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観客席の、わたし。隣の席の、あなた。
その後 side:獅音
しおりを挟む彼女の返事を聞いて、たまらなくなって、また抱き締める。
奏ちゃんも抱き締め返してくれる。
嬉しい。
可愛い。
嬉しい。
あぁ、胸がいっぱいで、苦しい。
好き。
大好き。
「…好きです。」
…びっくりした。
無意識のうちにすべて声に出してしまっていたのかと思った。
「…んふ、どうしたの、急に。」
「言いたくなったんです。」
「僕も好き。」
僕、も。
君と同じ気持ちであることがこんなにも嬉しい。
奏ちゃんは照れ隠しなのか、僕の胸元にぐりぐりと頭を押し付けてくる。
可愛い。
可愛いつむじ。
いいかなぁ。
頭に、一瞬なら、チューしてもいいかなぁ。
耐えられなくなって思わず彼女の頭に唇を寄せる。
音で、何をされたかに気づいた奏ちゃんが僕を見上げた。
だめ、にやけちゃう。
次の瞬間、ぶわっと顔を赤くして奏ちゃんは固まった。
あまりに何も言わないから、
「あ…ごめん、嫌だった?」
不安になる。
「い、嫌じゃないです…!」
「良かった。」
…なんか意外と、うぶ?
元々照れ屋さんではあるけど。
「…あんまりこういうの、経験ない?」
全部僕が初めて、はないかもしれないけれど
あんまり経験ないなら初めてみたいなもの…
「いやそんなことは、」
…そんなことはないみたい。
自分で訊いておいて、むっとする。
訊かなきゃ良かった。
そりゃ元カレとか、いただろうけど。
…元カレ。
さっきのやつを思い出してしまった。
「いえ、あの、」
奏ちゃんもしまった、と思っているようだ。
やっぱり前の恋人の話なんてするもんじゃないな。
…でも、気になってしまう。
「さっきの男とは、したことあるの」
「え、
颯馬さん?」
あぁ、やだやだ。
「名前呼ばないで。」
「…あの人は、生徒のお母さんの弟さんです。」
「…元カレなの」
「違いますけど…」
「凄い迫られてたね。」
「あんなの、今日が初めてですよ。」
「ふ~ん…」
ふ~ん。そっか。
まぁあの時奏ちゃんは、はっきり僕のことが好きと言ってくれたし。
別にいいし。
「…獅音さん、妬いてるんですか?」
「そうだけど。」
妬いたりするの、僕ばっかり…
「かわいい…」
「え、」
「あっ、」
彼女の目が泳ぐ。
妬いてる僕が、かわいい?
人の気も知らないで。
「そう、かわいい?
かわいい…ねぇ。」
ちょっと困らせてやろうと、ぐっと顔を近づける。
「し、獅音さん…あ、え、あの、」
鼻と鼻がくっつきそうな距離になって、奏ちゃんがぎゅっと目を閉じた。
「…」
「…」
このまましてもいいけど、なんか色々止まらなくなっちゃいそうだし。
「わっ!」
奏ちゃんのおでこをぐっと押すだけにとどめる。
…心の準備できてないなら、もっとちゃんと抵抗しないとダメだよ。
「ふふ…チューされるかと思った?
残念。今度ね。」
あ~でもしとくんだったかな。
決断したあとに後悔。
そんな焦ることもないけどさ。
その時、僕のネクタイが捕まれて、ぐいっと引っ張られた。
「え、うわっ!」
え、なに。
え、なんで。
奏ちゃんの顔、こんなに近くに…
「んッ?!」
「ん…」
唇に、彼女のそれが触れる。
奏ちゃんは目を閉じていた。
オレンジのラメが彼女のまぶたを彩っている。
ゆっくり、彼女が離れていく。
今起こったことが理解できず、温もりが消えた唇を手で覆う。
ちゅー、されちゃった…
奏ちゃんと、ちゅー、した…
ぐわっと体が熱くなる。
はぁー、と、深く息を吐く。
落ち着け。
落ち着け。
「あのぉ…」
落ち着いて、いられるか。
「んぅ?!」
今度は僕から唇を寄せた。
「んぁっ、し、しおんさ…!んん…」
ちょうど彼女の口が開いていたから、そのまま舌をねじ込む。
なんか言ってるけど、知らない。
「んっ、んぅ…は、あっ…」
可愛い。
小さく喘いでいる彼女を薄目でみる。
彼女の閉じた瞳に涙が滲み始めたのを見て、そっと唇を離す。
「ん…」
「っはぁ、…はぁ…」
…危ない。危ないよ。
奏ちゃん、僕の鋼の理性に感謝した方がいいよ。
「…奏ちゃん。」
「はぁっ、…は、い…」
息を切らして、潤んだ瞳の奏ちゃんと目が合う。
「次は最後までする。」
「な、何を…」
「奏ちゃんが考えているようなこと。」
彼女の顔がもっと赤くなる。
奏ちゃんも奏ちゃんで、僕とのこと想像したりしてるんだぁ。
悪い気はしない。
むしろ、そうやって意識しまくればいいよ。
「分かった?」
「…はいぃ…」
「いい子。一緒に住む?」
「はい…えっ?」
「返事したね。」
あー、幸せ。
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