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第六章
Ⅴ
しおりを挟む帰宅後、龍海さんにメールしなくてはと携帯を開く。
でもなんと送ろうか。
『昨日のこと、気にしないでください。』
なんか、上から目線では?
『魔が差したんですよね。気にしてないです。』
言っておいて虚しくなる。
どうしたものかと思っていたら、着信がなった。
龍海さんだった。
電話…電話?!
少し緊張しながら電話に出る。
「…はい。」
「…俺、だ。」
「はい…こんばんは、龍海さん。」
「…」
「…」
「「あ、」」
被った…!
「ご、ごめんなさい!」
「いや、」
携帯の向こうでふーっと龍海さんが深呼吸している。
「…今、家の近くまで来ている。」
「え?」
「少し、会って話ができないか。」
「あ…はい、今出ますね。」
通話を切る。
一度脱いだコートを羽織って、外へ出る。
向かいの家の塀に寄りかかってこちらを見ている、龍海さんがいた。
「き、昨日は…すまなかった」
龍海さんが頭を下げる。
「た、龍海さん…!」
「君の信頼に背いた行動だった。」
「あの、気にしてないので…!
頭をあげてください!」
龍海さんがゆっくりと頭を上げる。
罰が悪そうに、地面を見つめている。
「…勘違いをしているようなので、伝えておきたいんだが、」
勘違い…あぁ。
龍海さんが私のことを好きと勘違いしているのではないか、ということか。
「俺は…」
「大丈夫ですよ、龍海さん。」
「…は、」
「ちょっと魔が差しちゃったんですよね!
大丈夫、龍海さんにはちゃんと好きな人がいるって分かってますよ!」
変に明るく答えてしまう。
メールで伝えようか迷っていた言葉は、本人を前にすると案外すんなり口から出た。
龍海さんは黙ってこちらを見ている。
「考えてみると、好きな人がいるのに他の女の人のお迎えとか、ご飯行くとか…
見られたら勘違いされちゃいますよ。」
「…」
「だから、もう…」
「違う。」
聞いたことのない低い声にビクリと体が震える。
「…」
「迎えに来るのは、やめない。
食事に誘うのもやめない。」
「え、でも、」
「また明日、迎えに来る。」
「ちょっ、龍海さん、」
龍海さんが背を向ける。
何がなんだか分からない。
ただ、龍海さんを怒らせてしまったことは分かった。
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