スピンオフ

双子のたまご

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本当は、愛してる。本当に、愛してる。

その後 side:龍海

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彼女を引き寄せて、抱きしめた。
彼女が、あたたかい。

「…夢みたいだ。もう、離さない。」

彼女の耳元に口を寄せて呟く。

「ん…」

くすぐったそうに笑った彼女の口から出た声に妖艶さを感じて、慌てて離れる。

「す、すまない。」

「いえ…」

気持ちを伝えたからといって、欲望のまま動くことを許されたわけではない。
いや、もう、時すでに遅し、ではあるが…
これからは違う。
側にいてくれることに慢心するのではなく、彼女のことを最優先に考える。
これからは、ずっと…

「あ!」

一人ぐるぐると考えていると、彼女が沈黙を破って声をあげた。

「な、なんだ?!」

「龍海さん、終電!帰れなくなっちゃいますよ!」

彼女は焦ったように腕の中でもがき始めた。
俺と一緒にいたくないわけではないだろう。
本当に心配してくれているのだ。
それは分かっている。分かっている、が…
面白くない。

「俺は…この3ヶ月程君に会えなくて、死んだように生きていたのに…
やっと会えたのに…
君はそんなに早く俺と離れたいのか?」

「そ、そんなことは…」

「俺は離れたくない。
というか、なんでこんなに遠いところに引っ越しているんだ。
君を探すのにも骨が折れた…」

彼女に離れていた間の辛さを語っていると、だんだん彼女の頬が赤く染まっていった。

「…なんか、龍海さんキャラ変わりました?」

「何故だ?別に変わってない。」

「そんな、ストレートに色々、言う人だったんですね…」

「君にはストレートに言わないと伝わらないことが分かったからな。」

「そう、ですか…」

照れているのか?可愛い。

「で、でもどうするつもりです?朝まで…」

「どうにでもなる。気にするな。」

俺のことなど、どうでもいい。
ただ、彼女が側にいることを感じていたかった。
彼女の髪に指を通す。
心配そうな彼女はされるがままだったが、ふと思い付いたように言った。

「それなら、今日は私の家に泊まりますか?」






「…え?」







「え?」

え?

「あの、龍海さん…?」

彼女は、何を言っている。

「と、泊まる…?」

「はい、」

「君の家に?俺が?」

「はい…」

「いや、それは…」

こ、れは…そういうことか?
彼女に、誘われている…?
いや、俺はまだそんなつもりは…ないといえば嘘になるが
そんな、こんな、大胆なタイプだったのか
なんと返事をすれば…

固まった俺をみて、また彼女が慌て出した。

「あ、あ、ごめんなさい。」

男を泊めることの意味が分かったのだろうか。
良かった。
…少し、残念な気もするが。

「いや、」

「私達、別に恋人じゃなかったですね!」




…は?
なんだその聞き捨てならない言葉は。





「…なんだと?」

「え、」

「俺達は恋人じゃないのか?
想いが通じあったのに?
君は俺が欲しいわけじゃないのか?」

俺が泊まることを躊躇ったから、そんなことを言うのか?

「ほ、欲しっ?!」

「俺は君が欲しい。」

君が許してくれるなら。

「た、龍海さん!
え、いやだって、泊まるの嫌そうだから…
それに別に、付き合おうとは言われなかったから…」

「な…」

衝撃。その一言に尽きる。

「…翠。」

「はい…」

「俺が悪かった。
すべてちゃんと伝える。」

「えっと、はい…」

「俺の恋人になって欲しい。」

「あ…は、はい…よろしくお願いします。」

「ありがとう。こちらこそよろしく頼む。
…あと、君の家に泊まるのは、嫌ではない」

彼女と共通理解が出来るように、一つ一つ話を進めていく。

「ただ…なんというか、その、
恋人と一つ屋根の下、というのは…」

だが、こればっかりは、なんといえば…
言葉を濁していると、彼女が急に明るく笑いながら言った。

「緊張しますよね!」

「え?」

「私も凄く緊張しますよ~初めてだし!
でも大丈夫です!
私はソファーで寝るので!」

「いや…え?」

「人の家に泊まるのって、落ち着かないですもんね…
龍海さんがゆっくり休めるように準備しますよ!」

彼女は、俺を泊めようとすることに色めいたことを何も感じていないことに、今、気づいた。

「…え、龍海さん?」

彼女は純粋に、100%善意で、家に泊まるかと聞いているのだ。最初から。

「そうか、そういえば、そうだったな…」

恋をしたことがない、恋人がいたことがない、と…
つまりそういった行為も、その雰囲気も分からないのだろう。
…これからもこんな、無自覚の誘いを受けることがあるということか?

「いや、俺は耐えられる。」

自分に言い聞かせる。
そうだろう。俺と彼女は恋人同士。
俺は彼女のもので、彼女が俺のものになった。
焦ることはない。
彼女が俺を受け入れてくれる日がいつになろうとも…

もう一度彼女の手を取り、彼女を見つめる。

「君を大切にすると、誓う。」

すると彼女は少し驚いたあと、花がほころぶように笑った。
…胸が苦しい。

「…ありがとうございます。
私も、龍海さんを大切にします。」

そう返事をしてくれた彼女を抱きしめ、大きく深呼吸をした。

大切にする。心も、身体も。
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