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第八章
Ⅰ
しおりを挟む彼女の家に着く。
だが、本当に会ってくれるだろうか。
ここにきて不安になる。
俺はいつもそうだ。情けない。
…彼女に合わせる顔がないんじゃない。
俺が彼女にどんな顔をされるのかが怖いんだ。
それでも、彼女と話をしなくては。
迷った末に、携帯を取り出し発信ボタンを押した。
家を訪ねて会いたくないと拒否されるより、電話に出てもらえない方がましだ。
「…はい。」
出た…
「…俺、だ。」
「はい…こんばんは、龍海さん。」
出てもらえないと思って勢いでかけてしまったから、何を言えばいいのか…
「「あ、」」
被った…!
「ご、ごめんなさい!」
「いや、」
彼女の声色は、いつも通りのように感じる。
「…今、家の近くまで来ている。」
「え?」
「少し、会って話ができないか。」
「あ…はい、今出ますね。」
顔を合わせることも、拒否されなかった。
「き、昨日は…すまなかった」
彼女が出てきてすぐに頭を下げる。
「た、龍海さん…!」
「君の信頼に背いた行動だった。」
「あの、気にしてないので…!
頭をあげてください!」
…気にしてない。
『お前、本当に意識されてないんだね。』
兄さんの言葉を思い出す。
そうだ、彼女は、俺に他に好きな人がいると思ってる。
訂正しなければ。
「…勘違いをしているようなので、伝えておきたいんだが、俺は…」
「大丈夫ですよ、龍海さん。」
「…は、」
彼女は笑顔だった。
「ちょっと魔が差しちゃったんですよね!
大丈夫、龍海さんにはちゃんと好きな人がいるって分かってますよ!
考えてみると、好きな人がいるのに他の女の人のお迎えとか、ご飯行くとか…
見られたら勘違いされちゃいますよ。」
妙にハキハキと頓珍漢なことを言う。
「だから、もう…」
その先には拒絶の言葉が用意されていると感じた。
「違う。」
彼女がビクリと震える。
今回のこと、どんな理由であれ許されたのならば、繋がりを絶つわけにはいかない。
「迎えに来るのは、やめない。
食事に誘うのもやめない。」
「え、でも、」
「また明日、迎えに来る。」
「ちょっ、龍海さん、」
無理矢理押し通して彼女に背を向ける。
『お前、本当に意識されてないんだね。』
…それならば、意識させるまで。
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