本当に、愛してる

双子のたまご

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第九章

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あれから、琥珀から聞いたカフェ付近に少しでも時間があれば行くようになった。
琥珀はカフェの場所を教えながら、

『獅音兄さんの方が、たっくんのこといじめてたよねぇ?
なんか、私が拗ねて教えなかったのを獅音兄さんがなだめたみたいな感じ、誠に遺憾。』

とブツブツ言っていた。


電車で片道二時間の距離。
仕事があれば頻繁に行けるわけもなく。
ただ、この街の何処かには彼女がいる。
そう思うと苦ではなかった。



そして、彼女は思ったよりも早く見つかった。
琥珀の情報提供から一週間。
今日も見つからなかった、と肩を落とし駅に向かっていると、駅前のビルの飲み屋の前に立っている彼女を見つけた。

…本当に、彼女が?

今にも走り出しそうだったが、彼女は一人ではなかった。
…男と一緒だった。
一瞬頭に血がのぼるが、落ち着け、と冷静になる。
以前のように、彼女が困った様子というわけではない。
…ナンパじゃないな。知り合いか。
とりあえず見失わないように近くにいこう。
…飲み会だろうか?
それなら二人が解散したあとに声をかけて、話をしよう。
そんなことを考えつつ近づいていると、二人の会話が聞こえてきた。
久しぶりに聞いた彼女の声は、酒のせいかふわふわとしていた。




「次は二人の記念日、祝わせてよね。」

「はは、そうだな!」



…記念日?
彼女と、この男の…?



「おい!!!」




落ち着いたはずの頭にまた血がのぼり、
冷静に、などといった考えは吹っ飛んでいた。
これだとまた行動が先走っている。
今までと同じだ。
しかし、この瞬間はそんなことを考えることはできなかった。
その勢いのまま彼女の腕を引っ張った。

彼女がバランスを崩して、俺の胸に寄りかかる。
相手の男が何かを言っていた。
状況が分からない、という様子の彼女が俺の方を振り向き、瞳に俺をとらえ、

「…たつみさん」

呆然と、そう呟いた。
やっと会えた、が、

「ちょっと!なんですか急に」

相手の男が間に入ってくる。

「…誰だこいつは。」

「…」

彼女は何も答えない。

「翠ちゃん、知り合い?大丈夫?」

…彼女の名前を、軽々しく呼んでいる。
こいつは、

「こいつは君の恋人なのか。
それとも君はこいつのことが好きなのか」

「なにを、言って…」

やっと彼女から出た一言は、俺を落ち着かせるものではなかった。
埒が明かない。
一緒にいた男に矛先を向ける。

「お前は翠の何なんだ。」

「っ、龍海さん、」

彼女が焦ったように俺を呼ぶ。

「お前、翠のことが好きなのか。」

「は…?」

「龍海さん、やめてください!」

どうして、君が

「君はこいつを庇うのか!」

「ちがっ」



「ちょっと!!!」



そこに響いた女性の声に、全員が揃って振り向く。
小柄な女性が、こちらへ向かってきていた。

「私の友達になんなの!」

「瑠璃!」

男が彼女から離れて、“るり”と呼んだ女性の方へ向かう。

「危ないから来るな」

「だって翠ちゃんが、」

「お前に何かあったらどうすんだ!」

「弥鶴君!」

次は彼女に、三人の視線が刺さる。

「…大丈夫だから。この人、知り合いだから。」

「翠ちゃん…」

「瑠璃ちゃん、びっくりさせてごめんね。
弥鶴君、瑠璃ちゃんのこと送ってあげて。」

俺を置いて、三人は話を進めていく。

「…本当に大丈夫か?」

“みつる”という男が、訝しげに俺を見る。

「うん、また職場でね。」

…職場の同僚だったのか。
だんだんと冷静になる。

「…わかった。行こう、瑠璃」

「翠ちゃん…」

「大丈夫だよ、今日はありがとう。」

「…うん…」

彼女の同僚達は何度か心配そうに、こちらを振り返っていた。

「…」

「…」

「…離してください。」

少しの沈黙のあとに、静かに彼女が言う。

「…嫌だ。」

「どうして」

「逃げるかもしれないだろう」

「逃げないです」

君は、俺から逃げたじゃないか。

「逃げたってどうせ追い付かれるでしょう。」

彼女が呆れたように呟く。

「…君と、話をしたいだけだ。」

「…分かりました。」

「…」

そっと、彼女の手を離した。
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