37 / 52
第七章
Ⅴ
しおりを挟む「おかえり、龍海」
「おかえり~」
「…」
「…龍海?」
「…おわった。」
「え?」
「ぜったいに、きらわれた…」
俺は、あまりにも酷い顔をしていたんだろう。
兄さんも琥珀も珍しく焦った様子だった。
「…」
「…」
「…」
兄妹とはいえ、事細かには話しにくい。
あくまでざっくりと話したつもりだったが…
俺は誤魔化すのが下手で、
兄さんと琥珀は話の本質を見抜くのが上手い。
「お前、まだそんなに青かったの。」
「高校生かよ。いや、中学生?」
「もう消えたい…」
「わぁ、心の声が出てる。
これはからかってる場合じゃないね。」
「もう無理だ。嫌われた。
彼女はきっと俺を汚らわしいと思っている。
そうでなくても合わせる顔がない。
強制猥褻罪だ…」
「未遂だし、お前普段もっと罪に問われるようなことしてるじゃん。」
「ちょっと獅音兄さん、そういう問題じゃないでしょ。
未遂だろうが、翠さんが嫌な想いしたならアウトだよ。」
「いやな、おもい…」
「琥珀、龍海の心が死にかけてる」
「いいや、100%たっくんが悪い。
翠さんに本当申し訳ないよ。
自分の欲望で突っ走ってるんじゃないよ。
もう嫌い、会いたくないって言われても仕方ない。
それでもまだ挽回したいって言うなら、まずは誠心誠意謝りな。
許してくれるか知らないけどね。」
琥珀が、とても怒っている。
同じ女性として思うところはあるのだろう。
返す言葉もない。
「まぁまぁ、琥珀。」
兄さんが琥珀をなだめる。
「とりあえず明日は僕が翠ちゃんに会ってくるよ。」
「獅音兄さん、甘いんじゃないの。」
「龍海、死にそうな位反省してるじゃない。
取り返しがつかないことをしたのは、こいつが一番よく分かってるよ。」
「だったら尚更、たっくんが行動すべきだと思うけど。」
「仕方ないじゃん。恋愛童貞なんだから。」
「言い訳にならない。」
兄さんと琥珀が言い合いになることはほとんど無い。
二人とも考え方が似ているから。
「それに、もし翠ちゃんが本当に龍海の顔も見たくないって思ってたら?
龍海が連絡することで余計嫌な思いさせるかも。」
「…」
「明日は僕が行くね。」
いいね?と兄さんが念を押して終わった。
琥珀は不満そうだったが、もう何も言わなかった。
俺は最後まで、何も言えなかった。
「ただいま」
「…おかえり」
「おかえり…兄さん、彼女は」
「気にしないで欲しいって。帰ったらメールするって言ってたよ。
あとこれ、本?渡してって言われた。」
「そうか…」
ほっとする。が、
「なんで翠さんが連絡するの。
たっくんから連絡しなよ。
獅音兄さんにも翠さんにも甘えてるんじゃないよ。」
琥珀がこちらを見ずにそう言う。
「あ…そ、そうだな。すまない、兄さん。」
「ううん。
ただ、琥珀の言うことも正しかったよ。
翠ちゃんのことが好きなら、翠ちゃんの気持ちを一番に考えないとね。」
「あぁ…琥珀も、ありがとう。」
「…別に。」
琥珀の纏う雰囲気が少し柔らかくなった。
琥珀の言うとおり、自分から連絡しようと携帯を手に取ると
「あっあとさぁ、翠ちゃん、龍海には他に好きな人がいると思ってるよ」
「え?」
確かに、好きな人がいる、と話をした。
でもそれは彼女のことなのに。
「今回のことは気の迷いだとでも思ってるんじゃない?
お前、本当に意識されてないんだね。」
「…ちょっと、行ってくる。」
「はいは~い、行ってらっしゃい。」
「たっくん、まずは土下座だよ~」
そんな二人の言葉を背に、家を飛び出した。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
12
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる