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第一章
Ⅴ
しおりを挟む「ただいま」
「おかえりー」
「…奏ちゃん来てるの?」
「うん、今トイレ。」
あれから段々と、奏ちゃんにも会うのも楽しみになっていた。
携帯を触っている琥珀の目の前のテーブルにはコンビニのプリンとティラミスが置いてあった。
「あ、獅音さんこんにちは。」
声をかけられ振り向くと、奏ちゃんが立っていた。
「琥珀、ごめん。帰るね。」
「あ~…分かった。」
「今日はもう練習終わっちゃったの?」
なんだ…残念。
お芝居見れるかなって楽しみにしていたのに、一足遅かったか。
「うん。
奏、駅まで送るよ。」
「いや、いいよ…大丈夫。」
奏ちゃんが、なんだか元気が無さそうに見える。
「どうしたの?大丈夫?
僕が送ろうか?」
「ううん。獅音兄さん大丈夫。
私が送る。」
「すみません、獅音さん…
大丈夫ですよ。ありがとうございます。
琥珀も…」
「いいから。帰るよ。」
「うん、ありがと…
獅音さん、お邪魔しました。」
「…うん。」
何かよく分からないけれど、蚊帳の外だった。
元気がない奏ちゃんが琥珀を頼り、琥珀は何かを隠している。
胸の辺りが重くなった。
…琥珀が何かを隠していることに、親離れのようなものを感じて寂しいのだろうか。
机の上に残されたコンビニスイーツに目をやる。
きっとティラミスは奏ちゃんのものだろう。
二人はいつもスイーツを買って来ているが、思えばいつも奏ちゃんはティラミスを選んでいるようだ。
今度来るときは、二人にティラミスを差し入れて上げよう。
そう、思っていたのに。
暫く奏ちゃんは来なかった。
二週間に一回程は来ていたのに。
気づけば二ヶ月経っていた。
「…最近、奏ちゃん来ないね?」
…もしかしたら、琥珀と喧嘩したのかもしれない。
そう思うと首を突っ込むのも憚られたが、二ヶ月も経つとさすがに気になる。
それに、やっとできた友達だと琥珀が泣いて喜んだくらいの子。
もし本当に喧嘩別れなら、琥珀の話も聞いて上げたい。
「あ~…うん、そうね。」
「…喧嘩でも、した?」
「ううん」
「元気にしてる?」
「ん~…まぁ、ちょっと疲れてるみたい、かな。」
琥珀はのらりくらりと返事をした。
琥珀の様子を見ると、喧嘩をしたわけではないようだ。
「元気になったらまたおいでって、言ってあげてね。」
「…うん」
そんな話をして、2.3週間経った頃。
家に帰ると玄関に琥珀の靴の横に、見慣れない靴が並んでいた。
…奏ちゃんだ。
久しぶりだ。
なんだかんだ会わなくなって三ヶ月か。
琥珀も、今日連れて来るなら言ってくれたらいいのに。
ティラミス、買ってくればよかった…
「……辞める?」
リビングに続く扉に手を掛けようとすると、琥珀の声が聞こえてきた。
深刻なトーンであることがすぐに伝わってきた。
「…うん。」
消えそうな奏ちゃんの声が聞こえた。
ドアを開けようと伸ばした手を、ゆっくりとおろした。
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