本当は、愛してる

笹 司

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第六章

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「ご馳走さまでした~
美味しかったですね。」

「あぁ。」

龍海さんがコーヒーに口をつけながら答える。

「あ、本持ってきますね」

ドーナツをしまいながらそう話しかける。
寝室に向かい、本を本棚から探す。
見つけた。
部屋に戻ってまた龍海さんの隣に腰かけた。
今度は何も反応されなかった。

「はい、どうぞ」

「あぁ。」

龍海さんが本を受けとる。

「…どんな話だったんだ。」

本について訊いているんだろう。

「一つの出来事に関わる、色んな人達の群像劇、みたいな感じですかね。」

「なるほど。」

龍海さんが目次に目を通す。

「誰の話が一番良かったんだ」

目次にはそれぞれの話の主人公とされる登場人物の名前が連なっている。

「それは…」

龍海さんの手元を覗き込む。
本当は、ライラという女の子の話が一番感情移入できた。
何もかも失って、結局それを埋めるものは何もない。
思い出の中で生きていくことを決めた強い女の子。
この前見た舞台の、マリーのエンディングよりも、ずっと納得できた。
でも…

「ベラですかね。
明るい話で、元気が出ました。」

「…そうか。」

最近は獅音さんの言いつけで外に出ることが増えたからか、何かをしよう、という思いになることが増えた気がする。
本屋に行く、カフェに行く、散歩に行く、花屋に行く…
色んなものに触れて、でも結局は紅との思い出に行き着く。
この本を読んで元気が出たことは嘘じゃない。
一人で生きていけそうだと、
思い出の中で生きていこうと、
私もライラのようになれると。

「…君は」

「え?」

龍海さんの方を見る。
本を覗き込むために、近寄ってしまっていたみたいだ。
思ったよりも顔が近い。

反射的にのけ反る肩に龍海さんの手が触れる。
そのまま背中がソファの背もたれへ倒れる。
龍海さんに、押されている?
これ以上後ろに行くことができない私に、龍海さんが近づいてくる。
天井の電気が龍海さんの背中に隠れて、影ができる。
龍海さんの右手が私の左頬に添えられる。
龍海さんの目の中に、私がいる。

「……た、つみ…さん…」

消えそうな声で龍海さんの名を呼んだ。
瞬間、弾かれたように龍海さんが離れた。

「あ…す、すまない!失礼する!」

龍海さんが上着と荷物を乱暴に掴み、玄関に向かう。
ガタン!と龍海さんの体がどこかにぶつかる音が聞こえた。
扉が、閉まる。
私は動けないまま、龍海さんが飲んでいたコーヒーに目を移す。

「あ…」

龍海さん、本、忘れていってる。
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