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第二章
Ⅳ
しおりを挟む「獅音兄さん、次の舞台も観にくる?
ほら、翠さんの…『ヨルと森』」
帰宅すると、先に帰っていた琥珀に声をかけられた。
翠ちゃんは龍海の好きな相手のこと。
例の、近所の薬剤師さん。
翠さんの…とは、
「翠さんの好きな本が舞台化することになって、デートに誘う口実にするから絶対にオーディションで役を勝ち取れと龍海に脅されたという背景の…」
という意味である。
あの時、久しぶりに琥珀の練習に付き合ったが、楽しかったのは最初だけだった。
それからオーディションまでの間、琥珀は少しでも時間があると僕を練習相手として拘束した。
台本の字がゲシュタルト崩壊を起こし始めた頃、龍海に苦言を呈した。
『龍海。
琥珀はお前の恋のために頑張ってるからさ。
たまにはお前が協力してあげたらどうかな。』
そう言って台本を差し出すと、龍海は僕の持つ台本に目をやり、次に僕の目をまっすぐ見て
『俺は大根だから力になれない。
すまない。
応援している。』
大真面目な顔でそう言った。
東京湾に沈めてやろうかと思った。
「もちろん行くよ。」
「いつもありがとう。」
琥珀が携帯を取り出す。
「14日が初日で、場所は神奈川スタート。次が東京、で次が大阪、愛知、福岡…
どこがいい?」
いつもは龍海と行ってたけど、あいつは愛しの翠ちゃんと行くようだった。
東京か神奈川ならどっちでもいいけど。
…あんまり先の予定は読めない。
「う~ん、じゃあ神奈川で」
「ん、二週間あるけど、公演期間。
いつにする?」
「そうだなぁ…22は?公演日?」
「うん。……ぁー…」
日にちを伝えると変な間が生まれた。
「あ、無理そうだった?」
「いや…いや、まぁ別にいいや。
うん。大丈夫。」
またチケット渡すね、と言って琥珀は風呂に向かった。
あの変な間が何を意味するのか、当日に発覚した。
琥珀に渡されたチケットを確認しながら劇場内を進む。
下手の最後方の端。
一番端の席には既に女性が座っていた。
パンフレットに目を通しているようだった。
なんだか見たことがある人のような気がした。
そのまま隣の席に座る。
どうしても気になって、ちらりと横顔を見た。
ぁ
っと、声が出そうになった。
…奏ちゃんだ。
開演のブザーが鳴った。
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