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第六章
Ⅳ
しおりを挟む「あ、翠ちゃん。お疲れ様。」
「獅音さん…」
翌日、龍海さんは来なかった。
「龍海さんは…」
「あー…」
「…」
「なんかよく分からないけど、龍海が失礼しちゃったみたいだね。
昨日あいつ、顔色真っ青にして帰ってきたから驚いたよ。
翠ちゃんに会わせる顔がないって言ってた。」
「そんな、」
「ごめんね。」
昨日、龍海さんが帰ったあと、暫く動けなかった。
あれは何だったんだろう。
勘違いでなければ、き、キスされそうになった…?
顔がかっと熱くなる。
龍海さんは好きな人がいるはずだ。
なのに、どうして…
『男ってやつは!
近くに行けそうな女いたら行っちゃうのよ!
他に好きな人がいようが!彼女がいようが!』
『ちょっと紅、飲みすぎだって…』
『姉さん!変な男につかまっちゃダメだからね!
ちゃんと私の審査を通してください!』
『そんな相手いないこと、紅が一番よく分かってるでしょ…』
『うぅ~あのクソ男ぉ…』
『水飲みなって…』
紅が当時の彼氏に浮気されて、浴びるようにお酒を飲んでいた日を思い出す。
行けそうな女がいたら行っちゃう…つまり…
「龍海さんには、気にしないで欲しいって伝えてください。
私も帰ったらメールしてみます。」
つまり、魔が差したのだろう。
「…そう?ごめんね、うん、伝えておくよ。」
獅音さんはほっとしたようにそう答える。
「あ。あと、これ。」
鞄から本を取り出す。
「龍海さんに渡してもらってもいいですか?」
昨日、龍海さんが忘れていってしまった本。
「龍海に?分かったよ。」
獅音さんが一瞬不思議そうな顔したあと、ニヤリと笑った。
「…翠ちゃん、龍海とは仲良くなった?」
仲良く…
「前よりは身構えずに話ができていると思います。」
「そっか~好きになっちゃったり?」
「別に元々嫌いじゃないですけど…」
「あは、そうじゃないそうじゃない!
恋しちゃった?ってこと。」
「恋、」
顔が熱くなる。何故だ。
「恋、とか、じゃないですよ~…」
獅音さんの目は見ずに答える。
「龍海さん、好きな人がいるみたいですし…」
その言葉を口にしたとき、胸の辺りがぐっと重くなるのを感じた。
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