13 / 53
第三章
Ⅱ
しおりを挟む「ここ、です。」
途中で何度も、ここまででいい、という奏ちゃんを宥めつつ、家の前までたどり着いた。
「…すみません。」
奏ちゃんが当初の迷惑そうな様子から打って変わって申し訳なさそうにしている。
「なんで謝るの。」
「えっと…色々と、気を遣っていただいて…?」
「気を遣ったわけじゃないよ。」
いやぁ、満足満足。
これから、仲良くなっていこう。
まずは連絡先から訊こうか。
「また、改めてお礼を、」
「お礼してくれるの?」
彼女からそういってもらえるなんて。
また会って、とお願いしよう。
付き合って欲しいカフェがあるとか言って。
後日会うなら連絡先の交換は必須。
一石二鳥だ。
「えぇ、琥珀に渡しておきますね。」
その言葉に少しむっとする。
全て琥珀を介して終わらせるつもり?
「何か、お好きなものはありますか?」
…好きなもの。
「奏ちゃん」
連絡先とか、そんなもの全てすっ飛ばして、反射的にそう答えた。
「はい、なんですか?」
奏ちゃんは話しかけられたと思ったらしい。
でも、あとに引けない。
今の彼女に遠回しな距離の詰め方は無理だ。
そんなことをしている間に、きっと逃げられる。
「だから、奏ちゃん。」
「…はい?」
「好きなもの、奏ちゃん。
…付き合って。」
好きです、付き合ってください、なんて
子供の告白みたいだ。
あれだけ琥珀や奏ちゃんに付き合って色んな恋愛ものの台本を読んできたのに。
なんの役にも立ってない。
いやそんなことより、奏ちゃんの返事だ。
まぁ断られる可能性が高いだろう。
急すぎる展開だもの、僕が逆の立場ならとりあえず断る。
…もう、なんで僕はこう、急な対応に弱いかな。
かっこわるい。
かっこわるいけど、ここは一旦フラれてでも…
少なくとも僕のこと、意識はするはずだから…
でも僕の予想に反して奏ちゃんは
「…なんで?」
本当に分からない、という顔でそう答えた。
フラれ、なかった。
奏ちゃんの混乱した様子に、逆にこちらは冷静になってきた。
「だから、奏ちゃんが好きなんだってば」
「…だから、なんでですか?」
「え~…好きに理由とかある?」
僕も何がきっかけでいつから好きなのか、よく分からない。
「いや、分かんないですけど…」
「お礼くれるんでしょ?ちょうだい。」
「えっと…」
…ちょっと待って、これ押せばいけるやつか?
少しずつ物理的に距離を縮めてみる。
「私は、ものじゃないって言うか…」
彼女はちょっとズレた反抗をし始めた。
「あぁ、そうだね。言い方が悪かったね。
ごめんね。」
触れられそうな距離。
その頬に手を伸ばす。
思えば、最近の君との思い出の中では、いつもその頬に涙が流れている。
僕の手が、奏ちゃんに触れる。
「あ…」
固まっている奏ちゃん。
「奏ちゃんは僕の、好きな人、だったね。」
このまま、捕まえられそうだ。
「っ!」
次の瞬間、奏ちゃんが僕の手を振り払った。
「おぉ、」
思わず声が漏れる。
彼女はそのままマンションの方へ駆け出した。
「…逃げちゃった」
ぼーっと彼女のマンションを眺めて思う。
…僕、龍海のことストーカーとか言ってられないな。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。


社長室の蜜月
ゆる
恋愛
内容紹介:
若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。
一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。
仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。


ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる
Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした
ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。
でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。
彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる