本当は、愛してる

第七章

Ⅰ

翌日から、龍海さんはおかしくなった。
宣言通りお迎えは続いた。
獅音さんが来ることはかなり減った。
食事は時々誘われていたのが、毎週末になった。
それに加えて

『次の休みはどこに外出する予定だ。
一人か？なら一緒に行こう。』

『この前話していた映画を見てみた。
今度続編がするそうだな。』

『今日はマフラーはどうした。
忘れた？風邪をひいたらどうする。
俺のをつけろ。』

過保護？になった。
こんなもの、余計龍海さんの想い人に勘違いされる確率が高くなるばかりじゃないのか。
龍海さんは何がしたいんだ…
久しぶりに会った獅音さんは、好きにさせておけばいいよ、とか言っているし。



「この前借りた本なんだが、」

「ヨルと森、ですか？」

「あぁ、全て読んだ。今度返す。」

「はい。面白かったですか？」

「あぁ。」

「誰の話が一番好きでした？」

「…ライラ」

どきっとした。

「…そうなんですか、何だか意外。
どうしてですか？」

「…君に、似ていると思ったから。」

私と似ているから、好き。
心拍数が上がる。
でもすぐに、似ているから想像しやすくて読みやすかった、だから好きと言うことだろうという結論に達した。
きっとそうだ。絶対そうだろう。

「そう、ですか…」

「でも一番感情移入できたのは、サンだな。」

「…どうしてですか？」

「ライラのことを幸せにできそうなのは、サンだったから。」

そうだった。
サンの話はライラの話と交わるところがあった。
でも…

「でも、サンは旅に出ちゃいましたね…」

サンはライラを気にかけていた。
何もなくなったのならこれから新しいものを手に入れればいいと、サンはライラに伝えた。
でも、ライラは拒否した。
失ったものたちと生きていきたいと、サンから逃げた。
サンは無理強いすることができない。
それがライラの想いならばと受け入れた。
一緒にいられないなら近くにいるのは辛いと、ライラをおいて旅に出てしまった。

「あぁ。だから結末には納得していない」

龍海さんを見る。
龍海さんは私を見ていた。

「俺なら絶対に、拒否されても、離れない。」

一瞬、私に言われているのかと思った。
耐えられずに目をそらす。

「拒否され続けるのは辛いでしょう…」

「拒む方も辛いだろう」

拒む方も辛い。そうだろうか。
差しのべた手を掴んでもらえない方が辛いと、私は思う。