本当に、愛してる

双子のたまご

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第二章

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「…どちら様、でしょうか…」

名乗った兄さんを見つめて源元 翠が尋ねる。
俺も兄さんも薬局で接客してもらったことがあるが、覚えてないらしい。
当たり前か。
薬局など一年に数回しか行かないし、俺も薬局で会ってから二年程経っている。
カフェでも会っているが、他の客なんて認識していないだろう。

「…紅のお知り合いですか?あの、紅は…」

「あー、うん。中に入って話してもいい?」

さすがに断られるんじゃないか、それは。

「あ、はい、どうぞ…」

え、こいつ、大丈夫か。

「うんうん。ありがとう。」

兄さんが部屋に入る。
…大丈夫なわけがないか。
家族が、死んでいるのだから。






「コーヒーで、いいですか?」

「お気になさらず」

「いえ…」

彼女がキッチンへ向かう。

「兄さん」

「うん。」

「彼女、相当…」

「そうだね。」

「これは、俺達の自己満足なのでは…」

「そうかもしれないね。」

「…」

「…彼女は、天涯孤独だ。
妹が死んで、独りになった。」

「…」

「親がいないところは、うちと同じだね。
兄妹支えあってきたところも。
でも、唯一の肉親が居なくなった。」

「…」

「自己満足でも、なんだか放っておけないよ」

コーヒーカップを持って、彼女が戻ってきた。





「ありがとう。」

兄さんが出されたコーヒーに口をつける。

「いえ…あの、」

「獅音でいいよ。こっちは千歳 龍海、弟なんだ。」

「弟さん…でしたか…」

目があった。
あった、が、俺のことは見ていない気がした。

「今日来たのはねぇ…妹さんのことでね。」

兄さんが、話を切り出す。

「僕たちは妹さんが死んだ事件の関係者。
というか、抗争の日本側の団体。」

ただ真っ黒だった彼女の目が、わずかな光を孕んで見開かれた。

雨の音しか、聞こえなくなった。
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