本当は、愛してる

双子のたまご

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第八章

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どうやって最寄り駅まで帰ってきたのか分からない。
地面を見て家までの道を歩く。

「…翠ちゃん?」

名前を呼ばれる。
顔を上げると獅音さんがいた。

「…獅音、さん」

「ちゃんとお休みの日に外に出てるね、えらいえらい。
お買い物に行ってきたの?」

「…」

「翠ちゃん?」

「あっ、はい…」

「そっかぁ。どこ行ってたの?」

「隣町のショッピングモールに…」

「あぁ、あそこ?
そういえば龍海も今日行くって言ってたな。
会った?」

「………いえ」

「ん?そうなんだね。…服買ったの?」

「…はい…」

龍海さんと、会う時のための…

「…えっ」

獅音さんが一瞬驚いた後、真剣な顔になって私を見つめる。

「…翠ちゃん、どうしたの。」

「…?」

「なんで泣いてるの。」

「え…?」

泣いている。
頬に触れると、確かに、濡れている。

「あれ?本当だ…」

「翠ちゃん」

「…なんでもないです。体調悪いのかも。
帰ります。」

「送るよ」

「いえ。」

獅音さんの返事を聞かずに歩きだす。
獅音さんは追いかけてこなかった。








家に着いた。
ソファーにコートのまま倒れこむ。
机の上においた紙袋を見つめる。

何を浮かれていたのか。

仕事の帰りは迎えに来てくれて、食事にも誘われる。
たまの休みは一緒に出掛けるし、好きなものは覚えていてくれる。
言葉少なだけど、いつの間にかこちらを見てくれている優しい人。
でも、きっとそれは相手が私に限らず、だ。
龍海さんが心を許しているのだと感じる相手。
そんな女性がいると、目の当たりにしてしまった。
そしてその女性は、龍海さんが言っていた好きな人なのだろうと、知ってしまった。



『翠ちゃん、龍海とは仲良くなった?』

『前よりは身構えずに話ができていると思います。』

獅音さんとの会話を思い出す。

『そっか~好きになっちゃったり?』

『別に元々嫌いじゃないですけど…』

『あは、そうじゃないそうじゃない!
恋しちゃった?ってこと。』

『恋、』


…恋。
恋、を、してしまったのか。
私が、龍海さんに。

袋から覗く赤。
…あの女の人はすべてが柔らかそうな人だった。
ピンクや黄色、春色がよく似合う。
私とは、全く逆。

袋から覗く赤のそばに光る緑。
あの店員さんはネックレスにあうと言ってくれた。
ネックレスに触れて、部屋に飾っている紅の写真に目をやる。

…恋だなんだと、何を浮かれているのか。
思い出の中で生きていくと決めただろう。



「…わたしだけ、しあわせにはなれない。」

写真の中で、私と紅が笑っている。
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