
「奏ちゃんがうちで琥珀に、芝居はやめるって話してたとき。」
ひゅっ、と、奏ちゃんが息をのむ声が聞こえた。
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