33 / 52
第七章
Ⅰ
しおりを挟む手を繋いだまま歩き続け、気付けば目の前には彼女の家。
まだ手を離したくない。
まだ一緒にいたかった、が。
「龍海さん、ありがとうございました。」
そう言って彼女が手を引こうとする。
仕方なく、手から力を抜いた。
「今日は楽しかったです。
ありがとうございました。」
「…あぁ。」
くそ、俺は相槌を打つこと以外出来ないのか。
「気を付けて帰ってくださいね。
それじゃあ、また。
おやすみなさい。」
…また。
また、次がある。
「あぁ。また。」
彼女の口からそれが聞けたことが嬉しくてたまらなかった。
「ただいま。」
「おかえり。」
「おかえり!
たっくん今日は来てくれてありがと!」
兄さんも琥珀も帰っていた。
「あぁ、琥珀もお疲れ様。頑張っていたな。」
「えへへへ~…
で、翠さんはどんな反応だった?」
「お前の使ってた小道具の仕組みが気になると言っていた。
どうやって火を出したのかと。」
「そうなんだ!楽しんでもらえたかな?」
「楽しんでいたと思う。
食事の間ずっと舞台の感想を話していた。」
「嬉しい!」
「食事も盛り上がったんだね。
良かったねぇ。」
二人ともにこにこと笑っている。
「よし、龍海。
このまま、ぬるっとお迎え再開しよう。」
「…そう、だな。」
「ちゃんと会話しなくちゃダメだよ!
黙って歩くだけとか、ストーカーと同じ!
たっくん、ストーカーに戻りたくないでしょ!」
「お前、それは極論だろう。
あと、俺はストーカーじゃない。」
「まぁ、琥珀の言ってることも分かるね?
食事とか、休日のデートとか、誘うんだよ。」
なんだか急にハードルが上がった気がする。
「食事は、まぁ…。
でも、で、デート…は…」
「獅音兄さん、急いじゃダメだよ。
急いては事を仕損じるよ。
特にたっくんはその傾向あるよ。」
琥珀は助け船のようなそうでないような、よく分からないフォローを入れ、
「生ぬるいなぁ。」
兄さんは少し不服そうにそう言った。
そんな話をした数日後、兄さんが一仕事終えた、みたいな顔で帰ってきた。
『翠ちゃんにお休みの日のうち、一日は絶対に外に出る用事つくってってお願いしてきたよ~』
果たして、それはお願いだったのだろうか。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
12
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる